心を変える道具
それを見ていたリレイはサティアに詰め寄る。
「どうしてさっきの男の人に、自分はいじめられていたって言わなかったんですか!」
リレイは唐突にサティアに詰め寄った。サティアは驚き面食らう。
「あ、あなたはだれ? いきなりなんなのかしら?」
「私はリレイ。さっきの一部始終を見ていました。お姉さん、いじめに遭っていたじゃないですか! どうして口論の中心となっていたお兄さんに言わなかったんですか?」
「だって、レスティのお父様はリズさんと婚姻関係を結ばせようとしているから・・・・・・。わたしにはあの人達の関係に口を挟めないわ」
「お姉さんはあのお兄さんの友達なんじゃないんですか?」
「えぇ、子供の頃からの知り合いよ」
「じゃあ、誰かに何かを言われる筋合いなんてないじゃないですか。どうしてお姉さんがいじめにあっているんです!」
リレイは憤った。
「それは・・・・・・わたしがいつも彼のそばにいるから・・・・・・。レスティはわたしに婚約関係の話が決まってしまう前に、正式に交際宣言しようって言ってくれたけれど、わたしなんかと一緒になったら彼に迷惑が掛かるわ。だからやんわりと断ったわ。本当はわたしと一緒にいない方がいいのよ」
サティアは他者に遠慮がちなようだった。我を押し通すのが苦手な模様だ。
「そんなのよくない!」
リレイが声を荒げた。
「よくないって言われても、わたしにはどうする事もできないから。リズが言うように、こんな中途半端に赤焼けた髪の女の子なんてどこにでもいるし、リズみたいな綺麗なヒスイ色の髪の色をした女性の方が、レスティには似合うわ」
サティアはいじけたように呟いた。その時リレイの横で聞いていたシャルロッテが何かを閃いたようになった。シャルロッテはロープでゲートを作り出して潜り込んで行く。
リレイはそんなシャルロッテに気が付いた。
「あっ、シャルロッテ! 急にどうしたの?」
リレイがそう声をかけると、ゲートからシャルロッテが飛び出してきた。
「こんな時にこそ便利な魔法の道具を取りに行っていたのよ。はいこれ。髪の染料。あなたはどんな色がお好みかしら?」
シャルロッテは道具の入った木箱を持ち出してきた。問われたサティアは意味がわからず、きょとんとしている。
「色? 色って何のことかしら?」
サティアは尋ね返す。
「髪の色よ。どんな色にでもあなたを染めてみせる魔法の道具があるの。これがあればあなたは自らのコンプレックスを気にする必要は無いわ」
シャルロッテがずいずいっとサティアに詰め寄った。
「そんな染料を使ったからといって・・・・・・でも、わたしは目も冴えるような銀色の髪に生まれたかったけれど・・・・・・」
サティアが思わず願望を口にした。それを聞いたシャルロッテは木箱をごそごそ漁って、一つの染料が入った入れ物を取り出した。
「はい。銀髪に変える染料よ。お風呂上りに髪に塗り込んでちょうだいな。そうすればたちどころにあなたの運命が変わるわ」
サティアはシャルロッテの押しの強さに負けて染料を受け取った。
「そんな髪の色が変わったくらいで、現状なんて変わらないと思うけれど・・・・・・」
サティアは魔法の道具に懐疑的なようだった。
「いいのよ。あなたが自分を変えたいっていう思いさえあれば。そうすれば全てが変わるから」
シャルロッテはそう言うと、木箱をもってまたゲートをくぐって行った。魔法の染料を置いてくるようだ。そして人形はすぐに戻ってきた。
「わたし・・・・・・が変わる・・・・・・」
「そう。さぁ、リレイ。もう行きましょ」
シャルロッテはそう言うとリレイに帰路を促がした。リレイは「う、うん」と呟き、人形に背を押されながらその場を後にする。




