お料理教室
向かった先の酒場では男性が女の子達を迎え、それならばと果実酒をまず披露する事になった。リレイ達はエプロンを着てテーブルの前に並び立つ。
バーの経営者のステファンがお酒の解説を始めた。
「いいかい、みんな。村で採れる果実をお酒に漬け込むだけで、素晴らしい果実酒ができるんだよ! このあたりで代表的なのはかりんとかナナカマドかな。慣れないうちは高価な果実に手を出さず、庭木にあるような果樹を採用するのがいいよ」
ステファンがごろごろと果実をテーブルの上に置いた。村の特産品とまでは行かないまでも、安定して生産されているかりんやナナカマドが転がる。
「ステファンさん。その瓶はなんですか?」
積極的になっているデイジーが質問した。テーブルの上には確かに透明な液体の入った瓶が置いてあった。
「あぁ、これはね、ホワイトリカーと言うんだ。廃糖蜜を発酵させて作るお酒なのさ。香りも無いお酒だから、果実酒を造るための原材料にうってつけなんだ」
「ではこちらの塊はなんですの?」
アシュリーが白く半透明な氷のような塊を手に取った。
「それも原材料の氷砂糖さ。さぁ、早速作ってみようか。まずは良く熟したかりんを選びたまえ。そしてそれをいくつかに切るんだ」
リレイ達はテーブルの上にゴロゴロと転がっているかりんを拾い上げる。そしてかりんをいくつかに切り分けていく。
「ステファンさん。かりんを切り終えました」
リレイが一番乗りで声を上げた。普段から料理をよく手伝うので、他の二人よりも手馴れているようだった。
「うん。ではかりんを氷砂糖と一緒に瓶へ入れて、それからホワイトリカーを注ぎ込むんだ。苦味を抑えたければ、輪切りにしたレモンも入れるといい」
ステファンが指示したとおりにリレイは調理行程を進める。最後にレモンを入れた後に瓶へと蓋をした。
「できましたー!」
透明な瓶にかりん片が漬け込まれた果実酒が満たされている。
「あとはしばらく寝かせるだけさ。そうだなぁ。六ヶ月は熟成させるといいよ」
「はいっ!」
リレイは嬉しそうに声を上げた。
「こうやってお酒を造るのは大変ですわね」
料理に慣れないアシュリーが悪戦苦闘している。
「アシュリー君。高価なお酒でおもてなしをするのも良いが、自家製のお酒でもてなすのも一つの選択肢だよ。なにせ君の家にしかないとっておきのお酒なんだからね!」
ステファンが優しく見守る。
「えぇ、ぜひともわたくしだけのお酒を造って見せますわ!」
アシュリーがやる気を見せている。どうやら家に訪れる客人に自作の果実酒を振舞ってみたいようだ。基本的には料理は使用人にやらせているが、来賓を酒でもてなす役割を与えられて、趣向を凝らそうと躍起にやっているようだ。
「ステファンさん! デイジー、かりんをうまく切れないですぅ! よければ手伝っていただけませんかぁ?」
デイジーが甘えるような声を上げる。どうやら出来ない振りをしてステファンから手取り足取り教えてもらおうと言う魂胆のようだ。
「おやおや。どれ、お手伝いしよう」
ステファンがデイジーの背後から包丁を手に取り、かりんを切り分けていく。密着したことでデイジーが浮かれているようだ。
「ぶれないなぁ、デイジー」
リレイがぽそっと呟いた。彼女はかなり積極的な行動に出るデイジーが時折羨ましいようだ。彼女があこがれるジェバンニは年に数回しか村を訪れない。そんな時にもっと積極的になれたならと思わずにはいられないのだ。
「さ、完成だ。後はこれを自宅でしばらく熟成させるといい。初めてにしては良い出来栄えだね! 君達なら良い果実酒を造れる事だろう」
ステファンがリレイ達を労う。三人とも大事そうにお手製の果実酒が入った瓶を抱えている。
「「ありがとうございました!」」
三人が声を揃えて礼を言う。こうして彼女達はできる事がまた一つ増えたのだった。




