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リレイと不思議な道具達  作者: 神島世判
それは希望か絶望か
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幻影

 皆が寝静まる時刻。村は真っ暗であり、明かりのついている家は無い。それはそうだろう。この世界の人々は昼間に動き、夜は寝るものと決まっているのだから。夜中に動くような人間はならず者や夜盗の類に他ならない。まともな人は出歩かないのだから。空には点々と星が輝き、煌々と輝く月が浮かぶ。どこまでも静かな夜だった。

 リレイは自室のベッドで眠っていた。ナイトキャップを被ってお気に入りのパジャマに身を包み、ピンクの掛け布団に白いシーツが敷かれたベッド。そしてお気に入りの枕。安らかな眠りを得られる環境で、リレイは寝息を立てていた。それもまたいつものも光景。

この時間になると流石にシャルロッテも大人しくしている。幽霊が活発に動く時間帯ではあるのだが、人形のようにじっと座ったままとなっている。元々幽霊屋敷にいた頃からたいして動き回るような幽霊ではなかったので、夜の時間に何もしていなくとも苦ではないようだった。明かりを灯すのも油と灯芯が勿体無いので暗い部屋で過ごしているようだ。真っ暗な部屋の中で、シャルロッテだけがぼんやりとした光を放って見える。霊体の光が漏れ出ているようだった。最初の頃はリレイにホタルイカと呼ばれていたものだ。「そこは普通に蛍みたいと喩えなさいよ!」とシャルロッテが怒るので、その後リレイは蛍光みたいと呼んでいる。

 しかし、その頃リレイの家の倉庫で異変があった。小さなクッションの上に安置されていた透き通るような綺麗な赤い玉が怪しい輝きを放っていた。ゆらゆらと昇る赤いオーラが玉から放たれている。それは輝かしい光景であるが、ただ事ならぬ事が起きている事を示唆するような光景でもあった。オーラは壁や天井、床を突き抜けて上へと昇る。その先にはリレイの寝室があり、床から昇ってきた赤いオーラはベッドの上で寝ていたリレイに注ぎ込まれて行った。

 リレイがうなされたように寝返りを打つ。


 そこは夢の中。リレイの夢の中はお花畑となっていた。どこまでも果てしない雲ひとつ無い空。大地は色とりどりの花が咲き誇る。蝶が舞い蜂が飛ぶ。少女は己の世界の真ん中でくるくる踊る。しかし天に雲が現われてあっという間に空を覆った。風が吹きすさび嵐となる。ぽつぽつと雨が降り始め、気が付けば花畑は荒地となっていた。

 豪雨の中をリレイは雨宿りできる場所を探して何も無い荒野を走る。どこにも雨宿りできる場所がないと判断して立ち止まった瞬間、大地が割れた。そして空は暗転し、どこまでも無限に広がる闇の中となる。リレイは本能的に怖い夢が始まったと感じた。

 暗黒の中でリレイはもがいた。地面が無いのでじたばたするだけだ。目指すべきところもわからない。進んでいるのか戻っているのか、そもそもまったく動けていないのかもわからない。

 やがて赤い光が流れ込んでくる。その光は大きな大きな竜のような姿を形作っていく。


「なに、なに、なんなのかしら!」


 リレイは何か大変な事が起こっている事を理解した。ただの夢とも思えない。それほどまでに目の前に現れた竜の幻影は圧迫感を持っているのだった。


「・・・・・・人間の子供よ、小さきものよ」


 竜の幻影はリレイに語りかけてくる。それによってリレイははたと落ち着きを取り戻した。語りかけてくるということは話が通じる。ならば相手は分かり合えると瞬時に感じたためだ。


「な、なんですか?」


 リレイはその場に留まって、竜の幻影を見上げた。


「我を、我を解き放て・・・・・・」


 竜の幻影はゆらゆらと陽炎のように揺れている。


「解き放つ? なにから? どうやって?」


 リレイは相手の要望を聞く方向で話をしようとした。


「宝玉に我は封じられている。我はこれ以上の孤独には耐えられぬ。陽の当たる場所を自由に飛びたい・・・・・・」


 竜の幻影はどこか寂しそうな声を上げた。


「ずっと誰もいないところで一人きりなの?」

「そうだとも。一体どれほどの時間をこの暗黒の中で過ごしてきたのか。それすらもわからぬ」

「どうしてそんな目にあわせられているの?」


 リレイは直球の質問を投げた。その問いにしばらく竜は沈黙する。


「・・・・・・・・・我が好き勝手暴れすぎたのだ。ゆえに」

「好き勝手暴れるって、周りに迷惑掛けちゃったの? ダメじゃない、そんなことをしちゃ!」


 リレイは大きな大きな竜の幻影を叱った。


「我は強い。そう自惚れ、他者は何でも我に従うと高をくくっていた。傲慢が過ぎたのだ。そして一人の英雄の手により我は宝玉へと封じられた。今となっては我もやりすぎだったと思う」

「反省しているの? それならいつかは許されると思うよ」

「我は待つ。その時を」


 竜の幻影はそれだけ告げると、ゆらりゆらりと霧散しくいく。伝えたい事だけを告げるとさって言ったようだ。


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