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収穫祭

 いまはちょうど収穫の時期。領地内の各地では、豊穣を祝う祭りや宴が盛大に行われる。毎年、各地からお誘いを受けている。


 じつは、いまはもう存在しないであろうわたしの一族は、癒しや加護を施すことの出来る力を有している。だからこそ、弱小でありながら国としてかろうじて存続出来た。その強い力によって、国は周囲のどの国よりも豊かだったからである。もっとも、周囲の列強国たちはその力を欲し、あるいは恐れていた。だからこそ、彼らはわたしたちの国に攻め入り滅ぼしてしまったのだけれど。


 それはともかく、そういうわけでこんなわたしでもその力はある。


 これまでのたらいまわし生活では、一度たりとも力を使おうなどとは思わなかった。それどころか、ひた隠しにしてきた。その力を、ここに来てすごすうちに使ってみたくなった。というよりか、領地内の人たちが等しく平和でせめて一日の糧に困らない生活をしてもらいたい。つねにそのように願っている。そう願っている内に、自然と力を使っていた。癒しと加護の力を発動させていたのである。


 以降、疫病や天候不順や水不足などはいっさい起ってはいない。


 が、自分ではカニンガム公爵家の領地内、もしかするとその周囲の領地に影響が及んでいると思っていた。


 それは、思い違いだった。


 わたしの力は、わたし自身が思い込んでいる以上だった。


 つまり、このリミントン王国全域にまで及んでいるのである。


 いいえ。もしかすると、周囲の国々にまで及んでいるかも。


 でもまあ、悪い影響ではない。たとえば、まったく真逆の力で疫病や飢饉や災害が溢れ返るというわけではないのである。


 まぁいいじゃない。


 ということにしている。


 そのようなわけで、そのことをどこから知ったのか、領民たちは毎年収穫の時期になると招いてくれる。って、違うわね。その時期だけではなく、春夏秋冬すべての季節になにかしらの理由をつけては招いてくれる。わたし自身、そういう招きは嫌いではない。時間と体力があり、タイミングが合うときには、出来るだけ招きに応じることにしている。


 今回もそうした。


 バートが来るらしいけれど、そのことを招きに応じないという理由にはしたくない。つまり、そんなくだらないことで、せっかくの招きを断るのはバカバカしい。


 というわけで、予定通り出かけることにした。


 今回は、管理人のクリス・ドレイクが留守をする番。だから、彼に留守を任せることにした。ちなみに、屋敷のみんなには順番でいっしょについて来てもらっている。みんなにも享受してもらいたいから。それから、息抜きの為に。


 他は、執事のユリシーズ・ブレナン、雑用係のイアン・ジョンソン、メイドのクレア・ノースリッジとシンシア・エイムズ。わたしたちを連れて行ってくれるのは、馭者のザカリー・バートン。


 カニンガム公爵家の二頭立ての立派な馬車で、予定では十日前後くらいで領地内をまわることにしている。それなら、多少前後してもバートがやってくるまでには戻って来れるかもしれない。


 留守番の管理人クリスにバートの対応を頼み、意気揚々と出発した。


 それが、バートから手紙を受け取った次の日のこと。


 領地内の各地で行われる祭りや宴は、昔から受け継がれている伝統ある祭りや宴で、それぞれ趣向を凝らしていてとても楽しい。


 どこも共通していることは、与えられた恵みとみんなが平和ですこやかにいられることを感謝している、ということである。


 その対象が、神であり大地。そして、領主。


 一応、癒しと加護の力を施しているわたしもその対象で、どこに行っても大歓迎される。というか、待ち構えてくれている。


 一番のイベントは、どこも食べたり飲んだりで、さまざまな料理や葡萄酒が尽きることなく供される。


 とにかく、どこに行っても際限なく飲食物を出してくる。そのすべてを食べたり飲んだりするのは、ある意味苦行である。


 が、断れるわけがない。というか、せっかくの祝いの席上で断れると思う?


 それにわたし自身、食べたり飲んだりが大好き。さらには、祭りや宴の雰囲気が大大大好き。


 というわけで、どこに行っても最後まで付き合うのがわたしの流儀。


 今回も例にもれず、各地で大いに楽しんでいる。


 わたしだけでなく、もちろん同行してくれている他のみんなも楽しんでいる。

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