不可能と可能
冬の季節が始まる。枯れ草が冷たい風に吹かれて揺れる。あたり一面が緑ではなく茶色の野原となっていた。ポポカカ村ではまだ雪は降っていない。しかし寒い日が続くようになる。寒い厳しい時期には亡くなる人も多くなる。
ポポカカ村の外れで喪服を着た者達が墓の前に並んでいた。墓穴の棺には一人の女性が横たわっている。
「おかあさん、おかあさん!」
五歳くらいの小さな子供が泣き喚く。亡くしたのは母親なのだろう。まだ若い女は夫と小さい子供を置いて世を去って行ったようだ。
喪服を着たアレイラとリレイも参列していた。そして泣きじゃくる幼子を悲痛な面持ちで見つめている。
「ねぇ、お母さん。母親に置いていかれた子供が泣いているよ。どうしてこの世にはこんな悲しい出来事があるの?」
リレイがアレイラに問う。
「そうね、これはとても悲しいこと。残念だけれど、この世はとてもとても厳しいところなの。だから平穏な日々に感謝を捧げて生きるものなのよ」
「・・・・・・・・・・・・」
リレイは黙って見ている事しかできなかった。困っている人の力になりたい。悲しんでいる人の、泣いている人の力になりたい。そう思えども、何もできない自分の無力さを噛み締める。
あくる日。リレイは自室でシャルロッテと過ごしていた。その日は特に何かをするわけでもなく、気軽におしゃべりをしていた。
「ねぇ、シャルロッテ。生き物は死んだらどうなるの? あなたは亡霊系のモンスターなんでしょ? 元は人間だったの?」
気軽なおしゃべりではなかった。リレイは先日の出来事を引きずっていたようだ。
「生き物は死んだらあの世に行くわ。そうでない現世に留まるものが亡霊となるのよ。あたしは生前の記憶はろくに無いわ。たぶん人間でしょうけれど、記憶が無くても今が楽しいからどうでもいいの」
シャルロッテは変な事を聞く子ね、と付け足した。
「死んだ人を生き返らせるような魔法の道具ってないかしら」
「そんな大神殿の奥で封印でもされていそうなレベルの道具は無いわね。そもそも、死んだ人は生き返らないわ。だから命は大切にしなさいな。アンデッドモンスターに何てこと言わせるのかしら、リレイったら」
シャルロッテが螺旋を描くように、上に下にと回転しながら宙を浮かぶ。
「えっ、ごめん。あれ、今の私が謝るところ?」
「生き返らないけれど、化けては出ているのがあたし。そんなあたしを目の前にして、死者は生き返らないの? だなんてまぁ、なんて質問なのかしらね」
「あ、うん。なんだか、ごめんね。確かに悪い事をした気分になってきた」
「それよりも、そんな事を聞いてくるということは、なにかあったのかしら?」
シャルロッテは勘がよい。相手の行動の裏をよく考える。
「ええとね。ご近所様のおうちの女の方が亡くなってしまったの。遺された小さな子供が毎日泣いているらしくて、自分に何か出来ないかなと思ってね」
突然シャルロッテがくるくる高速回転しながら宙を舞う。
「何とかしようと思って、人を生き返らせようとか考えるなんて!」
「だって、それが一番だって思えたんだもの!」
「あなたらしいけれど、人の範疇を超えた望みは持つべきではないわ。人が簡単に生き返るすべがあったならば、人の命はもっと安く扱われる社会となっていたでしょうね」
「なんだか難しい話をするね・・・・・・」
リレイは自分が思っている理想が必ずしもそうではないと言う事に思い悩む。
「遺された子供はなぜに泣き続けているのかしら?」
「それは母親がいないからでしょ。きっと寂しいのよ」
「そう、ならば何とかできるアイテムはあるわよ」
「あるの?」
リレイの期待は一気に膨れ上がった。悲しみにくれる人を何とかできるかもしれないと言う希望。それにすがらないわけがなかった。
「えぇ、ではその子のところへ行きましょうか」
リレイは迷わず立ち上がり、その泣く子の家へと向かった。




