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リレイと不思議な道具達  作者: 神島世判
翔る配達人
24/58

駆ける人

 その日、リレイはいつものようにシャルロッテを連れて、友達のデイジーやアシュリー、ヘクターとおしゃべりしていた。集まるのはいつもの広場。切り株の椅子に座って仲良く談笑。

 話の中心にいたのはおしゃべりなデイジーだった。彼女はいつもの如く、今好きな男性についてを語っている。実に恋多き女の子だった。


「狩人のガングリフさんってカッコいいわよねぇ。弓の腕前も村一番! 討った狼の毛皮をいつも被っていて、とっても野生的よねぇ!」

「確かに彼は村の交易品用の獲物を沢山捕らえてきますわね。毛皮製品の大半は彼の手で捕らえた狼や熊ですもの。腕の良い狩人は村の宝ですわ」


 アシュリーがデイジーに同意する。


「でしょでしょー? あぁ、デイジー、ガングリフさんにワイルドに抱かれてみたいわぁ。『今夜は君が獲物だよ』って、キャー!」


 デイジーは今最高潮に盛り上がっていた。その瞬間にシャルロッテの瞳がギラリと輝いた。


「まさに狙った獲物は逃がさない。恋のハンターさんね!」


 すかさすシャルロッテもデイジーへと合いの手を入れる。この手の話題の時には、シャルロッテは如何なる隙をも見逃さない。


「デイジーはいつも誰かに惚れているよねぇ。そんなにコロコロと好きな人って変わるものかなぁ?」


 少々醒めた様子のヘクターが、浮かれるデイジーとは対照的に冷ややかな態度だった。そう、彼は空気が読めない。


「何よ、ヘクターのくせに! 仕方ないじゃない。素敵な男性が多いのだから。あぁ、あんたは対象外ね! まだガキだから!」


 当然デイジーのヘクターに対する態度も辛らつになる。


「ははん! 僕だって君みたいな人は願い下げですよ!」

「恋模様なんて人それぞれじゃないですの。リレイみたいに一途に誰かを思う人もいるし、デイジーみたいにいろんな人達の間で揺れる子もいたっていいじゃない」


 アシュリーがデイジーに加勢した。基本いつも女性陣同士での同盟となる為、ヘクターには圧倒的に不利な状況となる。


「僕はリレイみたいなあり方のほうが賛成だなぁ。なんと言うか、そういうものだろう? 誰かを好きになるってさ!」

「おやおやぁ、ヘクター。あんたが恋を語るだなんて! 一体誰が好きなのかなぁ?」


 デイジーがヘクターの話に興味を持った。


「えっ? ほら、たとえ話だよ。誰かを好きになるなら、の!」


 ヘクターは慌てて両手を振ってごまかそうとしている。


「言えよ、言いなさいよ! 誰が好きなのかなぁ? ほれ、ほれぇ!」


 デイジーがヘクターのわき腹に指を突き刺してぐりぐりする。二人がじゃれあっているのを他の皆は微笑ましく見ていた。


「素敵な男性が多いのは良いことですこと。そうすれば村は発展しますもの。・・・・・・そういえばこの村の郵便配達の男性が事故で大怪我を負ったらしいですわね。下半身不随でもう二度と歩けなくなってしまったのだとか。村の希少な働き手が一人失ってしまったのは残念でしたわね」


 アシュリーが唐突に配達人の話をした。その話にリレイは驚いた。配達人は村に一人しかいない。


「えっ? それ本当なの?」

「えぇ、自宅療養しておりますわよ」


 リレイはあの素敵な配達屋さんがもう二度と仕事ができなくなった事にショックを受けたのだった。その後リレイは上の空で皆の話を聞いていた。



 リレイはシャルロッテをつれて、配達人の家を訪れていた。見舞いに来たのだ。いつもお世話になっている人なので、いてもたってもいられなかったのだ。

 ベッドに横たわる元配達人。その脇にリレイと宙に浮かぶシャルロッテがいた。


「お怪我は大丈夫ですか?」


 リレイは心配そうに元配達人を見た。


「ひどい怪我だが命は無事だったから十分さ。でも、もう二度と歩けなくなってしまったんだ」


 元配達人は悲しそうな表情をした。その姿を見てリレイは心を痛めた。


「そうなんですか・・・・・・」


 リレイは沈痛な面持ちで顔を下げた。その様子をシャルロッテがじっと見ている。


「歩けない事以上に、もう配達のお仕事が出来ないのが辛いよ。僕にはこの仕事しかなかったんだから・・・・・・」


 元配達員の言葉にリレイは彼の「送る人の想いも運んでいる」と言う言葉を思い出した。そして余計に胸が締め付けられる。


「あぁ、私になにかできればいいのに・・・・・・」


 リレイは自分の無力さを悲しんだ。


「そのことだけれど、何とかできるかもしれないわ」


 シャルロッテが会話に挟み込んだ。そして水銀のロープと鏡扉の鍵でゲートを開いて飛び込んで行った。彼女はベルトを持って帰ってくる。


「ねぇ、シャルロッテ。それはなぁに?」


 リレイが尋ねると、シャルロッテはベルトをリレイに差し出した。


「これは空飛ぶベルトなの。飛べるので歩く必要も無くなるわ。これがあれば彼は自由に動けるんじゃないかしら。どう? ためしにリレイが使って見せなさいな」


 シャルロッテの勧めにしたがって、リレイはベルトをつけてみた。すると彼女はふわりと宙に浮いた。そして自由に空を飛べる。想ったように自在に動けるのだ。


「すごいわ! これなら歩けなくても自由に動けるかも!」


 リレイは驚き、元配達人の部屋を飛び回る。そして地に降り立ち、ベルトを外して元配達人へと渡した。


「こんなすごいもの、受け取って良いのかい? さてはこれはリキッドさんの財宝だろう」


 元配達人は受け取ってよいものか困惑している。


「良いんですよ! 困っている人のためになるなら!」


 リレイは屈託の無い笑顔を返した。元配達人は戸惑いながらもベルトを受け取ったようだ。


 シャルロッテが気を利かせたおかげで、元配達人は再び配達人となることができた。ポポカカ村の空飛ぶ配達人として村の名物となるのに、そう時間は必要としなかったようである。


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