危険なメガネ
家に帰り、自室へと戻ったリレイはシャルロッテに尋ねる。
「ねぇねぇ。デイジーってどうして沢山の人を好きになれるんだろう?」
「うん? リレイもデイジーのことが気になるの?」
「まぁ、そうなんだけれど。デイジーが何を考えているんだろうって時々不思議に思って」
「考えている事なんてわからないものだからね。直接聞くのもはばかられそうなものだけれど、実はあるのよ。人の心を覗く魔法の道具が」
シャルロッテがここぞとばかりに魔法の道具を推して来る。
「な、なんていけない魔法の道具があるのかしら」
リレイは恐れおののいた。心を見破る道具などあって良いものではない。
シャルロッテは腰に巻いていた水鏡のロープで床に水鏡を作り、鏡扉の鍵でゲートにして飛び込んで行った。しばらくして眼鏡を一つ持ってくる。
「じゃじゃーん。心が読める眼鏡よ! これがあればどんな人の心も読めちゃうの!」
シャルロッテは銀色に輝く縁の眼鏡を掲げた。
「眼鏡でどうして人の心がわかるの?」
「頭の上に噴出しになって視えるらしいわ。試しに使ってご覧なさいな」
シャルロッテは眼鏡をリレイに手渡した。
「どれどれ・・・・・・」
リレイは早速眼鏡をかけてみる。するとシャルロッテの頭の上に噴出した出て見えた。その噴出しには「これで心を読んだり読まれるようになって、人間関係が引っ掻き回されたら面白いわね!」と出ていた。軽く邪悪な思念だった。
「ちょっと、シャルロッテ! そんなこと考えていたの?」
リレイがシャルロッテを怒った。
「あらあら、ごめんなさいかしら。人形のアタシの心も読めてしまうのね。油断していたわ」
「でも、本当にこれで心が読めちゃうんだ・・・・・・」
リレイは何か恐ろしい物を手にいれたような気になった。
翌日。それは学校での出来事。生徒達に混じってリレイ達が集まっている。リレイは早速眼鏡をかけてみることにした。
「あら、リレイ。あなた、眼鏡は似合わないですわよ?」
早速眼鏡を気にしたアシュリーがリレイに忠告した。
リレイは眼鏡でアシュリーの姿を見る。吹き出しが頭に浮かんでいて、そこには「もともとの顔立ちが良いのですから、物でそれを隠してしまうようなのは無粋というもの。ありのままの姿が一番素敵なのだから」と出ていた。どうもリレイの事をべた褒めしている。
「いやぁ、なんだか照れる・・・・・・」
リレイが恥ずかしがる。
「いや、褒めてはおりませんでしたが!」
何のことかはわからないアシュリーは戸惑った。
「へぇ、眼鏡で知的な印象も醸し出せるんだねぇ。それがあればトレイルさんとかも振り向いてくれるかな?」
デイジーが興味深そうにリレイの普段とは違う印象の顔を見つめた。
「ばーか! そんな物にこだわっても、誰も君など見やしないよ! 大体、今まで君の相手をするような男なんて居なかっただろう?」
ヘクターはこれで平常だ。彼はなぜかデイジーだけには辛らつなのだ。
「なっ、なんなのよ!」
デイジーがヘクターのあまりの言葉に言い返せずにいた。リレイはそんなデイジーの姿を眼鏡を通してみた。デイジーの頭の上の噴出しには「ほんとうにどうして誰もデイジーを見てくれないんだろう。誰か私を見て・・・・・・」と言う呟きが出ていた。リレイは悲しいなにかを見てしまったような気分になり、激しい罪悪感に襲われた。そして眼鏡を外す。
「デ、デイジー。ごめんなさい・・・・・・」
リレイから出たのは謝罪の言葉。デイジーはなぜ謝られたのかわからなかった。
「えっ、リレイ。どういうこと?」
「ごめんなさい。この眼鏡、人の心が読めるの。それで二人の心を読んでしまって・・・・・・」
リレイは素直に謝った。してはいけない事をしてしまったと痛感したのだ。
「「なんですってー!」」
二人が顔を真っ赤にして怒る。心を読まれるだなんて恥ずかしい真似をされたのだから当然だ。
「なんてことするの!」
デイジーがリレイに怒り詰め寄る。
「だからごめんって!」
リレイはただひたすら謝る。
「何てすごい道具を持っているの! ねぇねぇ、デイジーに貸してよ!」
「えっ、いいけれど・・・・・・」
リレイは眼鏡をデイジーに渡した。
「それ、わたくし達には使わないでくださいましね?」
アシュリーがデイジーに釘を刺した。デイジーは「そこはわかっているわよ!」と返事をすると、なにやらニヤ付いた目つきで笑い始めるのだった。




