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リレイと不思議な道具達  作者: 神島世判
乗り越える試練
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想いの駆け出し

 リレイとジェバンニはこうしてまた離れ離れとなっていった。今日という日の出来事は、リレイにとってはとてもつらいもののように感じた。だが、それは彼女がそう感じただけの話。

 リレイの好意、想いが恋かどうかは別として、好意自体が否定はされていなかったのだから。そこから先があるのか、ないのかと言うだけの話。


 家に戻ったリレイは昼間から布団を被って考え続けていた。ずっと好きな人だと想っていた相手から、それは恋ではなく憧れだと諭された時よりずっと思い悩んでいた。デイジーがいつも話す恋の話と自分の話。一体どこに違いがあったのだろうかと。自分の感情も恋心だと思っていた。だからジェバンニの到来をいつも待ちわびていたのだと。だが、思い人の考えは違っていた。リレイの想いを憧れだと言った。まさかの好意を寄せていた相手からである。


「リレイ。そんな頭を抱えているばかりじゃなにもわからないわよ」


 シャルロッテが布団の上をくるりくるりと飛び交う。リレイは布団から顔を出した。


「だってぇ・・・・・・。ジェバンニさんにふられちゃった・・・・・・」


 リレイの顔は泣きじゃくった涙の跡でぐしゃぐしゃになっていた。

 そんな様子を見てシャルロッテは首を傾げる。ジェバンニはリレイにふられたと言い、リレイはジェバンニにふられたと言っている。どちらも相手に嫌われたと心を落としているのがなんだかおかしい、そうシャルロッテは思った。人間とは不可解で面白い、とも。


「ジェバンニさんならリレイにいつかまた、と言っていたわよ。それが何を意味するのかはあたしにはわからないけれど」

「また? またどうすればいいの? 私はどうすればいいの?」


 どこか救いを求めるような顔つきでリレイはシャルロッテを見上げた。


「あなたのジェバンニさんに対する想いは正しく伝わっただけでしょうが! これからどうしたいかはあなたが決める事! で、リレイはどうしたいわけ?」


 赤ん坊をあやす為の宙からぶら下げた人形飾りのように、シャルロッテはリレイの上をくるりくるりと回り続ける。


「私がどうしたいか・・・・・・ジェバンニさんにもっと私の事をわかって貰いたかった」

「ならどうしてその事を相手に言わなかったわけ? なぜあの時に彼の前から逃げ出してしまったのかしら」


 シャルロッテが布団越しにリレイの上にすとんと落ちた。


「どうしてって・・・・・・自分が相手に恋焦がれていた事を否定されたみたいで、自分の気持ちが全然伝わっていないみたいで悲しくて・・・・・・」

「相手の人に自分の事をもっと分かってもらいたいと思うのならば、もっと相手の人と一緒にいたいと願うのは当然のこと。相手の事をもっと知りたいと思うのと同じくらいに大事な事よ」

「・・・・・・ジェバンニさんの言い残したまた、って何を意味するんだろう」

「相手の人の想い、意図をはかるのも大事な事じゃないのかしら」


 リレイはがばっと布団から起き上がる。そしてベッドから降りた。


「決めた。私ジェバンニさんと旅に出たい。もっと一緒にいて、いろんなところを見て回りながら、ジェバンニさんの事ももっと良く知るの。そしてジェバンニさんへの憧れも本当の事だし、ジェバンニさん自身に対する想いも負けてないくらいに本当のことなんだって、伝えるの!」

「あらあら。夢と恋を同時に追いかけようだなんて、ずいぶんと欲張りさんね」


 シャルロッテは人間に感心する。ただの魔物にとってはひとつの欲求に生きているのが関の山だ。あれもこれもと求める心は、人間のようなものにしか持ち得ないのだろうと人形は思ったのだ。そして、何て美しいのだろうと惹き込まれる。シャルロッテは考える。かつてリキッド・オースティンに連れられて幽霊屋敷を出たことは正解だったのだ。ずっと何も変わらない遺跡で暮らしていても、退屈していただけだっただろう。


「そうと決まれば、私も旅が出来るような大人にならなくちゃ!」


 リレイは新たな目標が出来たようだ。


「旅で使えそうな道具なら沢山あるから、あたしもお供しようかしら。リレイだけじゃあぶなかしいからね」

「そうだね。私はお父さんみたいな冒険家にはなれないから、道具に頼ってもいいよね」

「ねぇ。リレイは冒険家になりたいの? それともジェバンニさんのような行商、あるいは吟遊詩人?」

「えっ、それは・・・・・・今はまだわかんない!」


 旅をしたいという思いはあれど、それがいかなる目的を持ったものかは定まっていなかったようだ。その目的もこれからおいおい見つけるのであろう。


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