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リレイと不思議な道具達  作者: 神島世判
炎禍の中で
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猫と老婆

 その後、友達とのおしゃべりタイムを終えたリレイはその足で花壇坂を目指す。

花壇坂とは村の名所のひとつであり、東側に面した日当たりの良い緩やかな上り坂で、その両脇には花壇が作られている。赤や黄色の色とりどりの花が村人達の憩いの場として出迎えてくれるのだ。ゆえに花壇坂。そのスロープの脇に何件かの民家が立ち並ぶ。

 リレイは木の虚を利用した古い家の前に立った。築三十年はあろう家で、板張りの屋根には何度も修繕した痕が残る。古くから村にあったであろうその家の扉を少女はノックした。

 やがて一人の老婆が現われる。


「はいはい、どなたかしら?」


 白地に花柄のエプロン姿のお婆さんが現われる。丸めがねを掛けていて、どこか温厚そうな顔つきの人物だった。


「あの、私リレイと言います! 今日はおばあさんの事が知りたくて会いに来ました!」


 リレイは頭を下げた。見知らぬ相手が突然訪れて、いったい何を言うのだろうかと思われるだろうかと考えもしたのだが、正直に伝える事にしたようだ。


「あらあら、珍しいお客様ね。どうぞあがってくださいな」


 老婆は嫌な顔一つせずに子供を迎えた。


「おじゃまいたします!」


 リレイは招かれ家へと上がった。中は家と同様に年季の入った家具が並ぶ。通されたのは樫の木でできた椅子。少女が座るとぎしりと言う音がする。


「それでわたしの事が知りたいとは、一体どんなお話を望むのかしら? こんな事言われるの、ずっと昔の夫以来だわねぇ」


 お婆さんは焼き栗やくるみを菓子としてさし出した。


「まぁ、それもきっと素敵な話に違いないわ!」


 リレイは目を輝かせた。間違いなく素敵なロマンスが聞けると感じ取ったのだ。


「あらあら、そうねぇ。では、夫との話でもしようかしら」


 お婆さんはそう言うと、二人分の蜂蜜入りのホットミルクを用意した。そしておばあさんの話が始まる。それは夫との馴れ初めから始まり、幾度かの出来事を乗り越えて結婚まで至った話。結婚後は時には喧嘩もするけれど、仲良くやってきている話が続く。それはおばあさんの半生を現すには十分な話だった。

 

 それは一時間ほどに及ぶ長大な話だった。しかし、リレイはその間もずっとお婆さんの話に耳を傾けていた。時には相槌を打ち、時には質問を交えながら。そうしておばあさんの人生は語られた。


「お婆さんはずっとこの村で生活していたみたいですけれど、どこか遠くの土地を見てみたいとは思わなかったんですか?」


 リレイがお婆さんの話を聞き終えて、その上で出てきた質問をする。それはリレイには興味がある話だった。彼女は遠い異国の地へと憧れを持っている。大きくなったら父親みたいに冒険もしてみたいと思っているのだ。自分はこの村の事しか知らない。それでも余所の土地のことは気になる。ずっとこの村で暮らしていたお婆さんは違うのだろうかと思ったのだ。


「そうね。そういう事に興味がなかったといえば嘘になるわねぇ。でもね、住む場所なんてどこでも良かったのよ。夫と一緒ならば」


 お婆さんはそう言って笑った。そんな老婆の答えにリレイは考える。もしジェバンニと一緒になれるのだったら、どこで暮そうが構わない。だからおばあさんの言っている事を理解できるのだ。


「きっと、そうなんですよね。素敵だと思います。・・・・・・ところで旦那様はご不在なんですか?」


 リレイはヘクターからおばあさんの夫が仕事で不在なのは聞いていたが、あえて直接尋ねた。


「えぇ、仕事で村を出ているわ。当分帰らないでしょうね」

「・・・・・・お一人で過ごして、寂しくないんですか?」


 リレイはふと感じた事を尋ねる。あれだけ夫の話をしていたおばあさんなのだから、その夫の不在をどう思っているのかを知りたかったのだ。


「寂しくないといえば嘘になるわね。でも平気なの。だってわたしにはリリンちゃんがいるから!」


 お婆さんは知らない名を唐突に出した。


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