リレイの家の魔道具達
「お待ちになって。この壁にある金属のロープと、壁掛けにある鍵を持っていきましょうか」
「えっ、これのこと?」
リレイは言われた物を取得する。シャルロッテはそれを確認する。
「えぇ、それらよ。なぜ持っていくのかは後で説明するわ」
リレイは頷くと金属のロープと鍵を持って倉庫を出た。シャルロッテも外へと飛び出す。リレイは倉庫の扉を閉めて鍵を掛けた。そしてはがしていた封印札を貼りなおした。こうすれば中に侵入した事はばれないだろうと。
リレイは上の階を指差した。
「上の部屋へ行きましょ。今は私の部屋なの」
リレイがぱたぱたと階段を駆け上がる。シャルロッテは吹き抜けを一気に飛んで移動する。先に自室へ飛び込んだリレイが、金属ロープと鍵を床に下ろした。
リレイの部屋はベッドと机と本棚とクローゼットがあるシンプルな部屋だった。本棚には沢山の小説が置いてある。
「あら、面白そうな本が沢山あるわね。後で読ませて!」
シャルロッテは本棚にふわふわと近づいて覗き込んでいる。
「いいよ! 後で感想を交換しようよ。他の人がどんな風に感想を抱くのか気になるから!」
リレイは本を読むのが好きだった。だから身近に本が好きそうな友達が増えた事を喜んだ。
と、不意に外が暗くなり出す。太陽の光が失われているかのようだった。
「あらあら、丁度中つ夜の時間なのね」
シャルロッテが言う中つ夜とは巨大な星の輪が太陽光を遮る為に、昼の間の三十分から一時間ほど暗くなる時間帯の事だ。その間は地表の人々は休憩時間として過ごしている。
「あっと、灯芯に火を灯さなきゃ!」
リレイが灯り用の油皿に浸った紐に火口箱で火をつける。ぽっと灯りが付き、少女や人形がお互いを視認できるようになった。
「中つ夜の時間ならお布団で昼寝でもすればいいのに」
シャルロッテはリレイの布団の上にぽんぽんと乗っている。
「寝るのは夜で十分! それよりこのロープと鍵はどうするのか聞いていないわ。何に使うのか教えてよ」
リレイの興味は謎の道具にあるようだ。シャルロッテは床に下りるとロープと鍵を手に取った。
「この二つが在ればいつでも倉庫の中身は取り出せるの。あそこにある物を寝かせたままにするのはもったいないわ」
シャルロッテは金属のロープで輪を作った。床の上に置かれた輪の中が水たまりのようになり、やがて鏡のように変わった。
「えっ。なぁに、これ?」
リレイが不思議な道具に驚く。
「これかしら? これは水鏡のロープと言うのよ。輪を作った中に水で鏡を作り出すのよ。ただそれだけのマジックアイテムなの」
シャルロッテが得意げに道具を解説する。
「ふぅん。どんな風に使うの?」
「普通の鏡代わりにしか使えないわ。でもね、これも使うと・・・・・・」
シャルロッテは床の鍵を拾い上げる。そして先端を水鏡に差し込む。水鏡はカチリと音がする。すると鏡は虹色に輝き始めた。
「これはいったいなにかしら?」
「鏡扉の鍵というアイテムよ。これを鏡に使うと、倉庫の中の対になる鏡から出られるゲートに出来るの」
シャルロッテは水鏡に飛び込んだ。そして懐中時計を拾って戻ってくる。
「うわっ、すごい! うちにこんなものがあったんだ!」
「そうよ。これがあなたのお父さんの所持していた財宝。リキッドは世界中を冒険している探検家で、遺跡の様々なマジックアイテムも集めていたわ。どれも神話級のマジックアイテムよ。この懐中時計なんて、時を止める力があるんだから!」
シャルロッテが懐中時計をリレイに差し出す。
「へぇー! すごーい! あれ、この時計。針が動いていないね」
リレイが不思議がると、シャルロッテもあれっと懐中時計を見る。
「ほんとだわ。以前見たときは針が動いていたのに。壊れたのかしら?」
シャルロッテが懐中時計をかざしたり振ってみたりしている。
「これについてはまたあとで。それよりシャルロッテを私の友達に紹介したいわ!」
リレイはシャルロッテから懐中時計を取り上げて机の上に置いた。
「あなたのお友達? あたしみたいなのが受け入れられるかしら?」
「ね、中つ夜が明けたら行ってみよう!」
「わかったわ」
シャルロッテは水鏡のロープを自分の腰へとくるくる巻きつける。そして鏡扉の鍵の壁掛け紐を自分の首にかけた。こうやって持ち運びするつもりのようだ。
しばらく待つと外が明るくなり始めた。リレイは灯芯の火を吹き消すと、シャルロッテの手を取って部屋を飛び出すのだった。