まもられたもの
リレイは土の中を平然と掻き分けて進む。不思議と呼吸は出来る。上にも下にも行きたいほうへとすいすいと動けた。やがて土の中から開けた空間に出る。地下の貯蔵庫のようだ。
中はどこからか女の子のすすり泣く声が聞こえる。
「アシュリー、大丈夫?」
リレイが大声で呼びかける。
「リ、リレイ?」
驚いたアシュリーが飛び上がる。
「助けに来たよ! この道具で作るゲートを潜って!」
リレイは水鏡のロープと鏡扉の鍵で、人間が潜れる大きさのゲートを作った。
「こ、この中に?」
アシュリーは不安げに呟いた。
「そう! 私の家の倉庫に繋がっているの!」
アシュリーはリレイの自信に後押しされて、覚悟を決めてゲートへと飛び込んだ。
リレイは水鏡のロープと鏡扉の鍵を手にして地下貯蔵庫を脱出する。少女が這い上がるように土の下から出てきたとき、周囲の人々は大変驚いた。
「ど、どうしたんだ? お嬢様を助けられたのか?」
使用人たちが心配そうに尋ねてくる。だが、リレイはそんな人々には意を解さず走り出す。
「話は後です。うちに来てください!」
リレイはアシュリーの家を後にすると、即座に自宅へと駆け込んでいった。
家の中からドンドンと扉を叩く音が聞こえる。開かずの間は鍵が掛かっているのだ。
「誰か、誰かおりませんの!」
憔悴したようなアシュリーの声だった。どうやら無事地下から転移できていたようだが、自分がどこにいるのかはわかっていなかったようだ。
リレイは開かずの間の鍵を開け、封印札を破り捨てて扉を開けた。
「アシュリー、無事だったね!」
リレイの呼びかけに、アシュリーが飛び出してきてリレイに抱きついた。
「あぁ、助かりましたわ・・・・・・一時はどうなる事かと・・・・・・」
アシュリーは泣き腫らしていたようで、目が真っ赤で頬が涙で濡れていた。
やや遅れてシャルロッテと事情が良くわかっていなかった使用人がやってきた。
「おぉ、お嬢様、ご無事でしたか!」
使用人がアシュリーの顔を見てほっとする。人が来たのに気が付いたアシュリーははっとして、屹然とした態度を取った。
「わ、わたくしは無事です! 皆さん、お騒がせしましたが、リレイが助けてくれたので何も問題ありません!」
それは当主の娘としての対応。泣いているところなどを人前には見せられないという意地。
「よかったぁ。うちに問題を解決できる魔法の道具があって!」
リレイはそういうとあははと笑って見せた。
「リレイ、あなたのおかげで助かりました。何とお礼を言っていいのやら・・・・・・」
アシュリーは感謝の言葉を述べながら頭を下げた。
「そんな、当然の事をしたまでだよ。だって、友達でしょ?」
屈託の無い笑顔を浮かべるリレイだった。彼女の大事な宝は守られたのだ。そこになんの他意もなく、見返りも無く。
こうして友人の危機は免れたのだった。




