弁当
⑨
週が明けて、早速百合の店に行った。
ところが、長蛇の列であった。
数十人は並んでいる。
「すみません、最後列はこちらでーす、ありがとうございます!」
弟が順番待ちの整理をしている。
達也は、これは今日は無理だなと思い、待たないで帰ろうとした。
角を曲がったところで、声がした。
「お客さん、待ってー」
弟だった。
「これ、姉貴から。持っていって」
弁当を渡された。
「お客さんが見えたら、渡すように言われたんだ。しばらく混むからって」
「え、そんな」
「いいから、いいから。またお待ちしてますー」
弟は、達也の胸に押し付け、引き返し、再び、順番待ちの整理を始めた。
達也は、驚くと同時に、百合が自分のために作ってくれたことに、何とも言えない喜びが湧いてきた。
帰り道、にやけてしまいそうになり、気持ちを抑えて歩いた。つい、急ぎ足になり、アパートに着くなり、満面の笑みを抑えなかった。
手も洗わず、すぐに弁当を開いた。
弁当はひとつひとつのおかずが色とりどりに丁寧に作られているのが一目で分かった。
全てが美味しかった。
達也は、百合にお礼が言いたかった。
そういえば、店のチラシに、電話番号が書いてあったことを思い出した。
営業時間終了は午後九時か、それまでは忙しいな、終わった電話しようか、あと一時間か。
達也はその一時間がとても長く感じた。