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リレイと不思議な道具達  作者: 神島世判
翔る配達人
22/58

父からの手紙

 たった一人のための演奏。観客は演奏者に夢中だった。そこの空間だけがいつものポポカカ村とは違う空間となる。


「おぉ、それは麗しき二人。天に並ぶ双星。二つを分つは星の川。隔たる輝きを前に、双星は佇む。会えるのは年に一度。星の川を渡り二人は天で結ばれる。一瞬の逢瀬に恋焦がれる一年を過ごし、その時を迎えて彼らは愛し合う。ほどばしる熱情。あふれ出る情熱。輝かしい刹那の為に生きる恋人達」


 ジェバンニは楽器を演奏しながら歌う。その姿にリレイは見とれた。

 一つの演奏が終わり、やがてジェバンニは一息ついた。


「これは遥か彼方の国の物語り。伝承に謳われる恋人達さ。年に一度しか会えないなんて大変だよね。さて、並べた品物は全部売れちゃったけれど、実はもう一つだけ品物はあるんだよ」


 そう言うとジェバンニはペンダントを取り出した。円形のコンパクトが付いていて、開けば中は鏡となっていた。


「うわぁ、素敵!」


 リレイは異彩な意匠の凝らされたペンダントに目を奪われる。


「良かったらこれをあげるよ」


 ジェバンニはリレイに品物を渡した。


「えっ、いいんですか?」

「あぁ。これは商品じゃなくて、人からの貰い物でね。だから売り物にするつもりは最初から無かったんだ。でも、僕じゃこのペンダントは有効活用できないだろう? ならばと思ってね」


 方便も含まれていたかもしれない。だが、紛れもなくジェバンニが譲る意志で語って聞かせた話。


「ありがとうございます!」


 リレイは大事そうにペンダントを抱えて頭を下げた。


「さて、僕はまだ仕事があるから行くよ。吟遊詩人として招かれているからね。では」


 ジェバンニは敷物を畳んで背中のリュックに入れると、その場を去って行った。彼は異国の風。遠い世界の物語そのもの。リレイの憧れの人だった。

 リレイはご機嫌な足取りで自宅へと向かう。首からはコンパクトをぶら下げて。行きも帰りも上機嫌。リレイにとってはその日は最高の一日だった。

 その帰り道。村を行き交う人物がリレイの目に入る。その人物とは自転車に乗った郵便の配達人だった。彼は次々と住人達の家を訪れてはポストに郵便物を投函して回っている。時には住人達から感謝されている。どうやら手紙だけでなく小包みも取り扱っているようだ。リレイは今日こそは父親から便りがこないだろうかと少しだけ期待した。

 少女が自宅の前にたどり着いた時、丁度配達人がリレイの家のポスト前に立ち止まった。そして郵便物を取り出そうとする。リレイはポストではなく直接受け取る事にした。


「いつもありがとうございます」


 リレイは配達人を労った。


「あぁ、リレイちゃん。今日はお宅に御手紙が来ているよ。はい、これ」


 配達人は手紙を一通差し出した。リレイは手紙を受け取る。


「ありがとうございます! 手紙を運んで人から感謝される。良いお仕事ですね」

「配達しているのは物だけじゃない。送る人々の想いも運んでいるのさ!」


 そう言うと配達人はニヒルに決め顔を作るのだった。


「それは素敵だわ!」


 リレイは素直に感激した。配達人はその後も配達の仕事を続けていく。リレイはその姿を見送った。

 リレイは家に上がり、手紙の差出人を確認する。・・・・・・なんと父親のリキッドからの手紙だった。リレイは急いで手紙を母親の元へと運んでいく。


「お母さん、お母さん! お父さんから手紙が来た!」


 少女はあわただしく母親のところまで駆け寄った。


「今回は遅かったわね。さぁ、読んでみましょうか」


 母親は封筒の封を切り、手紙を取り出した。中にはリキッドが家族に宛てた手紙が入っている。内容は遺跡探索がようやくひと段落して手紙を出せるようになった事。ひとまず知らせを送るので、必要な生活費を後から送るという話、もう少しで仕事に一区切り付くかもしれないと言う話、そして家族を心配する話が書かれていた。


「お父さん、無事お仕事を終えられそうなのかな?」


 リレイはそわそわしている。生まれた頃からずっと仕事に出ていて帰らない父親。直接会った事は無いが顔だけは知っている父親。ようやく会えるのかもしれないという期待に胸を膨らませている。

「そうね。何も無いようで何よりだわ。とても重要なお仕事を任されていたから、それが終わりそうと言うのも何よりの朗報ね」

 アレイラもどこかホッとした表情を浮かべている。

 リレイはとたとたと自室へと走った。元気良く部屋に入ってきたリレイに対し、中にいたシャルロッテは驚く。


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