湖が妨げる恋路
リレイは魔法の靴を持ってとある家を訪れていた。もちろんシャルロッテも一緒だ。
「リレイちゃん。僕に話ってなんだい?」
スティンがお茶を差し出しながら用件を尋ねる。
「お友達に聞いたんですけれど、スティンさんは対岸の村の人とお付き合いしているとか」
「ええっ? 有名になっちゃっているのかなぁ? たはは、たしかに僕は向こうの村の女性と御付き合いしているよ」
スティンは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「なんでも、村まで行くのに長時間かかるから遠距離恋愛になってしまっているとか」
「そうなんだよね。歩いてあの村まで行くのに片道二日なんだ。だから行ける時は限られていてさ」
スティンは少しだけ悲しそうな表情をした。
「湖を渡っていければ、そんなに時間が掛からないと思いませんか?」
「たしかにそうだね。船があれば三時間もあればたどり着くから。でも船は出ていないから仕方ないよね」
シャルロッテが魔法の靴をテーブルの上にのせた。
「この靴を履けば水の上を歩けるわ。そうすればあなたはいつでも恋人に会うことができるの」
シャルロッテがしゃべって動いているのを見て、スティンは驚き見つめている。
「すごいなぁ。君が噂のシャルロッテちゃんか。確か昔リキッドさんが連れ歩いていたとか」
「えぇ、彼のせいでずっと物置暮らしをしていたわ!」
「それは大変だったね。それにしてもこの靴を履けばって、そんなことが可能なのかい?」
スティンは靴を手にしてまじまじと見ている。効果には疑問があるようだ。
「なら、試してみれば良いじゃない!」
リレイはそう言うとスティンの手を引いて家を出た。
彼らは湖のほとりに向かう。
「ふむ。では試してみるか・・・・・・靴のサイズがあうかな?」
スティンが靴を履くと、靴は不思議と伸び縮みしてジャストフィットした。
「魔法の靴だから大丈夫だね! あとは水の上に立てるかだけれど・・・・・・」
リレイが湖をちらりと見る。
スティンは頷き、恐る恐る水の上に足を乗せる。・・・・・・すると、靴は水の中に沈まなかった。スティンはそのまま水の上に立つ。
「これは・・・・・・すごいや! 本当に水の上に立てたぞ!」
スティンは水の上でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「その靴があれば、いつでも恋人に会うことができるね! だから、その靴はスティンさんに差し上げます!」
「えっ、リレイちゃん。こんな素敵なモノをいいのかい?」
「えぇ、宝は役立てる人が持っていてこそ価値があるんじゃないかって思うので。お父さんが置いていって忘れていそうだから、それならスティンさんに役立ててもらう方が結果的にいいと思います」
「本当に? ありがとう!」
この日を境に湖の上を歩いて渡る花束を持った男の姿が目撃される事となった。人々は彼らを湖畔越しの恋人達と呼び、ロマンスあふれる村の名物となっていくのであった。




