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窓ぎわの東戸さん~お掃除メイドの東戸さん~

作者: 車男

 「あ、そうだ、西野さん」

「ん、どうしたの?」

金曜日の学校帰り、図書委員帰りに一緒に歩いていると、東戸さんが急に話を変えた。それまでは最近はやりのお菓子を一生懸命話しているところだった。ちなみに今日の東戸さんは夏の制服に、素足、それにクロックスサンダルを履いていた。それまではフラットシューズだったけれど、最近変えたみたい。こっちの方が履きやすいのかな。

「明日って、西野さん時間ある?お仕事、一緒にできたらいいなって思って」

「お仕事…?」

「うん、親戚の人に頼まれたんだけど…」

事情を聞くと、東戸さんの叔母さんの実家のお掃除の仕事を頼まれたらしい。最近亡くなったらしく、ずっと空き家だった家を売りに出すために、片づけをするということだった。おこづかいも出るらしい。なんと一日頑張ったらいちまんえん…!

「え、いちまんえん…!」

「うん、いちまんえん…!」

それはけっこう魅力的だ。お掃除やお片づけは嫌いじゃないし。けれど決定的に参加できない事情が私にはあった…。

「うーん、すごくいきたいんだけれど…」

「うんうん!」

「ごめん、土日、家族旅行だからどうしても外せないや…」

「えー…」

そう、西野家は今年、5月のGWをあえて外して、1週間後の土日を使って家族旅行にいくのだった。それがちょうど明日明後日なのだ。

「それは残念…」

「ごめんね、手伝いできなくて」

「ううん!楽しんできてね!」

「ありがとう!お土産買ってくるね!」

というわけで、すごくいきたい気持ちを抑えて、なくなく私は家族旅行に出かけるのだった…。


 「今日はありがとうね!一日、大変だと思うけれど、よろしくね」

「はい、よろしくお願いします!がんばります!」

「お願いしますー」

土曜日の朝、あたしと姉は、母に連れられて、おばさんの実家だという家にやってきた。今日はここのお掃除をすることになっていて、一日頑張ったら2人ともいちまんえんがもらえるという。いちまんえんなんて、お年玉でしかもらえない!がんばるぞ!お掃除ということで、動きやすい恰好がイイかなと思って、あたしは半そでのTシャツに7分丈のパンツ、素足にスポーツサンダル、姉もTシャツに、ジーンズ、素足でフラットシューズというスタイル。それにおばさんが、一人ひとりかわいいエプロンにバンダナを用意してくれていた。エプロンなんて普段家ではつけないから、メイドさんみたいだななんて思ってしまう。学校のエプロンは白くておばあちゃんみたいなのだし。あたしは水色のギンガムチェックのエプロンに、紺色のバンダナ、姉は緑にリンゴが散らばったエプロンに赤いバンダナをそれぞれ付けた。

「じゃあ私とお母さんは外の方をやってるから、2人は家の中のお片づけをお願いね。まずは1階からよろしく!」

「はい、がんばります!」

「はーい!」

家は庭も広くって、いろいろな花が咲いていたらしい植木鉢が並べられていた。いまは手入れをする人もいなくなってしまったので、ひとつひとつ処分していくらしい。少し寂しいけど、仕方ないよね。あたしと姉はそれぞれほうきや雑巾、モップなどの掃除用具を持って、玄関から家に入った。中はひんやりしていて、お昼なのに暗かった。電気はずっと止められているみたいで、スイッチを押してもつかなかった。

「どこからやろうか?」

「うーん、とりあえず中を全部見てみよう?」

「おっけー」

あたしはスポーツサンダルのベルトを外して、姉はスポスポっとフラットシューズを脱いで、2人とも裸足のまま、床に足をのせる。途端に感じる、ザラザラ感。長年人が入っていなかったみたいで、家の中にはあちこち砂ホコリが積もっているらしかった。虫の死骸も、ぽつぽつ落っこちている。

「…スリッパとか、ないよね」

「うん、おばさん、なにも言ってなかったよ」

裸足好きの姉にしては珍しく、裸足で歩くことにテイコウがあるみたい。あたしはそんなに気にならないけれど。誰かが大事に住んでいた家だし、汚いなんて思っちゃだめだよね。

「…うう、ザラザラするよ…」

「もう、そんなこといわないの!キレイにすればいいんだし!」

玄関から入ると短い廊下があって、左に一つ和室があり、右側はお風呂やトイレがまとめられていた。裸足のままペタペタと廊下をまっすぐ進むと、その先は広いリビングだった。キッチンに、テーブル、テレビなどがそのまま残っている。そんなに古い家ではないらしい。最近リフォームしたのかな。

「とりあえず、窓とか開けちゃおっか。じめじめしてるよね」

「うん、わかった」

姉はペタペタとリビングの窓に駆け寄って、カーテンと窓を開けていった。途端に日差しが入って、ホコリが光に当たって舞っているのがわかった。あたしはリビングからいったん出ると、和室の窓やお風呂の窓を開けていく。やっぱりどこも足触りはざらざら、ドロドロ。お風呂場の窓を開けたあと、足の裏を見てみると、以前学校で裸足のまま廊下を歩き回ったときみたいに、灰色に汚れがついていた。これは掃除頑張らないと…!

「ひゃああああ」

「あ、姉!?」

足の裏を見てドキドキしていると、急に姉の大声がリビングから聞こえてきた。あわてて駆け寄ると、

「どうしたの!?」

「ご、ゴキちゃんが…」

「え、ゴキ…?」

姉の指さす先、テレビの前のソファのところ、茶色い大きな虫が3匹、ひっくり返っていた。かの有名な、あの虫だ。

「おお、でか…」

あたしはおそるおそるその虫に近づく。ひっくり返っているから、おそらくもうチーンなんだろう。3匹一気に見るのは初めてだ…。

「ま、まだ生きてるの…?」

「ううん、もうお亡くなりだよ」

「よ、よかった…」

ほっと安心したように息をはく姉。意外と虫、だめなんだよね。

「さ、まずはほうきで掃いて、あとはモップがけするよー」

「おっけーい!」

そうして、まずはリビングとキッチンから、ほうきで積もったホコリや虫の死骸、大きなゴミを集めて袋に入れていく。それが終わったら、バケツに入れた水でモップを濡らして、モップがけ。でもその前に…。

「姉、ちょっとまってまって」

「ん?」

じゃぼじゃぼとモップをバケツに突っ込んでいた姉をいったん止めて、あたしは床に座って足の裏を姉に向ける。

「ほら、こんな足じゃ、また床汚しちゃうよ、先にこっちからきれいにしなきゃ」

「え、そんなに汚れてるの…?」

姉はモップを持ったまま、ひざをまげて足の裏を確認する。あたしと同じく、土踏まず以外は真っ黒に汚れている。

「わー、真っ黒だ…」

自分の真っ黒な足の裏を見てうれしそうな姉に少しの共感を持ちながら、あたしは持っていた雑巾でごしごしと足の裏を拭いていく。自分でやると、くすぐったさとかはないんだけどな。力加減がわかるからかな。ほかの人にされると、すんごくくすぐったいんだけれど…。

「姉、ほら、足の裏かして」

「え、いいよ、自分でやるよ…」

「いいの、自分でやると拭き残しとかあるでしょー、そこ座って」

「うう…」

あたしは姉を自分の前に膝立ちで座らせる。目の前に並んだ、真っ黒になった足の裏。数年で積もった砂やホコリ、小さな虫たちがくっついていた。

「じゃあ、拭いていくよー」

「つ、強めでいいからね!」

「強め?このくらいかな」

そして濡れた雑巾を足の裏に押し当てる。ピト。

「ひゃああ」

「え、大丈夫?」

「う、うん、大丈夫…」

ピト。

「ひゃん!ふあああああ」

フキフキ…。

「ふわあああああ」

足の指をぴくぴくさせて、くすぐったさか、冷たさかを我慢している姉。久しぶりに見たけれど、けっこうこれがかわいい。やがて手をついて、ハイハイの姿勢になってしまった。

「…よし、終わったよー」

「はあ、よ、よかった…」

運動した後みたいに、息を切らしてる。きれいになった足の裏は、ほてって赤くなっていた。

「おつかれさまー、お昼休憩にしようか!お弁当、あるよー」

リビングから和室、トイレやお風呂まで、ほうきとモップ掛け、雑巾がけを終わらせた頃、開いていた庭の窓からおばさんが顔をのぞかせた。

「お昼ですか、わーい」

子供みたいに、嬉しそうに裸足のまま窓に駆け寄る姉。あたしもあとから近づく。落ち着いたように見えるけれど、内心はすごくおなかが空いていて誰よりもお昼と聞いて嬉しかった!

「あ、すごくきれいになってるね!せっかくだから中で食べようか!」

「はい、テーブルも床もきれいになりました!」

お庭から中をのぞいて、嬉しそうなおばさん。頑張ってよかったな!

「…あら?」

「え、どうしたんですか?」

お弁当を持ってきたおばさんが、あたしたちの足元を見て、申し訳なさそうな顔をした。

「ごめんなさいね、スリッパ、渡すの忘れていたわ…」

「えー、あったのー…」

姉が残念そうに声をあげた。


つづく


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