マジカルルーム
バーで数時間が過ぎ、お酒講座が終わる頃には夕方となっていた。夕日が赤く地を赤く染め、あらゆる影を大きく伸ばしている。カラスが鳴きながら飛び去っていく。
三人は自宅への帰路を歩いていた。
「お母さんに良いお土産ができた! やったね!」
リレイの言葉にアシュリーが頷く。
「わたくしもとっておきのお酒が出来て何よりですわ。わたくし自らが造りましたの、と客人を驚かせる事ができますもの」
アシュリーは非常に上機嫌だった。確かに良家のお嬢様が手ずから製造したお酒が出てきたら、普通の人は驚くであろう。
その横でデイジーはぽわぽわと浮かれていた。
「あー、ステファンさん素敵だったな・・・・・・もっとお話を聞いていたかった」
デイジーだけはお目当てが違うので、他の二人とはノリが違う。デイジーはステファンに見とれて説明をちゃんと聞いていないので、次また同じように果実酒が造れるかと言うと怪しかった。
「ステファンさんのレッスンをまた受けることが出来ますわ。今度は食前酒に合うワインでも教えていただきましょう。何種類かをテイスティングしながら」
「アシュリーのおかげだね。ありがとう!」
「どういたしまして」
三人組はきゃっきゃしながら帰宅する。やがて一人、また一人と別れていった。最後にリレイが自宅へと到着する。
家では母のアレイラがキッチンで夕飯を作っていた。
「あら、リレイ。今日は遅かったわね。どこへ行っていたの?」
アレイラが鍋からかぼちゃの煮物を皿へと盛りつける。栄養が有るため、秋になると毎旬ごとにアレイラはかぼちゃ料理を作っていた。
「今日はステファンさんのお店で果実酒の作り方を教わってきたの。ほら、これ!」
リレイが果実酒の入った瓶を掲げる。
「それはなんて素敵じゃない! 来年の楽しみになるかしらね。キッチンの収納棚に置いておきましょうか。それから夕飯にしましょうね」
アレイラは棚にスペースを作った。そこにならば果実酒の瓶を格納しておける。リレイは言われたとおりに棚へと瓶を置いた。
「半年後にまた会いましょう!」
リレイは瓶に別れを告げて棚の扉を閉めるのだった。
夕飯が終わり、リレイは自室へと戻った。先に帰っていたシャルロッテが普通の人形のように壁に背を預けて座っていた。
「おかえりなさい。首尾はどうだったのかしら?」
シャルロッテがリレイに尋ねる。
「かりん酒を作ってきたわ。台所の棚に収納してきたの。うちにも地下にワイン貯蔵庫みたいなのがあったらいいのに」
リレイは不満を言うが、リレイの家には地下室は無かった。
「アシュリーのおうちみたいな?」
「えぇ。そういう空間もあったらいいのに。私の家はキノコをくりぬいた家だから、あまりスペースが無くって。増築も出来ないみたいだし」
「それなら良い魔法の道具があるわ。ちょっと待ってらして」
シャルロッテはゲートを作ってくぐって行った。そして何かを持ってくる。シャルロッテが手にしていたのは一個の箱。黒い箱に金色の飾りがなされている。蓋は閉ざされていた。
「ねぇ、それはなぁに?」
リレイは興味深々にシャルロッテが持つ箱を覗き込んだ。
「これは空間をゆがめて拡張する魔法の箱なの。箱を開けるとその空間を異次元に拡張しちゃうのよ。早速使ってみる?」
シャルロッテが差し出した箱をリレイは受け取った。
「えぇ。空間を押し広げるって言う事は、狭いところで使うといいのかな? この箪笥の中で開いてみちゃおう!」
リレイは箱を箪笥の中に置いて広げた。・・・・・・すると箱から光が溢れ、あっという間に箪笥の中を照らした。箪笥の中の空間が押し広げられる。箪笥の中は箱の中身のような雰囲気の空間になった。人が五人寝そべる事ができそうな広さとなっている。
「ね。この中なら室温も一定に保たれるのよ。これならどうかしら?」
シャルロッテが自慢げに尋ねる。
「これだけ広ければいろんなことに使えるね!」
「箱を閉じると空間が元通りになって、中の物まで押し出されるから気をつけてね」
何気に少々危うい道具だった。
魔法の部屋をどう模様替えするかと、少女と人形はきゃっきゃとはしゃぎながら夜を過ごす。




