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リレイと不思議な道具達  作者: 神島世判
あるべき姿
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誰が為に何をなす

 一人の女性があらゆる全てを変えている中、そんなことはまったく知らぬリレイは家でシャルロッテと編み物をして遊んでいた。身につけるセーターを編んでいる。シャルロッテも毛糸の帽子を編んでいた。


「シャルロッテは編み物を小さく作れるからすぐに沢山出来ていいね!」


 リレイは色の違う毛糸玉に変える。ピンク色の毛糸玉と白い毛糸玉を使っているようだった。交互交互に色を変えて模様を作っている。


「この調子で靴下も作っちゃうわ。いろんなお洋服に合うように、白い色で統一しているの。これなら着合わせも困らないでしょうし。ところで帽子にぽんぽんをつけたいのだけれど、どうやって作るのかしら?」

「あぁ、それはね。まず毛糸を真っ直ぐ紙に巻いていくの。それから一本糸を通して真ん中でぎゅっと結ぶ。反対側も同じようにね! そして長い糸で真ん中を結んできつく結んで、その糸に針をつけて出来たぽんぽんに針を通すの。ぎゅっとなるまで針を通して結んで、そうしたら糸を切っていくとぽんぽんのできあがりよ!」


 リレイが編み物の仕方を説明する。


「うん。言葉だけじゃわからないわ!」


 シャルロッテにはリレイの説明はわからなかったようだ。


「じゃあ、こっちの編み物が終わったら手伝ってあげる!」


 少女と人形はきゃっきゃしながら編み物をしているのだった。そこに母親が顔を出す。


「リレイー? あなたにお客様よ? 見知らぬ男の子ね」


 そう言うと母親は去っていった。


「えっ、誰なんだろう?」


 リレイはシャルロッテと顔を付き合わせた。そしてリレイは立ち上がって一階のリビングを目指す。そこにいたのは以前どこかで見かけた男性。そう、レスティだった。


「やぁ、君がリレイちゃんかな?」

「えぇ、そうですけれど」


 リレイは相手にどう接したらよいから困っている。


「実は君に聞きたい事があってね。サティアに髪の色を変える魔法の道具を譲ったとか彼女から聞いている」

「えーと、確かにそんなことがありました」


 実際にはシャルロッテがサティアに魔法の道具を渡したのだが。あの時には名乗らなかったが、リビングドールを連れた少女など他にいないからすぐにわかったのだろう。


「サティアは髪の色を染めた。それから彼女は変わってしまったんだ。何か知らないかと思ってね」


 レスティは思い悩んだような表情でそう切り出した。


「それはあの染料が染めた色に性格も変えてしまうからよ」


 聞こえてきた声はシャルロッテのもの。リビングドールがリレイの後ろからふっと浮かんでやってきた。


「えっ、なにそれ。シャルロッテ。そんなの聞いてないよ!」


 リレイは知らぬ情報が出てきたことに驚いた。


「そうでしょうね。だって言っていなかったもの」


 話を聞いていたレスティが立ち上がる。


「ではやはり彼女の性格が変わってしまったのはあの染料の効果によるものか! あれ以来彼女は派手好きになってしまい、服装も変わり化粧もするようになってしまった。周囲のものは男も女も彼女に惹かれて虜になってしまっているんだ!」


 レスティの話にリレイがまたしても驚いた。


「そうでしょうね。あれは性格を変える事で運命をも変える魔法の道具。彼女が自己否定ばかりをしていたから、それならこれはいかがかと勧めたの。まずかったかしら?」


 シャルロッテが首をくりっと傾げる。


「はっきり言おう。僕は今の彼女に違和感しか覚えない。どうか以前の姿に戻って欲しいと思っている」


 レスティは苦心の末に言葉を吐き出した。以前は以前で彼女がいろんなことに悩んでいた事を知っていたので、迷いながらの出た答えのようだ。


「あれは魔法の染料。使った人が以前の方がいいと思わなければ、色は落ちないわ。だから本人を説得するしかないの」


 シャルロッテの言葉にレスティは頷いた。


「ならば彼女を説得しよう!」


 レスティがリレイ達の家を出て行く。リレイとシャルロッテは慌てて彼の後を追った。




 彼らが訪れたのはサティアの家の前。それはこじんまりとした小さな青い土壁の家。

レスティはドアの前に立つと、大声でサティアを呼んだ。


「サティア! 来てくれ! 話がしたい!」


 レスティの大声の呼びかけに、やがて家のドアが開き、サティアが現われた。


「レスティ、一体全体どうしたのかしら?」

「今日の僕は本当の君に会いに来た」


 レスティは思いつめたような表情でサティアに寄った。


「本当のわたし? いつだってわたしじゃない。何を言っているのかしら」

「そうじゃない。建前で飾らない本当の君なんだ!」


 真剣な表情でレスティは迫るが、サティアはそれを笑った。


「そうね。これまでの自分はそうだった。でも今は違う! 本音で生きていられる! 自分をさらけ出していられる! 誰かの顔色を伺わなくてもいいの! みんながわたしを褒めてくれる!」


 サティアは恍惚とした表情だ。


「それは魔法の道具に頼っているからだよ! そんな力に頼るのはやめよう!」

「元の意気地無しで地味なわたしに戻るなんて嫌よ! わたしだってちやほやされていたいもの!」


 サティアはレスティの懇願を拒絶した。彼女はレスティを突き飛ばす。


「僕は・・・・・・以前の君の方が好きだった。君は意気地なしなんかじゃない。人に気を使いすぎるだけだ。地味なんかじゃない。自然体のままで十分魅力的だった。僕はそんな自分を飾り立てて見せようともしない君の事が好きだった・・・・・・ごめん。今の君は好きにはなれない。さようなら」


 レスティは踵を返してサティアへと背を向け去って行こうとする。そのことにサティアは激しくショックを受けた。


「あっ、違うの! そんな・・・・・・わたしは・・・・・・本当はみんなにちやほやされたいんじゃない・・・・・・飾った自分しか見られないような、そんな人間関係ばかりになるなんて嫌! わたしは・・・・・・本当はあなたと一緒にいたかっただけ! こんな・・・・・・こんな髪の色になんてしなければよかった!」


 サティアが叫んだ途端に彼女の髪の色が抜けて元通りになった。サティアは去ろうとしたレスティに駆け寄っていく。そこには誰かへと、何かへと遠慮して自分を押さえ込んでいた女性の姿は無かった。本当の、あるべき姿で好きな人に接したのだから。

 少女と人形はその成り行きを見守り、落ち着くべきところへと話が落ち着いたのを確認してからそっと立ち去るのだった。

 魔法の道具は不要とされたが、結果的には一組の恋人達を幸せにしたようだ。彼らが相思相愛であったことが公となり、リズもおとなしく身を引いて二人の行く末を祝福するようになったという。リズにも家ぐるみで付き合いによる体面があったようだが、その体裁にこだわる必要が無くなりサティアに突っかかる必要がなくなったからなのだ。

 こうして、全ては丸く収まった。


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