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リレイと不思議な道具達  作者: 神島世判
翔る配達人
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吟遊詩人

 その日、リレイの待ち人がポポカカ村を訪れる。その人物の名はジェバンニ。さすらいの行商にして詩人。彼は年に何度かしかやってこない。

 大きなリュックサックを背負い、白い羽飾りの付いたつば広の皮の帽子を被った男が村の広場にやってきた。村人達は物珍しい品々を求めて彼に群がった。ジェバンニは遠い異国の希少な商品を扱うので人気者なのだ。

 デイジーがそんなジェバンニに目を留める。そして駆け足でリレイの家を訪れるのだった。


「ねぇねぇ、リレイ! ジェバンニさんが広場に来ていたよ!」


 デイジーの第一報はリレイに衝撃を与えた。おませなデイジーは他人の恋路に敏感で、恋の仲介人をやりたがる。ジェバンニの来訪を一刻も早くリレイに伝えようと全力疾走して来たのだ。


「わ、わかった!」


 リレイは動揺を隠せずに返答を返した。


「リレイは準備があるでしょ。デイジーは先行ってるね」


 デイジーはリレイに気を利かせてその場を去っていく。

 リレイはまだ子供だ。化粧をするわけでもない。だが、それでも、だ。少しでも自分を飾り立てようとする本能はあった。彼女はレジンで作った髪留めを頭に付けた。そして鏡を見る。

 その様子を見ていたシャルロッテがリレイに声をかけた。


「似合っているわね。陽だまりに咲く花のような飾りだもの、リレイにぴったりだわ」


 事情を知っているシャルロッテが、飾りに迷うリレイを見かねて背中の後押しをする。人形が選んだのは白い花弁を模した花飾り。


「そ、そうかな? 子供っぽくないかなぁ?」


 子供っぽさを気にする程度には子供らしい子のリレイだった。言葉の端に背伸びしたい年頃の想いが出ていた。


「大丈夫よ。清楚さが出ていて良いわね」

「よーし、これに決めた。ちょっと出かけてくるね!」


 人形の後押しを受けたリレイは自宅を駆け出していった。目指すは村中央の広場。人だかりが出来ているので明白だった。

 リレイは人垣に阻まれてジェバンニの姿が見えない。そんな状況で満足できる少女では無い。人垣をするすると掻き分けて前列の方まで出て行った。

 地面に敷き物をして、商品を並べているジェバンニの姿があった。ジェバンニはカコポゴと言う名の弦楽器を奏でながら唄を歌い、周囲の人を集めていた。

 じゃらららんと弦の音が鳴り響く。


「おー、遠き大地、果てしなき異国の空。異なる町並、そして人の営み。彩りの屋根立ち並ぶ国々、雄雄しき自然が広がる国々。世界は広し。我、鳥のように羽は無いが、どこまでも目指そう。この大地が続く限り」


 ジェバンニは演奏にあわせて唄を歌う。彼は吟遊詩人の旅人でもある。世界各地の勇者達の叙事詩も歌うこともある。芸と取り扱う品々あわせて異国の情緒がそこにて繰り広げられていた。人々は彼に目を奪われる。それはリレイも同じだった。

 演目の合間を縫って人々はジェバンニの商品を買い求めていく。品々はどれも村には無い珍しいものばかり。飛ぶように売れて行った。

 やがて商品は売り切れ、ジェバンニも演奏をやめると人々は静かにはけて行った。後に残るのはリレイばかりとなる。


「お久しぶりだね、リレイちゃん。元気にしていたかい?」


 ジェバンニはリレイに話しかけた。彼はちゃんとリレイの事を覚えているようだ。


「お久しぶりです、ジェバンニさん。私の事を覚えてくれてたんだ!」


 リレイは軽くスカートの裾をつまんで礼をする。


「いつも君が最後まで残ってくれるよね。だから覚えているよ。それに君のお父上も有名人だからね。旅先で度々リキッドさんの噂話も聞いたよ」

「お父さんの、ですか?」

「そうだとも。今、リレイちゃんのお父上は狂乱の山脈にあるという憧憬の大天廊と言う超難易度の遺跡を攻略中らしい。人類未踏破の大遺跡らしいから、またリキッドさんの偉業が一つ達成されるんじゃないかな。少し前の噂で、遺跡の最深部から帰還したとも聞いた」


 ジェバンニが語って聞かせる話はリレイの知らない話だ。流石にその噂話はポポカカ村のような田舎までは届かないらしい。ジェバンニはリレイが父親の話を嬉しそうにするのを知っていたので、田舎の村まで伝わっていないだろう噂話をあえて語って聞かせたようだ。


「そっか。それでお父さん、しばらく連絡を出せなかったんだね!」


 リレイは父親が無事であろう話を聞けて、少しだけホッとしていた。


「きっとすぐにでも便りは来るだろうね。リキッドさんは国々の要請を受けて、人類発祥の歴史の調査を行っているらしい。今回もそれで高難易度の遺跡調査を行っている。リキッドさんは偉大だよ。過去に滅んだ超文明の遺産を紐解き、謎を解き明かそうとしているらしい。それは衰退していくばかりの人の社会を救うことになるかも知れないと期待が寄せられているんだ。彼は英雄として語り継がれてもおかしくない人物だと僕は思っているよ」

「はい!」

「それはそれとして、リレイちゃん。頭の髪飾り、似合っているね。もしかして前回買ってくれたレジンキットで自作した髪留めかな?」


 ジェバンニは目ざとくリレイの努力を見つけてくれた。これでこそ少女が出かける前に悩んだ甲斐があるというものだ。


「はい、そうです! 小鈴花の花をあしらった雰囲気にしてみたんです!」

「清楚さと可憐さを併せ持つよいモチーフだね。気に入ってもらえた見たいで良かったよ」

「ジェバンニさんのおかげです! 色々な異国の品々を運んできてくれるし、様々なお話を聞かせてくれるし・・・・・・」


 ジェバンニはカコポゴをボロロンと鳴らした。


「折角だ。最後にもう一曲行っておこう」

「いいんですか?」


 ジェバンニは一人残ったリレイの為だけに、遠い異国の地の伝承を歌にして聞かせる。それは一つの恋愛譚。弦の音に吟遊詩人の歌が乗る。

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