女変わるもの
その夜。サティアはお風呂上りに鏡の前に立っていた。渡された染料の入った器の蓋を開く。
「本当に銀色なのね。何て派手なのかしら。でも、あこがれ続けた色・・・・・・」
サティアは染料の輝きに目を奪われた。やがて意を決し、染料を櫛で髪に塗りこんでいく。鏡の向こう側のサティアの姿が徐々に銀色尽くめに変わっていくのだった。
翌朝。学校に現われたサティアはきらきらに輝く銀髪をたなびかせて現われる。それは陽光を浴びて七色の輝きを放っていた。
「あ、あなたはサティア?」
リズがサティアに気が付いて驚き声をかける。
「おや、誰かと思えばリズさんではありませんか。ご機嫌いかが? アッハハハ!」
サティアは高らかに笑った。それはいつもの様子と違う。ゆえにリズは後ずさった。
「そ、その髪の色は?」
「染めましたの。えぇ、ちょっとしたイメージチェンジですのよ? フフフッ、まるで世界が変わって見えますわ!」
サティアの様子の違いはどうも自信の違いにあるようだ。昨日までの彼女は自分を取り巻く世界を否定的に捉えていた。しかし、今はそうではないようだった。
リズは距離を置いてサティアを見ているしかできなかった。
しかし、様子の違いはそれでは終わらなかった。他の女子達がサティアの輝かしい銀髪に惹かれて集まりだした。皆口々にサティアの髪を褒める。誰も彼もがシルバーヘアーに憧れをみせた。女子の一人がサティアのほかの異変にも気が付いた。
「サティアさん。今日はあなた、化粧をしていらっしゃいますのね?」
すると女子達が一斉にサティアを見る。
「えぇ。今日は化粧をしてまいりましたの。アイシャドウで目力をあげてみましたのよ。目は口ほどにものを言う。ならばここに力を入れなくては、と」
他にもファウンデーションやフェイスパウダー、チークも使われているようだった。
「素晴らしいですわ! ワタクシにも教えてくださらないかしら!」
女子達はサティアの変貌ぶりに驚き、そして群がった。いつものおどおどした態度ではなく自信に満ち溢れた態度に異変は感じつつも、その違和感がなんであるのかを思考の片隅に追いやっていた。それはまるで魔法に掛けられた様に。そして魅了されていく。
それは男子達も同じだった。急に大人びたサティアに驚かされ、そしてえもいわれぬ輝きに魅了されていくのだ。
「フフフ! まるで世界が輝いて見える! これはわたしが輝いているからに違いないわ!」
サティアを中心に周りの人間関係は変わっていった。彼女の周りに人が集まる。
やがてリズが仲間外れにされるようになった。彼女はこれまで率先してサティアをいじめてきた負い目もあって、とても輪の中には入れなかったのだ。リズは無言でかつての仲間達から離れて行った。




