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リレイと不思議な道具達  作者: 神島世判
炎禍の中で
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日常の輪

 その日、リレイは友達と談笑していた。集まるのはいつもの広場。大きな木の切り株をテーブル代わりに、持ち寄ったお菓子と飲み物でおしゃべりをする。

 その日の話の中心に経つのはアシュリーだった。彼女の話は大抵金持ち自慢のような話になった。その日もあいも変わらず自宅の地下にあるワイン倉庫の自慢をしていたのだった。


「わたくしもようやく自分のワインを所持する事が許されましたの! チボリー産の赤ワインを買い付けて貯蔵していますのよ!」


 チボリー産のワインは高級ワインで有名だった。アシュリーが言うからにはヴィンテージ物に違いないだろう、誰もがそう思った。


「いいなー。デイジーのおうちにはそんなワインを置くところとかないもん」


 デイジーが羨ましそうにする。と、デイジーの席の隣に座っていたヘクターが笑った。


「ワインなんて貯蔵してどうするんだ! その日飲む分だけあればいいじゃないかい?」


 空気を読まないヘクターが話に水を差す。こんなだから彼はいつも女子達を敵に回す。が、他の子たちも慣れっこなのでその事には特に何も言わない。


「論外でしてよ! 当方くらいになれば、お客様にお出しするお料理に添える食前酒にも一考が必要でしてよ! わたくし、お父様からお客様をもてなす為のワインの選定をする仕事も任せられましたの! 客人をもてなす心遣いを学ぶようにと」


 アシュリー家では使用人がいるが、大事な客人をもてなす為の料理などは家の主が厳格に管理し指示するのが慣わしとなっていた。それは商談を纏める為に必要な接待技術であり、娘が子供の頃から教育をするのが家の方針のようであった。


「アシュリーすごいなぁ。親からそんなお仕事任されているんだ!」


 リレイが素直に感心する。彼女の隣に座っていたシャルロッテがうんうんと頷いている。


「まだまだ、今は色々と教わってばかりでしてよ。だから本当に任されるまでは自信がないのですわ」


 アシュリーは謙遜しつつも誇らしげにしている。


「もてなす事を考えると言う事は、相手の人がなにで喜ぶかを考える事だもの。それはきっと素晴らしい事だわ。なんだか素敵ね!」


 リレイはアシュリーをそんな形でうらやんだ。決して相手が裕福だからとかそんなことに対してではない。それがリレイと言う少女だった。

 シャルロッテはリレイのそんなところに感心して話を聞いていた。


「そうね。そんな風に思えるリレイも素敵ね」


 人形がリレイをも讃える。アシュリーもデイジーもヘクターも頷きながら聞いていた。


「リレイのおかげでわたくしも益々自分の任された仕事の重要性に気付けましたわ。何てやりがいのある事を任されたのかしら! わたくしは幸せですわ!」


 アシュリーはもてなしの極意が、ただ高価な物で歓心を買えばよいと言うわけではない事に思い至った。そうなのだ。こちら側が満足する為にやるのではない。相手を喜ばせる事を第一に考えなくてはいけないのだ。


「みんなとおしゃべりすると、いろんな事に気がつくから楽しいね!」


 デイジーが年頃の娘らしくはしゃいだ。


「何だよ、デイジー。そんなにおしゃべりが好きなら花壇坂脇の家のおばあさんの話し相手になったらいいのに」


 ヘクターがやめればいいのにデイジーに突っかかった。


「なによ。どうして花壇坂のおばあさんの話が出るわけ?」


 だから当然デイジーも棘あるイントネーションで返答を返すのだ。


「あそこのおばあさんもおしゃべり好きでいつも退屈しているからさ。たまに会うんだけれど、話が長いのなんのって」

「あら、あのおばあ様? 旦那様がご健在だったはずよ?」


 アシュリーが首をかしげた。彼女は村の事情には精通している。


「あぁ、そのお爺さんなら仕事でしばらく村を空けているよ。子供さんはいないらしいし、今は一人で暮らしているはずさ」


 ポポカカ村はお年寄りが多いのだ。若者も大半は出稼ぎに村を出ている。


「そうなんだ? それじゃあ寂しい思いをしているかもしれないね。私も予定が無い時に顔を出してみようかな?」


 リレイは一人で暮らしていると言うおばあさんに興味を持った。


「リレイ、やっさしー! デイジーは恋ばなが出来る同世代の子とおしゃべりするのがいいなー。そうじゃなきゃ、たぶんデイジーの方ばかり一方的にしゃべっているから!」


 そう言うデイジーではあるが、彼女は相手の話をちゃんと聞く。ただ、大好きな話題になると休まず口が動き続けるだけであった。


「おばあさんがどんな人なのかも興味あるわ。どういった人生を歩んでこられたのか、何に関心を持たれているのか、何を大事にされているのか、聞いてみたいの」


 リレイは人の話を聞くのが好きなのだ。誰かの話は生きた物語。本で読む物語とはまた違っているからだ。話し手によるかもしれないが、誇張もなく脚色も無い真実の物語がそこにあると感じているのだ。


「大人の方の話って参考にもなりますものね」


 アシュリーが同意した。彼女は普段から大人達と付き合いがあるのだ。


「だよね、だよねー! 大人の男の人って素敵な話をいっぱい聞かせてくれるもんねー! 色々な顔を持っている人って魅力的だしー!」


 デイジーは如何なる時でも恋愛の話に持ち込む隙を狙っている。否、そちらの話に絡めたがる。だから即座にヘクターが反応した。


「おいおい、君ってほんとそればっかりだよなぁ」


 ヘクターは呆れながらデイジーを笑った。


「なによ! 悔しかったらあんたもそう言う話を出来るようになったらいいじゃない!」


 デイジーも当然応戦する。いがみ合う二人を他の者は「またいつものが始まった」と思いながら眺めていた。喧嘩するのも日常のうち。おしゃべり会はいつもの如く花開く。


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