財宝の数々
「ね、すごいでしょ。これも財宝の一つ。これだけで欲しがる人なら豪邸が立つくらいの値段で求めるわ」
シャルロッテが自慢げに語る。
「マジックアイテムって、本物だったんだ! おうちにこんなのがあっただなんて、素敵!」
リレイは鏡を持ち上げてまじまじと見つめている。
「大変な物もあるわよ。魔神竜の封じられし宝玉とか」
「それなぁに?」
リレイは興味心身で尋ねた。
「文字通り、悪い魔神竜というやつが封じられているの。暴れ者だからそのままにしておくのが良いわね。そういう災いを呼ぶアイテムを封印する為に物置の扉に封印札が貼られているのよ。私が最初にリレイへ話しかけたときは赤い月の夜で、封印札の効力が弱まっていたみたいね。そうでなければあたしの声が外に伝わらないのだもの」
リレイは遠見の壁鏡を水鏡でできたゲートの中に戻した。
「それなら封印札はそのままにしておかなきゃダメだよね」
「何度も張りなおすと効力が弱まるわ。だからこれ以上は剥がしてしまわないようにね」
リレイは頷いた。そんな恐ろしい物があったから封印はされていたし、母親も中に入るなと言っていたのだろう。
「それにしても鏡扉の鍵は便利ね。倉庫の中にお洒落なお洋服とか靴は無いのかしら?」
リレイは年頃の女の子なので、そういったものにとても興味があった。シャルロッテはうーんと唸って考えている。
「そうね。ちょっと待ってて」
シャルロッテは再び水鏡に飛び込んだ。どうやら何か心当たりがあるようだ。そして今度は一足の革靴を持ってくる。
「これはなぁに? 魚のひれが付いた変わった靴ね」
「水の上を歩ける魔法の革靴よ。魔法の靴だから、サイズは履いた人の足に合わせられるわ」
シャルロッテは靴をとんと床に置いた。
「すごいわ! デザインがもっと可愛らしかったら良かったのに」
リレイがそう思うのも当然だ。飾りはあっても、それが魚のひれのようなモノではお洒落感が出ない。
「あら、お気に召さなかったかしら。それは残念ね。まぁ、魚のひれはちょっとね。道具のイメージって物があるのでしょうけれど、普段使い用にするにはふさわしくないデザインよね。これを作ったのは女性ではなく男性に違いないわね。ねぇ、リレイには特に水の上を歩きたいって願望があるわけでは無いでしょう?」
「あはは、そうだね。水の上が歩けても、それで何をするのかなって感じ」
「じゃあ、これは無用の長物ってやつね」
シャルロッテは水鏡の中に飛び込んで、革靴を置いてくる。そして再び戻ってきた。
「シャルロッテは物置の中に何があるのか把握しているの?」
「把握しているわ。長い間倉庫の中にいたのですもの。どこに何があるのかくらいすぐにわかるわよ。倉庫番が任された仕事ですし」
シャルロッテは少々不機嫌そうに倉庫番と口にした。たぶん不本意だったのだろう。
「それはお父さんが・・・・・・なんだかごめんね」
リレイは困った表情でシャルロッテに謝罪する。まるで自分が悪い事をしたように感じた為だ。
「リレイが謝ることなんて無いわ! それもこれもリキッドが早く帰ってくれば良かっただけのことなのよ! 一体どこをほつき歩いているのかしら!」
シャルロッテは顔の表情が変わらない、と言うか笑顔のデザインなのだが、そんな表情のままでぷりぷりと怒っている。リレイはそれがなんだかおかしかった。
「そうだ。そろそろ友達とおしゃべりする時間だわ。広場に行きましょ」
リレイが出かける支度を始める。シャルロッテは浮かび上がってリレイの後を追いかけた。