円満な解決を迎える孤独だった老婆
リレイは再びローザの家へと向かった。
「お婆様、これをご覧になってくださいな!」
満面の笑みでリレイが皿をローザに見せる。
「リレイちゃん。このお皿がどうかしたのかしら?」
当然ローザは皿がなんなのか、わからなかった。
リレイは早速テーブルの上に皿を置いて、木蓋を乗せる。
「これは我が家に伝わるスープが溢れるお皿。魔法の言葉を唱えると、なんとお皿にスープが満ち溢れるの! 見ていてくださいな。『ほんにゃかほにゃほにゃ。魔法のお皿よ、スープで満たされろ~』」
リレイが魔法の言葉を唱える。そして木蓋を開けると、お皿の中にはホカホカのスープが満たされていた。
「まぁ、なんてすごいお皿なの! あぁ、わかった。これはリキッド君が見つけてきた魔法の道具なのね!」
ローザはそれがなんなのかをすぐに理解した。リレイの父親のリキッドが魔法の品々を所有しているのは有名だったようだ。
「そうなんです! これがあればお婆様は食べるものに困らないわ!」
リレイは興奮した様子で告げる。これがあればローザの食事の問題は解決するからだ。
「あらあら、でもこれって大事なものなのではないのかしら? 受け取ってしまうのはなんだか悪いわ」
ローザは流石に遠慮した。このような魔法のアイテムならば、最低でも家3軒が建つくらいの値打ちはするからだ。
だがリレイは首を横に振った。
「ううん。これはずっと家の倉庫にあった物なんです。使っていなかったものだから問題ないわ。困った人を助ける為に使うならば、お父さんもお母さんも反対しないはずだから、ローザお婆様に使っていただくのが一番いいのよ!」
そう言うとリレイは皿をローザに渡した。
「あらあら、まぁまぁ。ここまでリレイちゃんに気を使って貰うなんて。嬉しいわ! これがあれば食事は十分ね。村の人達に負担を掛けることなんてなくなるわ。リレイちゃん、ありがとう!」
ローザは感激のあまり涙を流した。それほどまでに嬉しかったのだ。ローザは村人達の負担となっていて、自分は生きていて良かったのだろうかと思い悩んでいたのだから。リレイはそんなローザを救ったのだ。
「ローザお婆様の力になれるなら、私はそれが一番嬉しい!」
リレイは会心の笑みを浮かべた。
「話し相手になってもらって、その上食事の面倒まで見てもらっちゃって、私に何かできることは無いかしらね」
「ローザお婆様が幸せなら、それで十分です! じゃあ、そろそろ私は帰りますね!」
リレイはローザに手を振って、彼女の家を後にした。
村へと戻る途中のリレイの表情は晴れやかだった。日が沈みかけた道を歩きながら、リレイはスキップをしていた。
「良かったわ。これでお婆様も村の大人の人達も誰も困らない。お父さんの見つけてきた道具が役に立ったんだって、お父さんに聞かせてあげたいな・・・・・・。あぁ、我が家の家計事情はこれで白紙に戻っちゃった。お母さんに事情を説明して、私に出来ることは何かないか聞かなくちゃ・・・・・・」
リレイのおうちの食事事情は緊急を要した状況へと戻った。だがリレイは母親のように内職などで何か力になれないかと模索している。彼女は子供では在るが、それでも困難は自分で何とかしようと考える子供だった。
そんな少女がとてもご機嫌な足取りで村へと帰って行った。
その夜。ローザは独りきりのテーブルにて、終えた食事に手を合わせて感謝していた。
「何ておいしいスープなのかしら。私一人で楽しんでいるのがなんだか申し訳ないわねぇ。あぁ、こんな時に夫が生きていたらねぇ。独りきりの食事は寂しいわ」
ローザは夫と一緒に暮らしていた幸せだった時の食事時を思い出して、ふと涙する。やがて気を取り直して食器の後片付けをした。彼女は洗った皿を流し場の横に重ねていく。スープが満たされる皿も他の皿の上に斜めに置かれて木蓋がされた。
洗い物を終えたローザが一息つこうとする。
「そうだわ。魔法の言葉を忘れないうちに書き留めておかなくちゃねぇ。年のせいか物忘れが多くなったのだから。ええと、『ほんにゃかほにゃほにゃ。魔法のお皿よ、スープで満たされろ~』だったかしら・・・・・・」
ローザがそう呟くと、彼女の背後でスープが満たされる皿からスープが溢れてこぼれ始めた。こぽこぽと音を立てながらスープがぼたぼたと床にまでこぼれ始める。
「あらま! なんてことかしら! 大変! どうやって止めるのかしら!」
ローザは慌ててスープが満たされる皿を持ち、流し場の中へと置いた。平らな場所に置いた途端、皿から溢れていたスープが止まる。リレイはお皿について説明足らずだったようだが、なんとかなったようだった。
「何てすごい量なのかしら。一人分以上のスープも出るようなのね。・・・・・・あぁ、良い事を思いついたわ!」
ローザは何か閃いたようだった。
その一週間後。リレイは再びローザの話し相手になろうと彼女の家を目指した。すると不思議な光景が広がっていた。なんと、彼女の家の前に行列が出来ているのだ。誰も彼もがお鍋などを持っていた。
「あら、これは何かしら?」
リレイは首をかしげた。以前村人から聞いた話では、彼女の家は村から遠いので誰も訪れる者もいないと言う話だったはずだ。彼女は不思議に思いながら、玄関から家の中を覗いた。
すると、なんとローザはスープが満たされるお皿のスープを村人達に分け与えていたのだ。
「あら、リレイちゃん。ちょうど良かったわ。リレイちゃんから貰ったお皿のスープ、一人だけで頂くのは悪いから、他の人達と分かち合っていたのよ!」
ローザは笑みを浮かべる。村人達に無料で分け与えていたようだ。これならポポカカ村の食事に困っている人達全てに食べ物が分け与えられる。リレイの行った事は、結果として村全体のためになったようだ。
「それは名案だわ。幸せを分け合えるだなんて!」
「こうしてお客様達が訪れるようにもなったわ。おかげで話し相手も出来て、もう一人きりで寂しく過ごすこともなくなったの。全てはリレイちゃんのおかげよ。ありがとう!」
そう言うローザの姿は、もう一人で寂しく余生を過ごす老人ではなくなっていた。彼女を頼る人々に囲まれて暮らしている。誰かの役に立てていることが、老人の新たな生き甲斐ともなっていた。
「まぁ、何て素敵なの!」
リレイはその年一番の感激をするのだった。リレイも、お婆さんも、村の人々も、誰もが幸せになったのだから。




