お酒
真に価値ある宝とはなんであるか。有形無形、問わず色々なものが上がる事だろう。本当に大切なものとは、案外普段はわからないものもあるかもしれない。
リレイとシャルロッテ達がいつもの如く村の広場にておしゃべりをしている。その日は女子達ばかりの集いだった。本日話の中心にいたのはデイジーだった。彼女はこれまでと変わらず気になる男性の話をしている。
「デイジーね、最近バーで働くステファンさんが気になっているの! 輝くグラスに囲まれて、色々なお酒を提供してくれる大人の男! 大人の色香がまるで芳醇なワインのような・・・・・・」
デイジーは男の妄想を思い浮かべてうっとりしている。そんなデイジーを放っておくシャルロッテではなかった。
「恋に酔わせる素敵なヴィンテージワインさんね。色と香りで魅了しちゃうのかしら」
シャルロッテがデイジーの話に食いついた。
「そう! 年を重ねたワインみたいに特有の色気を持つ男! 彼に掛かればどんな女性の好みにも合わせちゃう! トークも素敵な人なの!」
デイジーとシャルロッテが盛り上がっている。
「ステファンさんにはわたくしもお世話になっておりますわ。彼の店では高価なお酒も取り扱っておりますもの。たまに我が家にも品を卸してもらっておりますのよ。時々彼にお酒に関する知識のレクチャーも受けておりますわ」
アシュリーは家の客人をもてなす酒を選ぶ仕事を与えられている。その勉強相手の一人がステファンのようだった。
「いいよね、アシュリーは。たまにお酒も飲んでいるの?」
リレイがアシュリーに尋ねると、アシュリーは得意げになった。
「えぇ、それはもう! 味の違いもわからなければ、適切な品を選べないですもの! 我が家の地下にあるワイン貯蔵庫には、年代モノのワインが沢山ありますわ。ワインも殿方のように年を得て深みが増すもの。それはもう様々な物を取り揃え、空ける時を楽しみにしておりますのよ」
「アシュリーはお酒も男もよりどりみどり。選びたい放題だからうらやましいなぁ。ステファンさんからレッスンを受けているのもうらやましー! デイジーも一緒にお話を聞きたいよ!」
デイジーが座った切り株の上で足をばたつかせた。
「そうですわね。ではわたくしとご一緒にお酒のレッスンでも受けませんこと? ワインのテイスティングなどの授業もありますから、ステファンさんと仲良くなりながらお酒の事も学べますわよ」
アシュリーの提案にデイジーの目がきらりんと光った。
「いいのいいのー? やったぁ!」
デイジーは大はしゃぎしている。お目当ての男性にお近づきになれるかもしれないからだ。
アシュリーは人と人の縁を繋いだり口利きをするのが好きなので、こういった援助は良く行われている。
「リレイはどうかしら? わたくしのレッスンの日に同行するのは」
アシュリーにはお嬢様としての特権があるので、とりまきを連れて行こうがお構い無しなのだろう。そんな彼女からの提案だった。
「えっ、私? そうだねぇ。じゃあ、私も参加してみようかな!」
リレイもお酒には興味があった。家でも時折食前酒は出るので、まったく無縁と言うわけではない。この機にちゃんと覚えようというわけだ。
「そうと決まればこれから行きましょう。昼間ならステファンさんも店を開けていないから自由な時間のはず」
「あらあら。じゃああたしはおうちに帰っているわね。あたしじゃお料理できないだろうし」
シャルロッテは三人と別れ、ふわふわ浮きながらリレイの家の方角へと飛んで行った。
アシュリーの提案でその日はお酒の勉強会が開かれる事となった。女の子達が人形を連れて村の酒場へと向かう。




