いろんな人たちの日常
「あぁ、リレイちゃん。ごめんなさいね。くだらないやり取りをお見せしちゃったわね」
「お久しぶりです。ステラさん。すみません。なんだか取り込んでいたところに・・・・・・」
リレイは居心地悪そうにした。
「いいのいいの! リレイちゃんは気にしないで! うちの馬鹿息子が悪いのだから!」
「ヨーゼフさん。どうかしたんですか?」
「どうもこうもしないよ! いつもの馬鹿ぶりを発症しただけさ! それより今日は何を入用なのだい?」
「はい。ええと、これらが欲しいです」
リレイはステラにメモを渡す。
「はいはい。菜油に灯芯の縄にそれから石鹸だね」
ステラは棚から商品を取り、紙袋に入れていく。
リレイはどうしても先ほどの光景が忘れられなかった。そして口にする。
「ヨーゼフさん。村を出て行ってしまうんですか?」
「あぁ、そうだねぇ。ほんと馬鹿な子だよ・・・・・・。いくらいきがったところで何の能も才も無い人間が、そう易々と事を成せるわけがないってんだから。自分に甘い、世の中の厳しさがわかっちゃいない甘ったれなんだよ、あの子は!」
ステラは不機嫌そうな表情になった。
「夢を持つ事も大事だと思うわ。どうして喧嘩になっていたの?」
「なぜってそれはあんた、息子が馬鹿だからに決まっているじゃないか! ほんと馬鹿野郎だよ! 一体誰に似たのやら」
「あら、それならおかしいわ。私はおばかだけれど、お母さんとは仲良しよ?」
リレイが真面目にそういうので、ステラは思わず笑った。
「ふふっ、リレイちゃんは良い子だからね! そうねぇ、何か目標を持ってくれるのは良いことなんだけれど、息子は成功する事ばかりしか見えていないからねぇ・・・・・・。そんな人間は悪い人に騙されちゃうものなのよ? あたしゃそれだけが心配でねぇ」
ステラは頬に手を当ててため息をついた。
「だったらそう伝えたら良いのに。変なの!」
リレイにはステラの気持ちはわからない。思っていることを相手に伝えない事が理解できないのだ。それくらいには、彼女はまだ幼かった。
「そうさねぇ。なんでだろうねぇ。こう、生まれた時からずっと見てきた顔を見ていると、どうもこ憎たらしさが先に来ちまってさ。つい否定する言葉から先に出ちまうのよねぇ」
ステラは紙袋に封をする。買い物リストの中身を全て入れ終えたようだ。
「気持ちを伝えたら、皆幸せになれるじゃない?」
「息子の為にと皮の手袋を作ったが、それを渡せば相手のやりたい事を認めることになってしまう。だから未だに手渡せないでいるよ。まったく、自分というのがわからなくなるねぇ。そんなことはさておき、ささっ、この中に必要な物を容れたからね!」
ステラは紙袋をリレイに手渡した。リレイは変わりに代金を手渡す。
「ありがとうございます! いつも必要な物が置いてある。ステラさんのお店にはお世話になっています!」
リレイはぺこりと頭を下げた。
「いえいえ、そんな! いつもありがとうね」
リレイは紙袋を抱え、たたたっと駆け出して店を出て行った。丘の上のお店を下り、自宅へと駆け込んでいく。
「お母さん、ただいまー」
リレイが声を掛けるが返事が無い。どうやら不在のようだ。
「いないのかしら? ここに置いておこ」
リレイは紙袋をダイニングテーブルの上に置いた。そして自室へと向かった。
「あら、おかえりなさい」
シャルロッテが机の上に座っていた。
「ただいまー! あれっ、レジンを眺めてどうしたの?」
「早く出来上がらないかなと思って」
「まだまだ。そんなすぐには出来ないよ!」
「待つのには慣れているの。何かを待ちわびて過ごすなんて、ここしばらく無かった事だわ」
「それって、楽しみってこと? 良かったわ!」
リレイが喜ぶ。彼女は他人の幸せは自分の幸せなのだ。
「えぇ、そうね。でも、待ってるだけも退屈よね。何をして遊びましょうか?」
「そうね、倉庫に何か面白い物無いかな?」
「遊び道具になりそうな物は無いけれど・・・・・・いたずらとかには使えそうなものはあるわね。ちょっと待ってて」
シャルロッテは水鏡でゲートを作って飛び込んで行った。そしてなにか布を持って戻ってくる。それは真っ白い半分透けた布だった。特に飾り気も無いヴェールだ。




