姿隠す秘宝
「今日のはどんなマジックアイテムなの?」
「ふふふ。これはね、姿が消えるヴェールなの。ほらこうやって被ると・・・・・・」
シャルロッテがヴェールを被ると、たちまち彼女の姿が消えていく。
「えっ? 見えなくなった!」
リレイの目の前からシャルロッテの姿が完全に消えた。
「すごいでしょ? 光が屈折して姿が見えなくなっちゃうの!」
シャルロッテはヴェールを外した。すると途端に姿が現われる。彼女はリレイにヴェールを差し出した。リレイはヴェールを受け取り、それを被る。するとリレイの姿が今度は消えた。
「ねぇ、私の姿。ちゃんと見えなくなっている? 自分ではこれわからないね!」
何も無いところからリレイの声だけが聞こえている。
「えぇ、姿が消えているわよ。ほら、水鏡を普通の鏡として使ってみなさいな」
シェルロッテは水鏡のロープで円を作る。普通に水鏡が出来上がった。
「あれ、ほんとだ。ちゃんと鏡にも映らないね!」
鏡には何も映っていない。
「もちろん人間以外にも見えないわ。匂いも気配も消えるので、動物にだって見つけられないのよ」
「へぇー、それじゃあ間近で野鳥観察とかできちゃうんだ! これちょっと借りるね!」
「えぇ、よくてよ」
シャルロッテが返事を返すが、相手がそこにいるのかどうかもわからない。物音もしないのだ。
「・・・・・・・・・・・・出かけたのかしら?」
シャルロッテがポツリと呟いたが返事はなかった。
谷底の村の中、姿を消したリレイが駆け回っている。道端で通り過ぎる青年も、井戸端会議をしているおばちゃんたちも気が付かない。
「すごい! 誰も私に目を留めない!」
リレイは池の飛び石を飛び跳ねていく。池のほとりに鳥がいたが、彼女が近づいても飛び立たない。少女は普段は間近で見られないであろう野鳥の姿を間近で観察した。
・・・・・・遠くから声が聞こえてくる。リレイがふと顔を上げると、二人組の男が立ち話をしていた。その中の一人はヨーゼフだった。
「あぁ、明日だ。明日に出立する。これ以上はこんな村になんかいられるかってんだよ」
ヨーゼフは男にそう告げた。
「いいぜ。俺の方も準備はできている。いつでも出られるぜ」
男が頷いた。
「話が早い。道具は現地で買い揃えよう。先に持って行くにも移動中の荷物になるからな」
「そうだな。で、家族への別れは良いのか?」
男が家族の単語を口にした瞬間、ヨーゼフが苦々しげな表情を浮かべた。
「馬鹿言え。親は俺のやる事に反対しかしねぇよ。いまさらわかってもらおうなどとも思わねぇ。だから黙って出て行く」
「なら、明日の朝一番に村を出ようか。俺は周りに挨拶を済ませておくぜ」
そういうと男は立ち去って行った。ヨーゼフ一人がその場に残る。
「顔を合わせりゃ喧嘩になる。黙って出て行くに限るな。やっとせいせいできるってもんだぜ」
ヨーゼフが独り言を洩らした。その瞬間の事。
「それはダメだよ!」
唐突に響くリレイの声。ヨーゼフはその声にぎょっとした。
「なんだぁ?」
ヨーゼフは辺りを見回すが誰もいない。と、リレイがヴェールを脱いで姿を現した。
「だめだよ! ステラさんに黙って出て行っちゃダメ!」
「なっ、何も無いところから急に! どういうこった?」
ヨーゼフは仰天した。




