まぁ、いいか
「おまえとは離縁だ」
再度冒頭を読み直した。
それから、二行目以降に目を通し始めた。
開け放たれた窓の向こうでは、小鳥たちがお喋りをしている。牛や羊や山羊の呑気な鳴き声が風に乗って流れてくる。
そういう耳にも心にもやさしい音をバックに、感情をさしはさまず頭の中を真っ白にして読み進めた。そして、読み終わった。
(なるほど……)
手紙を机上に放り投げると、それらは弧を描きつつ落下していく。
椅子の背に背中をあずけた。
手紙によると、バートはここに来るらしい。いいえ。来るらしい、という表現は違うかもしれない。
彼にとっては、「帰ってくる」あるいは「戻ってくる」になるでしょうから。それはともかく、彼曰く「おまえがこの手紙を読む頃には、王都を出発しているだろう。おまえはそんな田舎で好き放題やって贅を尽くしているみたいだから、おれみずからが戻ってやって領地内の経営をやり直してやる。だから、おまえはおれが到着するまでにきれいに消えておけ」
ざっとこのような内容だった。
ああ、そうそう追伸があったわね。
「追伸 おれがほんとうに愛しているレディを連れて行く。盛大に婚儀を行い、そのあと領地の経営を立て直して落ち着くまで二人で楽しむ」
と、さらにバカみたいな内容がつづられていた。
まぁ追伸の部分に関しては、「だから?」とか「でっ」とか、問いたくなるけれど。
つまり、彼はあたらしい妻を連れて帰ってくるということね。
ということは、移動手段は馬車。いくらなんでも、自分の足で歩いてとか走ってとかはないでしょうから。くわえて、バートも彼のほんとうに愛するレディも旅慣れない。しょっちゅう休息をとったり、すぐに宿でゆっくりしたいとワガママ放題言い、実際そうするはず。
ということは、ここにやって来るのはだいたい七日後か八日後? もしかしたら十日ほどかかるかもしれない。
わざわざこんなところまでやって来て、気の毒かもしれないわね。
とはいえ、彼らは王都を出発しているので「来なくてもいい」と返信を送るわけにもいかない。
もっとも、あれだけ何度も手紙を送ったり人に伝えに行ってもらっても一度たりとも連絡がつかなかった。というか、返信や返事がなかった。
返信を送ったところで見るわけがないでしょうけれど。
「まっ、いいか」
そう結論付ける。
そして、もう一通の手紙に手を伸ばした。それから、姿勢を正して熟読し、すぐさま返信を認めた。