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リレイと不思議な道具達  作者: 神島世判
消える息子と不器用な母
12/58

いろんな人たちの日常

「あぁ、リレイちゃん。ごめんなさいね。くだらないやり取りをお見せしちゃったわね」

「お久しぶりです。ステラさん。すみません。なんだか取り込んでいたところに・・・・・・」


 リレイは居心地悪そうにした。


「いいのいいの! リレイちゃんは気にしないで! うちの馬鹿息子が悪いのだから!」

「ヨーゼフさん。どうかしたんですか?」

「どうもこうもしないよ! いつもの馬鹿ぶりを発症しただけさ! それより今日は何を入用なのだい?」

「はい。ええと、これらが欲しいです」


 リレイはステラにメモを渡す。


「はいはい。菜油に灯芯の縄にそれから石鹸だね」


 ステラは棚から商品を取り、紙袋に入れていく。

 リレイはどうしても先ほどの光景が忘れられなかった。そして口にする。


「ヨーゼフさん。村を出て行ってしまうんですか?」

「あぁ、そうだねぇ。ほんと馬鹿な子だよ・・・・・・。いくらいきがったところで何の能も才も無い人間が、そう易々と事を成せるわけがないってんだから。自分に甘い、世の中の厳しさがわかっちゃいない甘ったれなんだよ、あの子は!」


 ステラは不機嫌そうな表情になった。


「夢を持つ事も大事だと思うわ。どうして喧嘩になっていたの?」

「なぜってそれはあんた、息子が馬鹿だからに決まっているじゃないか! ほんと馬鹿野郎だよ! 一体誰に似たのやら」

「あら、それならおかしいわ。私はおばかだけれど、お母さんとは仲良しよ?」


 リレイが真面目にそういうので、ステラは思わず笑った。


「ふふっ、リレイちゃんは良い子だからね! そうねぇ、何か目標を持ってくれるのは良いことなんだけれど、息子は成功する事ばかりしか見えていないからねぇ・・・・・・。そんな人間は悪い人に騙されちゃうものなのよ? あたしゃそれだけが心配でねぇ」


 ステラは頬に手を当ててため息をついた。


「だったらそう伝えたら良いのに。変なの!」


 リレイにはステラの気持ちはわからない。思っていることを相手に伝えない事が理解できないのだ。それくらいには、彼女はまだ幼かった。


「そうさねぇ。なんでだろうねぇ。こう、生まれた時からずっと見てきた顔を見ていると、どうもこ憎たらしさが先に来ちまってさ。つい否定する言葉から先に出ちまうのよねぇ」


 ステラは紙袋に封をする。買い物リストの中身を全て入れ終えたようだ。


「気持ちを伝えたら、皆幸せになれるじゃない?」

「息子の為にと皮の手袋を作ったが、それを渡せば相手のやりたい事を認めることになってしまう。だから未だに手渡せないでいるよ。まったく、自分というのがわからなくなるねぇ。そんなことはさておき、ささっ、この中に必要な物を容れたからね!」


 ステラは紙袋をリレイに手渡した。リレイは変わりに代金を手渡す。


「ありがとうございます! いつも必要な物が置いてある。ステラさんのお店にはお世話になっています!」


 リレイはぺこりと頭を下げた。


「いえいえ、そんな! いつもありがとうね」


 リレイは紙袋を抱え、たたたっと駆け出して店を出て行った。丘の上のお店を下り、自宅へと駆け込んでいく。


「お母さん、ただいまー」


 リレイが声を掛けるが返事が無い。どうやら不在のようだ。


「いないのかしら? ここに置いておこ」


 リレイは紙袋をダイニングテーブルの上に置いた。そして自室へと向かった。


「あら、おかえりなさい」


 シャルロッテが机の上に座っていた。


「ただいまー! あれっ、レジンを眺めてどうしたの?」

「早く出来上がらないかなと思って」

「まだまだ。そんなすぐには出来ないよ!」

「待つのには慣れているの。何かを待ちわびて過ごすなんて、ここしばらく無かった事だわ」

「それって、楽しみってこと? 良かったわ!」


 リレイが喜ぶ。彼女は他人の幸せは自分の幸せなのだ。


「えぇ、そうね。でも、待ってるだけも退屈よね。何をして遊びましょうか?」

「そうね、倉庫に何か面白い物無いかな?」

「遊び道具になりそうな物は無いけれど・・・・・・いたずらとかには使えそうなものはあるわね。ちょっと待ってて」


 シャルロッテは水鏡でゲートを作って飛び込んで行った。そしてなにか布を持って戻ってくる。それは真っ白い半分透けた布だった。特に飾り気も無いヴェールだ。


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