第104羽♡ 穏やかな日常
7月12日木曜日――
前園凛と宮姫すずが和解した翌日の昼休み。
いつものモップ会メンバーを集めて空き教室で昨日のことを報告をすることになった。
楓、リナ、さくらが見守る中、肝心の前園と宮姫はというと気まずいのか俺の後ろに隠れている。
リナには昨晩、帰宅してからすぐに話をしたし、楓には今朝の登校時に、さくらにもRIMEで内情は伝えているため、三人とも前園と宮姫が和解していることは既に知っている。
残りは当事者ふたりの口から『わたしたち仲直りしました』と伝えてくれればこの件は終わり。なんだけど話が進まない。
乗り掛かった船だし、ここは俺が切り出した方が良いだろうか。
よし……
「みんな何となくわかってると思うけど、前園と宮姫が仲直りというか元通りになった。皆も心配してたと思うけどもう大丈夫だから」
「そ、そうなんだ! 凛ちゃん、すずちゃんおめでとう、良かった、ホント良かったよ。わたしは凄く嬉しいよ」
出だしがやや不自然だったが楓は心の底から嬉しそうに笑顔を浮かべる。
前園は楓が一番仲の良いクラスメイトだし宮姫は幼馴染。
楓にとって大切なふたりが仲直りしたことが嬉しくないはずもない。
「おぉ~凛ちゃん、すず、良かったのだ! わたしも体を張った甲斐があったよ」
「リナ……お前は体張るようなことをしてないだろ」
「わたしが体を張った作戦をやろうとしたら兄ちゃんが止めたくせに」
ノーパン・ノーブラ・ニップレスの3N大作戦のこと?
あんなの止めるに決まってるだろ。
というかそもそもあれは冗談だよね?
「凜さん、すずおめでとう、わたしも自分のことの様に嬉しいわ」
最後にさくらが控えめな祝福を送る。
今回の件はさくらの協力がなければ俺は答えに辿り着くことができなかっただろう。
だが影の功労者であるオレのフィアンセ様は表に出ることはない。
困った時は当たり前のように助けてくれるくせに見返りは求めない。
赤城さくらは出来過ぎな女の子だ。
「ありがとう皆……あとすまない、これまでオレ達のいざこざに巻き込んじゃって」
前園が申し訳なさそうに告げる。
「凛ちゃん気にしないで、わたしたち何とも思ってないから」
楓がぎゅっと前園の手を握りしめる。
「楓ありがとう……ところで」
「ん?」
「オレがすずすけとイチャイチャしたら楓は嫉妬してくれる?」
「凛ちゃんとすずちゃんが……でも女の子同士だし多少のスキンシップは……」
「オレは楓がオレ以外の女の子とイチャイチャしてたら嫉妬するよ」
楓に顎クイし、笑みを浮かべる前園はまるで少女漫画の俺様系イケメンのようだ。
一方急変した前園に楓はついていけずノーガードのまま攻められ困惑した表情をしている。
「ちょ、ちょっと凛ちゃん!?」
「じっとしてろ楓」
「え……はっ、はい」
目の前にイケメンフェイスが迫ると楓は顔が真っ赤になり動けない。
どうやら俺の親友が大ピンチのようだ。
止めないといけない。
でも……これ前園が楓と前によくやっていた煌びやかで尊いやつでは!?
うん、そうに違いない。
親愛にあるお姉さまへ……
閉ざされし空き教室の隅で放課後の天使前園凛様と月明かりの天使望月楓様が気高くも美しい白き花を咲かせてようとしております! なんと麗しいことでしょう!
心の中の白薔薇宮殿に住まう妄想百合お姉様 (縦巻きロールで常に扇子を持ってて一人称はワタクシ、語尾はですわ。ただし、どこかの猫と同様で名前はまだない)に問いかける。
――だがその時
「いたたたたっ……ちょっとやめろってすずすけ」
プリンセス楓の窮地を救うべく勇者宮姫は、悪のイケメン前園の腰を後ろからつねる。効果は絶大だ。
「お凛ちゃんわたしの前で何をやってるの?」
「見ての通り楓をナンパして……いたたたっ! つねるのやめて跡が残っちゃう」
勇者宮姫は引き続き悪のイケメン前園に攻撃を加える。効果はやはり絶大だ。
「楓ちゃんが困ってるでしょ」
「待てすずすけ……これには深い事情があってだな」
「事情って何?」
ジト目で見る宮姫に前園はたじたじになってる。
以前、ドラマで見た浮気がバレたダメ男みたいに……
「楓はかわいいしオレはどうしてもからかいたくなる。でもそんなオレをかわいいすずすけに窘めてほしい」
「そんなの知らない」
宮姫プイッと顔を横に向けてしまう。でも顔は赤くて、どっか嬉しそうにも見える。
「ちょっと拗ねたすずすけもかわいい……」
「見ないでよ!」
「やなこった……オレはすずすけのかわいいところを独り占めにしたい」
「恥ずかしいからやめて!」
ダメな彼氏に手を焼く彼女ポジの宮姫といった方が適切か?
となると楓の立ち位置は?
ライバルヒロインか?
これが三角関係なのか?
「ふむ……やはり凛ちゃんみたいなイケメンは恐いにゃ」
「そうよリナ、イケメンは地球上で最も獰猛で危険な生き物よ」
黙って宮姫たちの言動を見守っていたリナとさくらがヒソヒソと話している。
イケメンが地球上で最も獰猛で危険な生き物と言うところは俺も同意する。あいつらは美少女と言う名の希少資源を独占する。イケメンが通り過ぎた後は草の根も残らない。
「はっ! ひょっとしてぷりちーなわたしも凛ちゃんに狙われてるのでは!?」
「リナあなたのような小さなお子様は大丈夫よ」
「そうか~良かった……って小さなお子様じゃないし! 15歳現役JKだし! ”ないすぼでぃ”だしぃいい――!」
「ないすぼでぃ(脳内設定)乙ね」
「脳内設定じゃな――い! 何なら見せてやろうか? この身に秘められし理想的なくびれをなぁあ!」
リナはブラウスを指先でつまみ今にも脱ぎ出そうとしている。
お~い妹……この場は女の子ばかりだけど、若干一名男が混じっていることを忘れてないか?
「知ってるわあなたのバスト、ウエスト、ヒップが全部同じサイズなことを」
「そんなスマホみたいな長方形体系じゃない!」
スマホというよりロボットみたいだな。
JK義妹型ロボ リナ・タカヤマ
本体の特徴はわがままです。ポンコツです。よく食べます。でもかわいいです。
さて……何の話してたかわからなくってきたし……そろそろ止めるか。
「さくら……その辺にしとけ」
「あらカスミ君はリナの肩を持つのかしら? ちょっと焼けるわね」
「どっちの肩も持ってない、そろそろ昼飯を食べよう」
「そうね」
「じゃあいただきまーす!」
「「「「いただきまーす!」」」」
楓の号令で、俺たちは和気あいあいと昼食を楽しんだ。
ん~なんかとても平和。
こんな日々がいつまでも続いてほしい。
そんな安定シナリオはどこにも用意されてないのは分かってるけど……
◇◇◇
「ところで兄ちゃんは昨日遅くに家に帰ってきたけど、すずも家に帰ったの?」
「ううん。わたしはお凛ちゃんの家に泊らせてもらって、今朝一度帰宅してから学校に」
「なんやて!? それはつまり朝帰りじゃないかぁあ――!」
リナがまた大きな声を出す。
少し前までリスのように頬に食べ物もたくさん詰めて膨れていたけど、今はもう胃の中に押し込んだのか萎んでいる。頬に詰めたままだと叫んだ瞬間にご飯粒が飛んできたに違いない。
「そうだけど、泊めてもらっただけだよ」
「平日ということを除けば同級生の家に泊ることは珍しい事でもないし、怪しい事でもないわ」
さくらがなだめるようにリナに告げる。
「むぅ……そうだけど」
「でもどうしても気になるなら確認すれば良いじゃない、あなたの持つS級スキル『ケルベロスの嗅覚』で」
「ふっ……せやな! さくらの言うとおりだ。凛ちゃん、すず、確認させてもらうよ、我が鼻の前では何人たりとも嘘を付くことはできない。きしゃぁあああ――S級スキル『ケルベロスの嗅覚』発動!」
怪人の様な叫び声と共にリナのS級スキルは発動された。
『ケルベロスの嗅覚』……何それ?
その厨二臭のするネーミングは誰が付けたの?
確かケルベロスって確か首が三つある地獄の番犬だったような。
うちの妹はそんな怪しげなものではなく、少しおバカなだけの普通の女子高生だよね?
まさか異世界転移して女神にスキルを貰ってきたとか!?
それとも俺が知らないだけで異世界から逆転移してきた異世界人だったとか!?
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