リレイの友人たち
ポポカカ村。それはのどかな村だ。木造家屋やどんぐり、きのこの家が点在する集落。場所によっては石造りやレンガの家も存在する。そんな村のあぜ道をリレイと人形が走りぬける。その遠景では巨大な風車が風に吹かれて回転していた。中つ夜の休憩時間が終わり、村人達は仕事を再開していたようだ。
村の広場。大きな切り株がたくさんある場所に、村の少女達が座って待っている。茶色い色の髪をしたおさげの女のデイジーと、金髪縦ロールでちょっと優雅な格好をした富豪の娘のアシュリーだ。彼女達はリレイの友達だった。
そこにリレイがシャルロッテを抱いて駆けつける。
「みんなー、おまたせー!」
リレイは息を切らせている。
「リレイ、おっそーい。遊ぶ約束していたの忘れてたでしょ!」
と、デイジーがちょっとだけ頬を膨らませている。
「忘れてなんかいないよぉ! それよりこの子を見てよ!」
リレイはシャルロッテを両手で抱えて見せた。
アシュリーがしゃがんでシャルロッテを見つめる。
「あら、この人形はなんですの? 随分埃まみれですけど」
と、シャルロッテが両手を振る。
「あたしはシャルロッテ。ごめんあそばせ」
デイジーとアシュリーは人形が動いて声を発したことにとても驚いた。
「な、なにこれリレイ! えっ、人形が宙に浮いている!」
驚くデイジーの目の前で、シャルロッテはふわふわと浮かんで見せ、ドレスの裾をつまんでおしとやかに一礼する。そんな光景を前にリレイは自慢げにする。
「えへへー、すごいでしょ! この子はリビングドールなんだって! 幽霊屋敷にいたのをお父さんが連れ出したとか」
再びデイジーとアシュリーは衝撃を受けた。
「リビングドールってあなた、それって死霊系のモンスターじゃない!」
アシュリーは叫んで後ずさった。その雰囲気につられてデイジーもシャルロッテから離れる。
「シャルロッテは良い子だから大丈夫だよ! 今日から友達になったの!」
「ええっ! モンスターの友達?」
デイジーが信じられない者を見る目でリレイを見る。
「えー、シャルロッテはモンスターなんかじゃないよ! お人形さんだよ!」
「まぁ、あなたが良いなら良いんでしょうけれど。・・・・・・埃だらけだから少しはお手入れして差し上げたらよろしいのでは?」
「そうだねアシュリー! みんなに紹介したくて急いで連れて来ちゃった。ごめんね、シャルロッテ」
リレイはシャルロッテの衣服を見てすまなそうにした。
「ううん。あたし、ずっと埃まみれの中にいたから慣れちゃった。だから気にしてはいないわ」
「ねぇねぇ、シャルロッテ。宙に浮いたりしているけれど、他に何が出来るの?」
デイジーは大分警戒感も薄れ、興味深そうにシャルロッテの姿を見ている。
「あたし? 特に何も出来ないわ。歌ったり踊ったり一緒におしゃべりしたりするくらい」
シャルロッテの言葉を聞いたデイジーは身を乗り出してきた。
「ええっ、それってもうサイコーの友達じゃん! ねぇ、アシュリー?」
「あらあら。たしかにそうですわね。わたくしの持つ高級ドールでさえ、そんなことはできないわ。いいですわね。いつでもおしゃべりできる相手がいるなんて」
二人は羨ましそうにシャルロッテを見つめた。
「そう思うでしょう! お父さんが大きくなったら友達として紹介してくれるはずだったんだ」
「リビングドールを娘にプレゼントするような親なんてどうかしらねぇ」
シャルロッテはそう言うと空中でくるくると横回転を始めた。その動きに意味は無い。
「素晴らしいですわね。わたくしのお父様でも流石にそのようなプレゼントは出来ませんわ。流石は世界的探検家の御父上ですわね」
アシュリーの言葉にデイジーもうんうんと頷いた。
「いいなぁ。デイジーもリビングドール欲しいなぁ」
「あたしの他にもリビングドールはいたのだけれど、いけない子達だからなぁってリキッドは言っていたわ。その後どうなったのかしらね」
シャルロッテがくるりんと回転しながら地面に着地する。
「いけない子なんているんだ。じゃあ、シャルロッテちゃんはもしかして特別なのかな?」
デイジーの言葉にシャルロッテは頷き返した。
「そうみたいね。かわいらしいシュシュのデイジー」
「あら、ありがとう。シャルロッテちゃんも装飾品は好きなの?」
「えぇ、大好きよ! アシュリーのようなお洋服も羨ましいわ」
「ふふっ、当然ですわ! この洋服はオーダーメイドしたものですもの! 世界に一着しかない服なのですわ! おーっほっほっほ!」
アシュリーは鼻を高くしている。普段からこのように自慢をするのが好きな子だった。
「じゃあ、今日からデイジー達ともお友達だね!」
デイジーの台詞にアシュリーも頷いて同意した。こうして三人と一体は友達となったのだ。