リレイの知名度
「リリンちゃん、ですか?」
「えぇ、そうよ! リリンちゃん、おいでー!」
お婆さんが声をかけると、奥からリンリンと音を鳴らしながら何かが近づいてくる。・・・・・・それはふわふわにしてもこもこの毛並みの猫だった。
「あっ、猫ちゃんだ! 可愛いー!」
リレイは思わず目を丸くする。とてつもなく愛くるしい姿の猫がとてとてと歩いてきたのだから。その猫はするりんとお婆さんの膝の上に乗った。
「可愛いでしょ? 今はこの子も家族の一員なの。この子がいるから寂しくなんてないのよ! この子ったらとても甘えん坊でねぇ」
お婆さんは猫の頭を撫で回す。猫も喉をゴロゴロ鳴らしてご機嫌だった。
「何て素敵なのかしら!」
「この子、人懐っこいから触っても大丈夫なのよ。撫でてみる?」
「いいんですか?」
リレイは嬉しそうに身を乗り出して猫へと手を伸ばした。すると猫は撫でて欲しそうに、リレイの手のひらへと頭をごんごんとぶつける。リレイは猫の頭を撫で回した。
「ね、この子がいてくれれば寂しくなんてないのよ!」
「とってもいい子なんですね!」
「わたし達夫婦には子供がいなくってねぇ。寂しい晩年をすごしていたのだけれど、夫が猫を飼ってみないかって薦めてきてね。いざ飼ってみればなんて可愛らしい事か。今ではこの子はわたし達の娘同然なのよ」
お婆さんは笑顔で猫の頭を撫でた。
「いいないいなー。私も猫を飼ってみたい」
「おうちが賑やかになるから良いわよ。ちゃんとお世話しなきゃだけれどねぇ」
動物を飼うということは、きちんと心配りをして世話をする必要がある。
猫がお婆さんの膝上からすとんと床に下りた。そしてリレイの足元に寄って来て、すりすりと身を摺り寄せる。先がくるんと丸まった尻尾をリレイの足に絡ませようとする。
「私じゃあちゃんとお世話できないかなぁ。猫にどう接したらよいのかもわからないもの。あっ、でもね。私にも最近家族が出来たんだよ! リビングドールのシャルロッテっていう子なの!」
リレイの言葉にお婆さんは驚いた。
「まぁ、リビングドールなの? 珍しいわねぇ。この辺りにはいないと思ったけれど」
「お父さんが旅先から連れて帰ったんだって」
「まぁまぁ、それはまたすごいお父さんなのねぇ。そんなことできるような人間なんて限られているわね。もしかして、リレイちゃんのお父さんはリキッドさんなのかしら?」
お婆さんはリレイの父親を当てた。どうやらリビングドールを連れ帰るような人間など、この村には限られているようだ。
「そうなんです! お父さんは冒険家のリキッド・オースティンです!」
リレイはちょっとだけ誇らしげに自分の父親の名を出した。
「懐かしい名前だわねぇ。しばらくおうちに帰ってきていないんでしょう? とある王国から前時代人類史の調査を頼まれたんだって聞いているわねぇ。人類存亡をかけたとても大事なお仕事なんですってね。リレイちゃんの方こそ、お父さんに会えなくて寂しくないの?」
「友達は沢山いるし、お母さんもいるから寂しくないです。お父さんには会ってみたいけれど、大事なお仕事で忙しいなら仕方ないかなって、そう思えるので」
リレイは父親に会った事が無いのは不満に思っているが、現状には満足していた。みんなと一緒に暮らしていて楽しいのだから。
「偉いわねぇ。今日はわたしの話し相手になってくれにきたんでしょう? リキッドさんの娘さんはお年寄りの知り合いも多くて、とてもいい子だって噂は聞いているもの。ありがとうねぇ」
お婆さんは頭を下げた。リレイはリレイで有名人なようだ。
「そんな! 私はお婆さんの事が知りたかっただけですから!」
リレイはあくまで自分の都合で訪れたと押し切るようだ。それはお婆さんが一人暮らしで寂しい老人と周りから思われているとは思わせないようにする心配りだった。
「今日は良い時間をありがとう。もう夕暮れだからおしゃべりはここまでにしておきましょうか? そうだわねぇ。今度リレイちゃんのお話を聞かせて欲しいかしらねぇ」
窓の外は夕暮れとなっていた。話し込んでいるうちに、時が経つのを忘れていたようだ。
「私もお話が聞けて嬉しかったです。今度、お友達のリビングドールを連れてまた来ます!」
「えぇ、えぇ、そうしてちょうだいな! 楽しみに待っているわ。リリンちゃんとね」
お婆さんがそう言うと、猫がなぁーおと鳴いた。
そしてリレイはお婆さんの家を後にする。少女は充実した一日を過ごしていた。




