散々な
学校が終わり、デイジーは早速目的の人のところへ行く。村の外れにある馬車の停留所。乗合馬車が停まっている。その御者のトレイルに会いにきたのだ。
デイジーは眼鏡をかけてから馬車へと寄った。
「トレイルさん。いますか?」
デイジーが声をかけると、御者が振り向いた。
「やぁ、デイジーちゃんじゃないか。学校帰りかい? 今日は隣町までおでかけかな?」
ワークキャップを被ったトレイルがデイジーを迎える。
「いえ、今日はトレイルさんに会いに来ました。聞きたい事があって・・・・・・」
デイジーがもじもじと恥らう。
「聞きたい事? なにかな?」
「トレイルさんはどんな女性が好みなんですか? たとえばデイジーとかはどう思いますか?」
「おや、それはまたすごい質問が来たもんだな!」
トレイルは驚いている。その頭に出た噴出しには「私は一緒に過ごしていて笑いあえる女性がいいなぁ。まぁ、それも大人の女性の事だけれど。デイジーちゃんはまだ子供だから範囲外だねぇ」と出ていた。デイジーはその言葉を見て消沈する。
「あっ・・・・・・」
「ん? どうしたんだい?」
「いえ、なんでもないです・・・・・・」
デイジーはすっかり落ち込んで馬車から離れて行った。デイジーはとぼとぼと歩いて帰る。自分が子ども扱いされており、相手されていないと言う事実に激しいショックを受けたようだ。
「そんな・・・・・・デイジーだって立派なレディなのに・・・・・・」
デイジーはたまたまトレイルがそういう男性だったと思うことにして、他の男性を当たってみようと画策した。湖岸に向かい漁師のガルドを探した。丁度彼は岸の船の上にいた。
「ガルドさん、お久しぶりです!」
デイジーはガルドに声をかけた。
「あぁ、デイジーのお嬢ちゃんか。俺に何かようかい?」
「ええと、聞きたい事がありまして・・・・・・」
デイジーが質問をしようとすると、ガルドの頭上に吹き出しが見えた。そこには「今は仕事で忙しいんだから、子供の遊びなら他所でやってもらいたいものだねぇ」と出ている。
デイジーは質問しようとした言葉をつぐんだ。
「いえ、ごめんなさい。お邪魔してすみませんでした・・・・・・」
デイジーは湖岸を走り去った。こんなはずではなかった。まったく自分は男性から相手をされていないのだと思い知る。今までのはたまたまそうなのであって、そうに違いないとデイジーは自分に言い聞かせて、レストランのコックのアレックスに会いに行く。
食事時は外しているので、今はそれほどコックは忙しくないはずだ。その事を当て込んで、デイジーはレストランへと駆け込んだ。
「アレックスさん! ちょっとお聞きしたいことがあります!」
突然現われたデイジーに調理服姿のアレックスは驚いた。
「おや、デイジーちゃん。どうしたのかな?」
「アレックスさんはどんな女性が好みですか?」
デイジーのストレートな質問。その問いにアレックスの頭上に吹き出しが現われる。そこには「僕はステイシーを愛している。どのような女性が、ではなくあのチャーミングなステイシーを」と出ていた。
「いきなりの質問だが、僕には愛する人がいるんだ。それがどうかしたかい?」
アレックスは心の言葉と同じ言葉を返してきた。
「あっ・・・・・・いえ、なんでもありませんでした」
デイジーはそう言うとレストランを走り去った。そして闇雲に村の中を走る。誰も、誰も自分の事なんて見ていないのだ。子供として扱われている。他に誰か好きな人がいる。自分は一体なんなのだろうかと。そう思うとデイジーは目に涙が浮かんできた。
どかっ!
涙でろくに前も見えていなかったので、誰かに衝突してしまったようだ。
「あいたたた・・・・・・デイジー! どこ見て走っているんだよ!」
デイジーがぶつかった相手はヘクターだった。二人して地面に尻餅をついている。デイジーが相手にぶつかった鼻っ面をさすっている。
「いったーい! なによもう! 今日はもう散々よ!」
デイジーはそのまま座り込んでしまった。




