秘策
「そんなことどうでも良いよ! とにかく、ステラさんとちゃんと話し合わないとダメだよ!」
リレイがヨーゼフに迫った。ヨーゼフは話が見えずに唖然としている。
「さっきの話を聞いていたのか。どうするかなんて俺の勝手だろう! 指図するな!」
ヨーゼフは怒った。どうやら逆鱗に触れたようだ。
「それじゃあステラさんが可哀相だわ! 最後ぐらい挨拶して行ってよ!」
「くそババァが可哀相なもんかよ! 二言目にはすぐ俺を否定しやがる! なぜにわざわざ最後に顔を合わせなきゃいけない!」
ヨーゼフは己の腕をふるってリレイを遠ざけた。
「違うの! そうじゃないの! ステラさんはヨーゼフさんのことを心配しているのよ!」
「そんなわけあるか! ガキのたわごとなど・・・・・・聞いていられるかよ! どけよ!」
ヨーゼフは押しとどめようとするリレイを押しのけて、その場を立ち去ろうとした。
「やだ、どかない!」
リレイが必死の抵抗する。
「しつこいガキだな。お前がババァを擁護してお前に何の得がある?」
「得とかどうとか、そんなことはどうでもいい! ただ、ヨーゼフさんにステラさんがあなたの事を気にかけていた事を知ってほしいだけ!」
リレイはとても真剣だった。このままでは二人はすれ違ったままとなってしまう。このままヨーゼフが村を出れば、彼は帰らないかもしれないという予感が少女にはあった。
「まずもってそれも信じられねぇ。そんなそぶりはまったく見せていないからな」
「それは・・・・・・顔を見ていると素直になれないって言っていたけれど・・・・・・」
「面と向かって言えねぇ事を、本人のいないところでならなんとでも言えるってもんだぜ。相手に伝わらなきゃ、それは想っていないのと同じ事だ」
ヨーゼフは少々冷静になったようだ。理屈で母親を否定するようになってきた。
「それは・・・・・・でも、確かにステラさんは言っていたわ!」
「俺は聞いちゃいねぇ。以上だ。他に話はあるか? 無いのならどけてもらおう」
リレイは大人の男の威圧感に気圧された。しかし、少女は尚も食い下がった。
「それなら直接聞ければいいのね?」
子供の言葉にヨーゼフは首を捻った。
「あぁ? んな、人の顔を見れば小言しか出てこねぇ様なのをどうするって言うんだ」
ヨーゼフは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
「それはね、これを使うのよ!」
リレイは手にしたヴェールを見せる。
「ただのヴェールがどうかしたか?」
ヨーゼフが疑問に想うのも無理は無い。だからリレイはヴェールを被って見せるのだった。
「はい、どう? 私の姿が見えるかしら?」
リレイの姿は完全に消えていた。
「さっきのはこれか! まったく姿が見えねぇ! どうなってんだこれ?」
ヨーゼフは辺りをきょろきょろ見回すが、リレイの姿はどこにも見えない。リレイがヴェールを外すと再び姿が見えるようになった。
「ね? すごいでしょ。これをヨーゼフさんに使ってもらって、私に同行してもらうの。そうすればステラさんのお話も聞けるかもしれない」
「・・・・・・手の込んだ話だが、そんなことをしたところで・・・・・・」
ヨーゼフは渋った。無理に己の母親の話を知りたいとも思わなかったのだ。それほどまでに心は離れていた。
「ね。村を出て行けば、もう二度と会わないかもしれないんだから、これが最後と思って」
リレイの説得にヨーゼフは迷っていた。確かにもう二度と村に戻る気は無かったからだ。リレイは強引にヨーゼフの手を引いた。男は仕方無しに少女の提案に乗ることにした。




