怒りの幻影
「ヴェルダードー! 大丈夫だった?」
魔神竜の足元にリレイが駆け寄った。
「リレイよ。あの魔物は魔法生物に近い何かだった。少なくとも生きた存在の気配が無い。何かしらにより作り出された物体のようなものだ。気をつけろ。まだ何か出てくるかもしれない」
魔神竜はいまだ周囲を警戒している。
村人達は暴れていた魔物が消え失せた事を確認して、リレイとヴェルダードのところへと集まりだした。
「おぉ、魔神竜様!」「ありがたやありがたや! 魔神竜様が魔物を追い払われた!」「我らが守護神様じゃ!」と村人達はヴェルダードを崇めたてている。
リレイはヴェルダードの言葉を聞いて、なぜかふいに夢想写しのクリスタルの事が気になった。
「わかった! きっとあれが原因なんだわ!」
リレイは駆け出した。そしてアンスの家へと向かった。
リレイはアンスの家のドアを叩いた。
「リレイちゃん。血相を変えてどうしたんだい?」
家主とアンスが家の外にいて、ドアを叩いているリレイを驚いて見ている。アンスの腕の中には夢想写しのクリスタルがあった。
「アンス君。そのクリスタルの事なんだけれど・・・・・・」
リレイが何かを言いかけた時、アンスはぶるぶる震えていた。
「あっ、あのばけもの・・・・・・僕が夢の中で見たものと同じだった・・・・・・」
「やっぱり! 怖い夢を実体化させちゃったのね!」
リレイの予測は当たっていたようだ。
だが、次の展開はリレイの予測を超えたものだった。周囲の人々がリレイ達の話を理解する。
「なんだってー!」「あの化け物はリキッドさんの魔法道具によるものなのかい?」「なんとしたことだ! そんな危険なものは子供から取り上げろ!」と人々は騒ぎ始める。
ある者は驚愕し、ある者は怒りを露にしながらアンスに迫った。
アンスは恐慌状態に陥った人々の姿を見て恐怖する! クリスタルが光を放ち、あたりに無数の光を放ち始めた。光は村中にまき散らかされていく。
「大変! アンス君。これは私が預かるわ!」
リレイはアンスから夢想写しのクリスタルを取り上げた。クリスタルは光を失い、やがてただの七色の石へと落ち着いた。
「リレイー! 大丈夫だったかしら?」
そんな叫び声とともに飛んできたのはシャルロッテだった。
「私は大丈夫よ。騒ぎはヴェルダードが治めてくれたわ。シャルロッテ、これを倉庫に戻して」
リレイは夢想写しのクリスタルをシャルロッテに渡した。シャルロッテは騒ぎの現況を即座に理解し、ゲートを作ってクリスタルを倉庫に安置しに行った。
「リレイちゃん。この騒ぎはもしや私の息子が元凶・・・・・・」
家主は心配そうな表情でリレイを見つめている。
「申し訳ありません。あの魔法の道具がこれほどまでに危険な物だっただなんて・・・・・・」
リレイが家主とアンスに頭を下げた。アンスは父親の影でふるふると震えている。
「あいつだー! あいつが悪いんだ!」
突如聴こえた叫び声。リレイ達の下へと駆けつけた村人がリレイを指差して叫んでいる。
「そうだそうだ! 村をこんな目にあわせたのはあいつの仕業だ!」
激怒する村人達が次々とリレイ達の下へと集まりだす。
「子供に扱わせて良い道具ではなかったのだ! 取り上げろ!」「この事態の責任を取らせろ!」「あの子をつるし上げろ!」と、村人達の中から次々怒りの声があがる!
「わ、私は・・・・・・」
リレイはどうしてよいかわからず震えだした。なんだか村人達がとても恐ろしかった。彼らの怒りは普段の村人を知るリレイの知らない姿ばかり。
「あたしが悪いの! こんな危険な物だと理解せずに子供に与えたあたしが悪いの!」
場に響き渡るシャルロッテの声。
しかし、村人達の怒りはそんなシャルロッテにも向けられた。
「魔物が!」「亡霊系のモンスターがこの事態を引き起こしたんだ!」「魔物は悪いやつだ! 即刻退治しろ!」と、村人達の怒りは治まらない。
リレイは心底恐怖した。既に一大事なのに、この上シャルロッテまでも失うかもしれないからだ。
「魔物を倒せ!」「化け物を倒せ!」「その人形を退治しろ!」と、息のあった怒声がリレイ達の心を打ちのめす!
そんな村人達の様子にアンスもその父親も恐怖で動けなくなっている。
リレイも震え上がった。彼女の知らない村人達の姿に。
「ま、まぁ待て。そこまで怒らんでも・・・・・・」と、一人の村人が怒り狂う村人を諫めようとする。
「ええい、邪魔だ!」
怒り狂った村人は腕を振るい、諫めた村人を払いのけた。
「お前さんがた、やりすぎじゃぞい! ・・・・・・ところであんた。見かけん顔さね。どこのどなたさんかね?」
諫めた村人が怒る村人の顔を見て首を傾げる。
そこに風を切った白銀の塊が地面に降り立った。魔神竜である。
「ここにもいおったか!」
魔神竜はその尻尾で怒る村人を即座に叩きのめした! その光景にリレイはショックを受ける。




