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リレイと不思議な道具達  作者: 神島世判
廻る太陽と月の円環
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ライフポーション

 三人と人形一体はヘクターの家にたどり着いた。そこは大きな木の上に木造の家屋を建ててあった。家から地面へ向けてはしごがぶら下がっている。足を骨折したヘクターはどのようにして家へ昇ったのであろうか。その答えは裏手にあった。電光石を動力源とするゴンドラが置いてあり、乗り込んでボタンを押すと木の上まで運んでくれるようだった。この家の主、すなわちヘクターの父親は魔法技師だった。それゆえに魔法機械の扱いに長けている。ヘクターも将来は魔法技師になりたいらしく、この手のものについてを良く勉強していたものだ。

 リレイ達はゴンドラに乗り込んで上へと登って行った。村一番の大きな家よりも更に高い位置にある家にたどり着く。


「うわぁ、高っ! ヘクターのやつ、なんて所に住んでいるのよ!」


 デイジーはゴンドラから地面を見下ろして震えている。人間が十人くらい立った高さよりも尚高いのだ。


「これなら泥棒避けに良さそうですわね。それにしてもヘクターったら何気に良い景色の所に住んでましたのね」


 アシュリーは木の上から見下ろす村の景色をみて感心している。相当な高さなので遠くまで見渡せるのだ。

 リレイは家の呼び鈴を鳴らした。ちりんちりんと言う音が鳴る。


「はーい、どなたかしら? あぁ、リレイちゃんたち!」


 ドアを開けて出ていたのはヘクターの母親だった。度々村の中で会うこともあるので、三人ともヘクターの母親とは面識があった。


「今日はヘクターのお見舞いに来ました」


 リレイは三人を代表して要件を告げる。


「あらあら、可愛い子にお見舞いに来てもらって、息子は幸せ者ね! さぁさぁ、中にあがって頂戴!」


 ヘクターの母親の案内で三人とシャルロッテは家の中に入った。そしてそのままヘクターの部屋へと通される。

 ヘクターの部屋。それは色々な魔法機械の技術書が並ぶ本だらけの部屋。地球儀、乗り物の模型。様々なおもちゃも置いてある。部屋の中央にベッドがあり、その上にヘクターは横たわっていた。足には包帯を巻いている。


「あっ、君たち・・・・・・」


 ヘクターが驚き顔を上げる。眠っていたわけではなく起きていたようだ。


「お見舞いに来たよ。怪我は大丈夫?」


 リレイがヘクターを気遣う。


「あぁ、軽く骨にひびが入っただけさ。しばらく安静にしていれば治るってさ」


 ヘクターは恥ずかしそうに笑った。


「あんたバカねぇ。どうして階段なんて踏み外して転がり落ちるのよ。そのダサさはなんとかしてよね!」


 デイジーが悪態をついた。ヘクターが恥ずかしい真似をすると、なんだか自分まで辱められたような気分になるようだった。


「・・・・・・ごめん」


 ヘクターはただデイジーに謝った。いつもなら何かしら言い返している所だろうに、大人しいヘクターの様子にリレイとアシュリーは顔を見合わせた。


「そうやってすぐ謝る。好きじゃないわ。そういうのって」


 デイジーは余計に不機嫌になったようだ。


「・・・・・・僕は君が好むような男では無いかもしれない。でもいつかは君の望みに叶う男になって見せる。今はそうではなくとも」


 ヘクターはデイジーを真っ直ぐ見つめてそう語った。どうやらベッドの上でも散々デイジーの事を考えていたようだ。その上で出てきた言葉だった。


「・・・・・・そう。期待しないで待っているから」


 そう返すデイジーの言葉はそっけないものだった。ツンとした態度でそっぽを向いてしまう。

 この二人の様子を見て、リレイもアシュリーもなんとなく話が見えてきた。


「僕は他の人みたいに輝いていないかもしれない。でも、ようやく陽の光を得たような気分なんだ。日陰まで届くような光を。今ならなんだか頑張れそうって、そう思えるんだよ」

「なら早いところ足の怪我なんて治さなきゃね」


 ヘクターとデイジーはそのまま見つめあった。リレイ達を置き去りにして、どこか二人の世界に入っていた。


「もしもし? お二人ともお取り込み中のところ申し訳ないのだけれど、わたくし達はお邪魔かしら?」


 アシュリーがなんだか申し訳なさそうに申し出る。空気を読んだようだ。


「あっ、違う! 違うのよ! そんなお構いなく!」


 慌ててデイジーが取り繕ったが、どうにもごまかしきれていない。


「なにはともあれ、ヘクターの怪我もたいしたことなさそうで良かったね。すぐ治るといいんだけれど」


 リレイが話を取りまとめようとする。するとふわりとシャルロッテが進み出てきた。


「怪我を治す道具もあるわよ」

「えっ、シャルロッテ。そんな物あるの? 使おうよ!」


 リレイは驚き声を上げた。シャルロッテは「仕方ないわね」と言うと、水鏡のロープで鏡を作り、鏡扉の鍵で鏡をゲートに変えて、オースティン家の倉庫へと潜りこんで行った。やがて一つの小瓶を持ってくる。小瓶の中にはエメラルドブルーの液体が入っていた。


「はい、これ。とっておきのライフポーションよ。これを飲めば切り傷だろうが刺し傷だろうが骨折だろうが、あっという間にたちどころに治ってしまうわ。リキッドも旅先で怪我をした時に度々使っていたから間違いないわ」


 シャルロッテはライフポーションをヘクターに渡した。


「えっえっ、そんな良い物をいいのかい、リレイ?」


 ヘクターはポーションをどうしたものかとリレイに尋ねる。


「いいのいいの。家の倉庫にあったってことはいらないものなんだから。ただ置いておくよりも有効活用したほうがいいから。だから気にせず使ってね!」


 リレイは気前良くライフポーションを差し出した。


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