やはり太ったのね
「彼は到着した日から当たり前のように主寝室を使い、わしらを顎でこき使い、ワガママ放題の贅沢三昧。ポール様とダイアン様の衣服を、『古めかしい』とか『こんなダサいドレスありえない』だとか言うわりにはちゃっかり着用し、ずっとダラダラすごしています。あの様子を見れば、ポール様とダイアン様の決断は英断だったとつくづく思いますな」
クリスの説明は、想定内のこと。
最後の彼の見解が、ジョニーとローラとまったく同じだったから笑いそうになってしまった。
(だれだってそう思うわよね)
わたしもつくづくそう思う。
「アミ様があの愚か者どもに一発かましてくれると、みなが楽しみにしております。だから、いまはただ耐え忍んでいるというわけです」
クリスは、わたしにプレッシャーをかけてから豪快に笑った。
「ええ、そうですね。だったら、気合を入れないと。では、行きましょうか」
言葉通り気合いを入れ直し、歩き始めた。
母屋の居間でダラダラすごしているバートに一発かます為に。
母屋の厨房にある裏口から入ることにした。
わたしたちが近づきつつあるのを窓から眺めていたらしい。みんなが厨房に集まってきた。
「アミ様、お帰りなさい」
「アミ様、お帰りなさい」
口を揃えて「お帰りなさい」と言ってくれた。
(帰るところがあるって、ほんとうにしあわせなことだわ)
つくづく感じずにはいられない。
「みなさん、ただいま戻りました。留守を守って下さり、ほんとうにありがとうございます。それと、彼のことでご苦労おかけしています」
「苦労だなんて……。でも、アミ様。すっごく嫌な人たちですよ」
「そうですよ。まぁ、貴族なんて本来ならみんなあんな感じなのかもしれませんけど」
「アミ様とポール様とダイアン様が他の貴族とは違うのね」
「それよそれ。アミ様たちがかわっているのよ」
「こらっ! かわっているとはなんだ? わしらにとったらありがたい話ではないか」
クリスに叱られ、メイドたちは舌をペロリと出した。
「アミ様、ごめんなさい」
そうして謝ってくれたけれど、わたしはかわっている。自分でも、それを自覚している。
「いいのです。義父母はともかく、わたしはかわっていますから。それよりも、彼らは?」
「居間の長椅子でお昼寝中です。主寝室をこれ以上使われたくありませんので。大掃除をするからと居間に移動してもらったのです」
「アミ様。主寝室は、掃除だけでなく消毒もしておきました」
「あの二人、まるで悪い菌だわ。アミ様、さっさと屋敷から追いだしてください」
「追いだし次第、屋敷全体を消毒しなきゃ」
メイドたちは盛り上がっている。
バートも気の毒ね。ここは生家のはずなのに、その使用人たちに「悪い菌」扱いされて。
「それじゃあ、行ってくるわね。そうそう。予定通りお客様がいらっしゃるので、よろしくお願いします」
「もちろんですとも。いよいよですね」
「楽しみだわ」
「そうよね。まるで自分のことみたいにドキドキもしているわ」
メイドたちは、さらに盛り上がっている。
「アミ様、キャリーは来てくれるのですよね?」
カニンガム公爵家の料理人に尋ねられ、おおきく頷いた。
「ならば料理は任せて下さい。二人で最高の料理を作ります」
「よろしくお願いします」
料理人に頭を下げ、厨房を出て行こうとしてふと思いついた。
「あの、わたし、かわったことないかしら? というか、どこかかわったかしら?」
みんなに尋ねると、男性である料理人や雑用係たちは「太りましたか?」と、いわれのない誹謗中傷を投げかけてきた。しかし、メイドたちはニヤニヤ笑って「えー、そこはわからないふりをするところですよね」と口々に答えた。
やはり、太ったということね。
まっ、いいんですけど。
なかばヤケ気味になりつつ、厨房を出て居間へ向かった。
クリスとユリシーズを従えて。




