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リレイと不思議な道具達  作者: 神島世判
微笑ましき晩餐
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魔法のスープ

 いつもの如く夜は均しく訪れる。暗き闇のヴェールが大地を包み、ぽつりぽつりと窓から漏れ出た明かりが集落の存在を示していた。空には羽根の映えた白い月が浮かび地を照らす。家々の煙突からは夕餉の煙が立ち上る。夕飯時、それは一日の終わりに預かる喜び。

 リレイは母親のアレイラと食事を取っていた。木のテーブルの上には近隣の湖産の淡水魚の煮魚と、姫巻きぜんさいなどの山菜を炒めた料理、そしていつものキノコの麦粥が並んでいた。少女は野菜炒めに山羊のチーズを贅沢にもふんだんに掛ける。

 そんな少女の姿を見ながら、アレイラが口を開いた。


「今月はもう家計にあまり余裕が無いから、明日からは食事を切り詰めなくちゃいけないわ」


 それは衝撃的な通達。リレイは母親の言葉にぴたりと動きを止めた。


「それは大変! 大好きな山羊のチーズも控えなくちゃいけないのかしら?」


 リレイはチーズをたっぷり掛けた野菜炒めを見つめる。


「そうね。一品くらいはおかずを減らさなくちゃいけないの。お父さんからの仕送りがしばらく遅れていてね。私もなるべく衣服修繕の内職で頑張ってはいるけれど、それだけではどうしてもやりくりできないわ。だからしばらくの辛抱ね」


 アレイラも出来る限りの事はやっていた。それでもどうしても限界は来るのだ。そしてこの話はもう一つの別の問題も示唆していた。


「お父さんに、なにかあったのかな・・・・・・」


 リレイがポツリと呟いた。それはどこか不安げな様子だった。それもそうだろう。父親が仕送りを遅れさせる事など、これまで無かったのだから。


「ううん。それはわからないわ。でも、もう少し待てばきっと連絡をくれるわ。きっと迷宮の奥深くにいて便りを出せないだけよ」


 アレイラは娘のリレイに笑って見せた。彼女も不安であるはずなのだが、そんな様子は微塵も見せない。それは夫のリキッドを信頼しきっているからなのだろう。


「うん。きっとそうだね!」


 リレイもそれ以上は不安そうな表情を見せなかった。少女はしばらくお預けになるであろう好物が乗った料理を大事そうに口にするのだった。



 リレイは夕餉の皿の片付けを手伝い、お風呂に入った後に自室へ戻る。部屋には本を読んでいたシャルロッテがいた。


「シャルロッテは良いわね。ご飯を食べなくてもいいんだもの」


 リレイは人形に話しかけた。それは食事を必要としない人形を羨んだ言葉。何の悪気も無い自然と出た言葉。その言葉にシャルロッテが本から顔を上げて、リレイの方を向いた。


「あら、それは料理を楽しむこともできないって意味でもあるわ。あたしだって時にはお菓子とか食べたいわ。いつもおいしそうなクッキーを食べているデイジーやアシュリーが羨ましいもの」


 シャルロッテは床をぺしぺし叩いた。抗議しているのだ。


「ごめんなさい。そこまで思い至らなくて。そうよね。皆と楽しくお菓子を食べたいよね」


 リレイは素直に謝った。間違った事を羨んだ事、シャルロッテの事情をまったく想像もしなかった事、もろもろを含めて謝ったのだ。


「その事はもう良いわ。食べ物を食べられないのはそういう存在だもの。気にしてはいないわ。それよりリレイはどうしたの? 理由があるからそんな事を言ってきたんでしょう? ご飯がらみで何か問題でも?」


 シャルロッテはリレイの事情を洞察した。理由があるからご飯を食べなくても済む事を羨んできたと見抜いたのだ。見た目は子供の人形だが、現世に長い間留まっただけの貫禄がシャルロッテにはあった。


「うん。家計が厳しくなるから、ご飯のおかずが減っちゃうの・・・・・・」


 リレイの言葉を聞いたシャルロッテは、読んでいた本をぱたりと閉じた。


「それはご愁傷様。家族に苦労させるなんて、リキッドも案外ダメな男ね」


 シャルロッテはリレイに同情を見せつつも、ふがいないリキッドに怒りを見せている。


「お父さんは、ほら。たぶんお仕事が忙しくて連絡を出せないだけだから」


 リレイはそう応えるも、どこか自信なさげだった。


「リキッドなら心配要らないわ。彼に何かあるとはとても思えないもの。もうしばらくしたら状況が変わって便りを寄越すわ。待っている事ね」

「うん、そうだね!」


 リレイはシャルロッテから元気付けられた。


「それはそれとしても、家計が厳しいのでしょう? それなら妙案があるわ」


 シャルロッテは水鏡のロープと鏡扉の鍵でゲートを作り出した。そして飛び込んでゆく。彼女が戻ってきた時に手にしていたのは一枚の皿だった。スープ用の深皿の形をしていて、白地の色合いで飾り気はなくとても地味な品物だ。もう片方の手には木蓋を持っている。


「それはなにかしら?」


 リレイは皿に目を留めるが、その皿がなんなのかはまったくわからない。


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