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軽佻  作者: 四阿
1/1

靉靆

七月二十日 晴


収穫があった。

前々から気になっていた廃村が予想以上であった。そこには昨日まで人々が生活していたかのような、生々しい息づかいがまだ残っていた。公的な記録ではS.63に全村民離村とのことだったが、ひょっとしたらそれより四半世紀後くらいまで人の出入りがあったかもしれない。今日は駅前のホテルに泊まる。明日はもし晴れていれば村に泊まりたい。布団が敷かれたままの廃屋もあったからだ。



七月二十二日 曇後晴


妙な夢だった。夢日記というものを人生で初めてつけようと思う。

場所はどこかの地下であった。私は手に松明をもって、さらなる深みを目指した。足元は鍾乳洞から垂れる雫ですめすめしていて、用心深く進むほかなかった。

しばらく歩くと、そこにぽつねんと祠があった。その後ろにはまだ道が続いていて、祠は通せんぼするように、道の真ん中に建っていた。祠には小さな扉があって、開けると蝋燭が灯っていた。なぜか、私はそれを吹き消した。顔を上げると、目の前に土の壁があった。道が消えていたのだ。

ここで目が覚めた。



七月二十三日 晴


祠があった。村の奥は沢のようになっていて、苔むした水車が空しくからころと回っていた。そのさらに奥に、洞穴があった。その時点で察した私は、おそるおそるその洞穴に入った。

夢の地下とその洞窟は少し違っていた。地面はあまり濡れておらず、だがなお滑りやすかった。

祠にたどり着いた私は、夢で見た通りの光景に驚いた。正夢の類を見たことなど、この生涯で一度もなかったからである。

祠の扉を開け、松明代わりのジッポでその中を覗いた私はぎょっとした。

百足。それも一節ごとに切断、いや、ちぎられた百足が、山のように積もっていた。それらは絶えずかさかさと音をたてていて、たまらず私は扉を閉めた。

そして急に今までの流れがとてつもなく不気味に思えた私は、急いでそこを後にした。



八月二日 雨


ここ数日のあいだ図書館で郷土史を調べてみた。すると、昔、あの地域一帯では、百足は神として崇められていたらしい。幾重にも重なる節々は系譜を表しており、それすなわち家系が永く続くことを意味していたようだ。なるほど、だから祠の中に納められていたのだな。

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