あなたはもうどうでもいい存在よ
「ちなみに、わたしはこの前あなたが手紙を送りつけた本人。つまり「離縁する。出て行け」、と宣言した相手よ。わかる?」
バートは、ここまで言ってもまだボーッとしている。
彼を見下ろしながら、つくづく思った。
自分が結婚していることを覚えていたのは奇蹟よね、と。
もっとも、結婚していると思っているのは彼だけなんだけど。
「さらに言うと、あなたはまだ結婚している気になっているけれど、わたしたちはとっくの昔に離縁しているの。さらにさらに言うと、それと同時にあなたはカニンガム公爵家から除名されたの。あなたは、勘当どころか『ない者』なわけ。さらにさらにさらに言うと、離縁後にあらためてわたしが義父母の養子になったの。だから、わたしがこのカニンガム公爵家の当主の座と領主の地位を継いだわけ。あなたではなく、ね。これらのことは、あなたに何回、何十回と知らせたわ。それこそ書面や伝達者を送ってね。だから、あなたが知らないのは自業自得よ。それと、あなたがカニンガム公爵家から除名されて以降の王都にある屋敷の家賃、生活費などすべての費用は返してもらうから。今回、あなたが立ち退かないから、王都にいる弁護士を通じて強制的に立ち退いてもらったわけ。逮捕状も出ているから、間もなく王都から警察関係の方がやってくるでしょう。だからさっき、ここからはやく出て行くことを勧めたの」
彼にしてみれば、情報量が多すぎたわね。
「えー、それってバートが無一文になったってわけ?」
バートの愛する人の方がまだ理解力があるみたい。
「ええ、そうね。レディ、あなたも同罪よ。勝手にわが家の財を脅かしたのだから」
「冗談でしょう? 彼が勝手に使ったのよ。それに、脅かすほど贅沢させてもらってないわ。自分ばかり使って。まぁうちも貧乏じゃないから、こんな奴の微々たるお金を頼る必要なんてないけど」
「えっと、レディ。あなたのことは、不義の相手として訴えているの。そのことを、あなたのうちの人に伝えたら、あなたを勘当するとずいぶんと怒っていたみたい」
「嘘よ。不義の相手って、わたしはそんなんじゃないわ」
「バートは、まだ結婚しているときからあなたと火遊びをしていたの。だから、充分不義の相手として成り立つの。証拠も揃っているから、不義の相手としての立場は覆ることはない。だけど、反論したいのならどうぞご自由に。弁護士を雇ってね」
「そ、そんなぁ……。ひどい、ひどいわ。だましたのね、バート」
「いや、違う。だましたんじゃない」
「だましたんじゃない。このデブのほら吹きっ!」
バートの愛する人は嘘泣きを始め、バートは真っ赤な顔で言い訳をしている。
そして、罵り合いを始めた。
それを見ながら、亡き義父母が天国で溜飲を下げてくれていることを祈らずにはいられない。
「いや、ちょっと待てよ。おまえの話、信じられるものか」
バートは、散々二人で聞くに堪えない言葉の応酬を繰り広げた後につぎはわたしに矛先を向けてきた。
「おれの親にどうやって取り入ったんだ? ああ、なるほど。そうやってうまく取り入った後に殺したんだろう。毒か? それとも、首でも絞めたか?」
レベルの低い彼のこと。そういう「いかにも」的なことを言われるのは想定していた。
こんなくだらない誹謗中傷でいちいち腹を立てるつもりはない。
彼については、もうどうでもよくなっているし。




