道具の扱い
「これはとっておきの一品よ。なんと、スープが常に満たされるお皿なの!」
シャルロッテは皿をテーブルの上に置いて、それから木蓋を乗せた。そして「ほんにゃかほにゃほにゃ。魔法のお皿よ、スープで満たされろ~」と、なにやら魔法の言葉を呟いた。それから木蓋を外すと、なんと皿には湯気が立つスープが満たされている。
「すごい! 何時の間にかスープが溢れている!」
リレイは素直に驚いた。空の容器にスープが満たされたからだ。どういう原理なのかはわからない。
「ささっ、飲んでみてくださいな。お味は気に入っていただけるかしら?」
シャルロッテはリレイにスープの試飲を勧める。リレイは皿を持ち上げてスープを飲んだ。
「あっ、これおいしい! 木霊たまねぎとムクドリのスープだわ!」
「栄養も良さそうね。これで一品食事が賄える。こんなのなんて家計の助けになる神器レベルのマジックアイテムよね。お役に立てたかしら?」
シャルロッテはしゃららんと優雅にお辞儀をして見せた。
「これすごいよ! ありがとう、シャルロッテ!」
リレイは皿を持ち上げて喜ぶ。確かにこれがあれば、スープ代分は家計が浮く。母のアレイラもその分は楽になるのだ。
「道具は使ってこそ価値がある物よ。倉庫に入れておくだけなら無いのと同じなのだから、積極的に使わないと損でしょ。アレイラもこれが倉庫にあるのは知らないか、忘れているのでしょうね。リキッドがこの皿を倉庫に入れた理由がわからないわ」
「ほんと、不思議ね! そうだわ、早速お母さんに見せてくるね」
リレイは皿をもって部屋を飛び出して行った。そして下の階の親の部屋をノックする。
「リレイ、何かしら?」
「ねぇ、お母さん。これ見て!」
リレイは皿を母親に見せた。
「あら、これスープが湧き出てくる魔法のお皿じゃない? 懐かしいわね。でも、これがここにあるということは、リレイあなた封印札を剥がして倉庫の中に入ったのかしら?」
「えっ、それは・・・・・・」
リレイが返答に窮した。言いつけは守っているが、ほぼほぼずるをしているのと同じ事をやっていたからだ。すると背後からシャルロッテの声が。
「それはないわ。あたしが水鏡のロープと鏡扉の鍵出で出入りをしているわ。封印の札はそのままよ」
人形はリレイに変わって代弁した。
「まぁ、そんな方法でいいつけを回避していたのね! 倉庫の中の物はすごいものが沢山だけれど、人の手に余るわ。あれらは倉庫に入れたままにしておくのがいいのだけれど・・・・・・」
アレイラは渋い顔をした。彼女はマジックアイテムに頼らない生き方を選択する人のようだ。
「でも、お母さん。これがあれば家計は楽になるわ。せっかくあるのだもの。使わないともったいないよ!」
「・・・・・・そうねぇ。家計が苦しいのは確かだし、このお皿を使えば乗り切れるようになるのもそうね。じゃあ、使えるものは使いましょうか。だけれどね、危険な道具の持ち出しだけはダメよ? これだけは守って頂戴ね。リレイだけでなくシャルロッテも」
「はーい、お母さん」
リレイは素直に従った。彼女も危険な道具を持ち出そうというつもりはさらさら無かった。
「それは心得てるわ。中には本当に危険な物もあるのだから」
シャルロッテも頷いた。彼女は道具の性質や効果を正確に把握していた。少なくともこの家の誰よりも。だから間違いは無いだろう。




