お化粧話
人は誰しもこうありたいという姿を、理想像を持ちえよう。だが、理想と現実は違うもの。年頃の女の子達もまた、こうありたいという姿を追い求めていた。
村のいつもの広場。切り株椅子に座って楽しいおしゃべりタイムに興じるリレイ達。その日は女子達の集い。その日の話題はお洒落に関するものだった。
珍しくアシュリーが口に紅を差している。そのことにデイジーが早速食いついた。
「アシュリー、今日はお化粧しているの?」
「えぇ、午前中にお客様が来たから。今日はそのまま来ましたのよ」
「いいないいなー! デイジーもお化粧したーい!」
デイジーはまだ子供とはいえおませな子。大人がやっている事にあこがれている。だがそれはデイジーだけではない。リレイもだった。
「アシュリーはお化粧するのを許されているんだね! 私はまだ、リレイにはまだ早いよってお母さんに言われているから」
リレイもアシュリーをうらやんだ。
「だよねだよねー? うちもお化粧は高級品だし、子供にはまだ早いって言われているんだー。アシュリーのおうちはお金持ちだし、きっとすごい化粧品を沢山もらえるんでしょ?」
デイジーの家もリレイの家も裕福とは言い難い。それに引き換えアシュリーの家は富豪の家。経済格差が大きいのだ。
「わたくしは早い段階から化粧品を買い与えられていますわ。でも、化粧をするのは主に使用人に任せておりますの。だから化粧の仕方自体は詳しくはありませんわ」
アシュリーと他の少女達の格差は予想以上に大きかった。化粧係の使用人までいるという。身分の
高い者はこういった技術の必要な事は自分でやらず、スペシャリスト達に任せるのだ。それもまた高貴なる者としてのスタンダードだった。
「それもすごいよねー。自分でやるより綺麗になれるんでしょ? デイジー達は自分でやらなきゃいけなくなると思うけれど、教わってすぐにできるようになれるかなぁ」
「あら、それでしたら使用人達が所持している化粧法の技術書がありますから、それを貸与いたしますわ。遥か彼方の都から取り寄せましたのよ」
アシュリーの家には珍しい蔵書が沢山ある。それもまたとてつもない資産だった。
「ええっ? いいの? うわぁ、すごい興味がある!」
リレイとデイジーは目を爛々と輝かせた。化粧の仕方はとてつもなく興味があること。
「でもでも、リレイー。デイジー達はお化粧品を手に入れるのも大変じゃない? お小遣い足りないし、村の雑貨屋には置いてないしー」
「あっ、そうだよね・・・・・・」
一瞬喜んだリレイだったが、現実的な問題に直面して意気消沈した。
しかし、そこでシャルロッテが反応した。
「あら、リキッドの持ち帰った財宝の中には化粧品の類もあったわ。なりたい大人に変身できるという化粧品だけれどね。他にも珍しいものとして、髪の染料があるわ」
シャルロッテの言葉にデイジーが飛びついた。
「髪の染料? それってどんなの? どんな色に出来るの?」
「赤とか青とか緑とか、すごいのだと金とか銀色もあるわ。これもとってもすごい魔法のアイテムなのよ」
「あらぁ、それは素晴らしい道具ですわね。わたくしの化粧道具にも髪の染料はありませんわ。なんとも思い切ったイメージチェンジになりますわね」
いろんな道具を持っているであろうアシュリーも感心する。
「そうだよね。流石にそこまでやったらお母さんに怒られるかなぁ。うーん、私はやめておく!」
リレイは髪染めを諦めた。母親から貰った生まれつきの紫色の髪があるのだ。それで十分と考えたようだ。
「だよねだよねー。そこまで派手にやっちゃうのはまだ早いかな。と、言うわけでデイジーもやめておく!」
デイジーはまだ早いと言う当たり、将来的にはやるつもりなのだろう。
「あら残念ね。まぁ、確かに子供にはまだ早いかしらね。大人になったらいろんな意味でこの染料にあこがれると思うわ。フフフッ!」
シャルロッテは思わせぶりに笑った。
「そう。お洒落は大人になってからのお楽しみに取っておくの! 夢はいつか叶えるから楽しいのよ」
リレイの言葉に、他の二人も頷くのだった。
今日もまた、楽しいおしゃべりタイムは過ぎていく。




