丸く収まる話
すると、ステラの雑貨屋の中から何かが激しく倒れる音がする。顔を見合わせるリレイとヨーゼフ。二人は雑貨屋の中を窓から覗き込んだ。
・・・・・・店の中でステラが倒れている。
「ステラさん!」
リレイが叫ぶ。二人は店の中へ駆け込んだ。
「ババァ! なにやってんだよ!」
ヨーゼフが叫んだが、ステラはまったく反応が無い。二人はステラを抱き起こし、店の奥の部屋へと寝かせた。
しばらくすると布団の上でステラが目を覚ます。
「おや、一体これはどうしたんだい・・・・・・」
ステラはリレイとヨーゼフを見てから自分が寝ている事に気が付き、己に起きた状況が理解できなかったようだ。
「ステラさん。店の中で倒れていたんだよ」
「ごめんなさいね。急にめまいがして、それからの事は覚えていないよ」
ステラが無理して起き上がろうとする。
「安静にしていた方がいいよ! 私、お医者さんを呼んで貰って来る!」
リレイ達の村には医者がいない。だから大人達に隣町から呼んできて貰うより他無いのだ。
リレイはその場を走り去って行った。後にはステラとヨーゼフが残る。
「ババァ、老いたな」
「・・・・・・そりゃあ、あんたがこんな図体になるくらいだもの。歳ぐらい重ねるさね」
ヨーゼフはどうしてよいかわからず、その場に立ち尽くす。
「俺は明日村を出ることにした」
「良いって事よ。行っておいで」
「・・・・・・反対しないのか?」
ヨーゼフは拍子抜けした表情をした。反対されるとばかり思っていたからだ。
「あんたが決めた事じゃないのさ。なぜそれをあたいに聞くってんだ」
「そりゃそうだ」
親子が無言となった。ステラが体を起して箱から皮の手袋を取り出した。
「鉱山仕事をするなら、こういうものも必要だろう。もってお行き」
ヨーゼフは皮の手袋を受け取る。
「本当に作っていやがったのか・・・・・・」
「何の話だい?」
「いや、なんでもない。・・・・・・ババァが倒れた矢先に出て行くってのはなんだか気が引けるが・・・・・・」
「あたいの事なら心配要らないよ。お前の事で心労を溜め込んでいただけさね。いなくなってくれるならせいせいして良くなるってもんさね」
ステラも先ほどのヨーゼフと同じ事を言っている。なんだかんだと親子なのだ。
「また減らず口を・・・・・・。まぁ、その調子なら大丈夫そうだな」
ヨーゼフはどこかホッとした様子を見せた。いつもと違う母親の様子に、かえって心配していたようだ。
「あたしゃね年老いたからと言って、あんたのおもりなんて必要とはしないからね。だから、あんたはあんたのやりたい事をやりな。一度決めた事ならば」
「・・・・・・・・・・・・」
親子はこうして旅立ちの前の別れを終えた。その後、ヨーゼフは一週間後に村を出る事になる。ステラの体調が回復するまでは一緒にいたようだ。不器用な親子がお互い妥協の上で歩み寄ったようだ。
その後、ステラの元には毎月小包が届く事になった。差出人はヨーゼフ。中身は滋養強壮に効く生薬が入っている。だが、ステラにとって大事なのは荷物の中身ではなかった。荷物が届く事でヨーゼフの安否確認となり、その後ステラが心労を溜め込む事はなかった。ヨーゼフが鉱山で一山築き、その後故郷でステラの商売を引き継いで成功するのはまた別の話である。




