表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼なじみはポンコツ勇者  作者: 緑茶
5/6

第5話:幼なじみが……えっ、どうなっちゃったの!? とにかくなんとかしないと!!

 正確に言えば、柄の部分にはまり込んでいる赤い宝石になっていて、俺が言葉を発するたび、ぴかぴかと光る、そんな身体になっていた……。


『ッッぎゃあああああーーーーーーーーーーーーー!!!! なんだこれぇーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!』

「りーーーーーーーーーーーーーーーくーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!」


「何をやっとるんだお前はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「グギャアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 叫びを切り裂いて、しびれを切らしたように、ドラゴンが再び炎をこちらに向けて放ってきた!

やばい、どうするどうするどうするどうする!!


「きたきたきたきたこっちきたどうするどうするどうするどうする!!」

「最悪だ、おしまいだ……まさかこんな……前例のない……王都になんと言えば……」

『ああああああああッ畜生、エイダっ!!』


 かくなる上は。もうやけだ。とにかくこの状況を乗り越えなきゃ話にならない。

 みんなも阿鼻叫喚だ。逃げていく。


 ――守らなきゃ。


「ひゃ、ひゃいッ!?」

『俺を使えッ!!』

「えっ、どういう――」

『俺を持て、そんでもって、振り下ろせ!! 炎から、みんなを守るんだッ!!』

「で、でもそんなのあたし――」

『迷ってる暇はねぇ、やるんだッ、俺たちで、一緒にッ!!』

「う、うわああああーーーーーーーーーーーッ!!!!」


 俺の激に背中を蹴り飛ばされたようになって、エイダは『俺』を地面から抜いて、構えて、それから思い切り振りかぶって。

 そこに炎が到達するタイミングで。

 ――思い切り、振り下ろした!!


 波濤のように、炎が左右に分かれて散った。

 俺の切っ先が、切り裂いたのだ。

 それは俺達の前面の森に拡散して、罪のない木々を黒焦げに焼き払った。

 だが、結果として。


『や、やった……?』


 エイダは俺を振り下ろしたことで、炎から身を守った。

 そして、後ろにいるみんなを。


『神父様ッ!』

「ぬ、ぬわああああ、よせ、喋るなッ! もう訳が分からんッ!!」

『うるせーーーーーーーーー!! とりあえず、今は! 俺たちであいつをやっつける!! それでいいですねッ!!』

「……ッ…………!!」


 神父様はそこで、見たこともない表情、そう、たとえるなら、教会での説教を致命的なところで噛み倒し、しかもそれを聞いていたのが王都の法皇たちだったような、そんな。何やら取り返しのつかない目にあった男の顔をしていたが。


「くそう、もう知らん好きにしろ!!」


 さいごにはそう言って、衛兵たちを伴って、更に大きく後ろに引き下がった。


 あらためて、前を見る。

 ドラゴンが居る。二回も炎を封じられたこともあってか、その唸り声は更に凶暴性を増しているかのようだった。


「り、りーくん……」


 ……エイダの声は震えていて、俺を持つ手もぶるぶるしていた。

 だけど手放さなかった。だから俺は言った。


『怖いけど、やるしかない。俺たちで……町を、みんなを守ろう』

「……ッ!」

『俺たちなら、やれる。俺が見てる』


 エイダの鼓動が、汗が、下唇を噛むのが感じられた。

 だけどそこで、震えが落ちついた。エイダは、俺のグリップを、更にぐっと強く握りしめて、呟いた。


「……うん!」


 エイダは俺を構えて、少しずつ進んでいく。

 その時、ドラゴンは翼を広げた。巨大な翼膜。

 ばさばさとはためかせはじめた。それは凄まじいつむじ風となって、こちらに向けて吹き荒れ始めた!


「うわっ」


 木々がたわみ、俺たちも進めなくなる。後ろで皆が更に悲鳴を上げる。

神父様は衛兵たちに抑えられながら叫ぶ。


「ぜ、前代未聞だッ、これは査問騎士団行きだ、ああああ……勇者が、勇者が女だなんて――」


 更にドラゴンは、そうして踏みとどまっている俺達の足元に向けて炎を吐き出した。

 今度はごく小さい、息吹のような炎の玉だった。

 爆発のような効果を起こし、俺達は後方へ大きく吹き飛ばされる。

 土煙にまみれながら、エイダが転ぶ。小さく呻き、その後、膝と肘を擦りむいたのを見る。顔も煤だらけになってしまっている。目元に、涙が浮かんでいる。


「りーくん、無理だよ、やっぱり勇者なんてあたし、向いてないよっ」

『いい、勇者じゃなくたって』


 俺は語りかける。

 なぜだか、俺のすべてが分かるようだった。自分の身体の健康状態を把握するように。


「えっ?」

『俺は、勇者の剣は、持ち手に合わせて変化する、らしい。分かんねぇけど、そんな気がする。だからお前も、俺を持って、想像して見るんだ、お前がいちばん力を発揮できるものを』

「えっと、それはっ……」


 エイダは最初戸惑っていたが、すぐにイメージが流れ込んでくる。

 それはエイダが、みんなの前で竪琴の演奏をしているところで。

 だが、すぐにそれは消える。


「む、無理だよりーくん、あたし怖い、みんなの前でそんなっ……あたしの夢なんか」


 恥ずかしい、とかではない。自信がないし、怖いのだ。

 それは分かってる、一緒にいるから知っているし。なによりも、俺が自分の夢に対してそうだったからだ。

 だけど、今は。


『バカ、まだそんなこと言ってんのか!!』


 叱咤を飛ばす。


『いいか、言ってやる! お前の演奏は最高だ! だから最高のお前は、演奏してるお前なんだよッ!!』

「……!!」


 はっとしてエイダが顔を上げる。

 ドラゴンは身体を揺さぶってから、四肢を地面につけて、こちらに向けて突進を始めた。土がめくれ上がり、丘が蹂躙されていく。巨体が激震とともに迫ってくる。


『だから願え、最高のお前を!!』

「あたしの……最高……!!」

 ドラゴンが、叫びとともに、食いかかる!!


 ……火花が散る。


「があああああああ、やめ、」


 神父様が叫びを上げるが、どうやら無事だった事に気付いて顔を上げる。

 ドラゴンは口を開けて、その場で止まっていた。

 エイダの振るった剣が、その噛みつきを直前で押し留めていて、大きな影の中で、みんなを守っていたのだ。


「え、エイダ、君は」

「なんとか、なれッ……!」


 ぎりぎり、ぎりぎり。エイダが後ろに後退していく。剣だけで、しかも少女一人の力でドラゴンを押さえ込むのは厳しいということか。しかし。


「なんとか……なれぇーーーーッ!!」


 エイダが叫んだ瞬間、俺の身体に再びの変化が起きる。


『か、かゆいッ、ちょっ、身体がめっちゃかゆいッ!!』


 グリップを握る拳から下の、俺の形状が変化した。扁平に広がって穴が開き、そこに縦に硬い糸のようなものが張られ。

 それはまるで、まるで……。


「あたしの、夢……これが、あたしの……」


 糸が虹色の輝きを一瞬放ち、ひとりでに動き、歌うような音色を奏でると同時に。


「これがあたしの……『最高』だッ……!!」


 内側の力が莫大に増大したのを感じ、エイダはそのまま、俺をドラゴンの口に押し付けたまま、一気に全面に押し込んだ!!


「グギャアアアアアアアア!!」


 ドラゴンは悲鳴を上げて、大きく後方へ吹っ飛んだ。

 とんでもない光景だった。みんなが更にぽかんとしている。

 ……ずずん。大きく地面が揺れて。ドラゴンが倒れ込む。


「っ、はー、はーっ……腕、痛いっ……」


 エイダの身体から力が抜けるが、俺を地面に突き刺して支えにすることで倒れなかった。

 後方を振り返ると、神父様がガタガタ震えていた。遠くにいる、みんなも一緒だ。

 ……誰も死んでいない。俺たちが守ったんだ。


「どうなっちゃったんだろ、りーくん……」

『分かんねぇ、けど……お前が願った結果だ』


 エイダは俺を見た。俺はグリップの下部分が竪琴のように変化していたのだった。そしてエイダの『思い』が流れ込むと、自動的に何かを奏でて、それが俺とエイダの力になったのだ。


「……動くぞ!」


 声。前を見る。

 ドラゴンが身体を起こして、叫び声を上げた。傷だらけだった。以前よりも悲痛さを増していた。

そして奴はなんと、こちらに向かってくるのではなく、反転し……丘を、くだりはじめた。

 もはや翼を使わず、その四肢で、地面を踏みしだきながら。


『あいつ、町に向かうぞ!!』


 皆がさらに悲鳴を上げる。


「あ、あんなのが暴れたら!!」

「うちの子がまだ残ってるのよ!!」

「うわあああああああああ!!」


 やるしかない。


「りーくんっ……!!」

『行くぞ!!』

「う、うんっ!!」


 エイダは俺を引きずりながら、走って、ドラゴンを追いかけ始める。


「もはや手段は選んでいられん……ええい、みんな、かくなる上はっ……あの二人を、援護するんだっ!!」


 神父様の号令とともに、衛兵たちが俺たちの後ろからやってきて、弓矢を構えて、放った。それは逃げていくドラゴンに突き刺さっていく。奴は悲鳴を上げてたたらを踏んだ。だがそれでも、進撃をやめない。

 ……衛兵たちと目があった。

 みんなは俺たちを見て、うなずいた。

 無言の願いが、そこにあった。


 俺たちは、後方からの弓矢の支援を受けながら、ドラゴンを追う!


 奴は速い、速い。木々をなぎ倒しながら進んでいく。


「もっとはやくっ……もっとはやくっ……!!」

『願うんだ、エイダっ』

「もっと速く――!!」


 エイダは叫んだ。竪琴が再びかき鳴らされて、今度は……両足に力がこもった。

 次の瞬間。

 ――加速。


 高速で駆けて山を下っていく。倒れ込んだ木々を飛び越えて、時折よろめきながら、その加速に振り回されそうになりながら、いつしか俺を肩にかついだ状態で、まっすぐに、ドラゴンに向けて。


「り、りりりりりーくん、これ、どどどど、どうなっちゃってるの!?」

『お前が願ったからだ!! お前、すげぇよ、俺には分かる』

「えっ、」

『お前の演奏がってことだ!!こいつは、お前の力だ――』

「……!」


 その言葉で、不安げだったエイダの様子が少し変わった。唇をしっかり引き結んで、さっきよりもずっと確かな力を込めて、一気に、森を駆け下った。矢よりも、風よりも速く、速く、速く――!!


『町へ、出るぞッ!!』


 視界が一気にひらける。

 森に入る山道を抜けて、俺達の町へ。

 そこに、ドラゴンが一気に突っ込む。

 

 石畳が砕けていき、がむしゃらに振り乱された尻尾が建物の屋根を破壊しながら、通りに倒れ込んでいく。

 人々は突然の怪物の襲来に悲鳴を上げて、恐怖のままに逃げ始めていく。土埃が舞う。

 ドラゴンはその場で身をよじり姿勢を立て直し、三度咆哮を上げる。

 その姿勢は……。

『まずい、今あれをされたらッ!!』


 炎だ。

 今度は、直接ぶちかます気だ。

 怒りと焦りと、それ以外の何かも混ぜ込んでぐちゃぐちゃになって。

 もっと前に、間に合え、間に合え……。


 ……ドラゴンがその身を痙攣させて絶叫し、たたらを踏んだ。

 エイダが後ろを振り返ると、馬に乗った衛兵たちが弓を構えていた。

 ドラゴンの身体に、矢が無数に突き刺さっていた。


 俺たちの前にも、後ろにも、守るべき人たちが居た。

 俺たちに何を黙っていたとしても、それは関係なかった。


 ドラゴンがまた、身体を起こす。

 今度はこちらを向く。

 ……これまで以上に大きく上体をそらして、空気をありったけ吸い込もうとしている。

 間違いない。こちらを完全に焼き尽くすつもりだ。食らったらひとたまりもない。


「ッ――!!」


 ……俺たちは、一気に山道を駆け下りていた。

 速く、もっと速く。エイダの意思が入力され、俺は力を奏でて。足が速くなる、速くなる。俺を振りかぶる。ドラゴンが空気を吸い込む、吸い込む。矢が突き刺さっていく。だがもう止めない。やつも必死なのだ。

 しかし、負けない。


 ドラゴンの口の中で空気が膨れ上がり、あと数秒ですべてが燃やし尽くされる。

 その時俺たちは。


「りーくんッ!!」

『翔べ、エイダっ!!』


 エイダの演奏が、再び俺から音色を引き出した。

 力はエイダの足に羽根を宿し、彼女をその場で大きく跳躍させた。

 重さから解放され、空中で振りかぶる。

 ドラゴンの首はそれに追従し、こちらを見上げて――。

 炎を、ひときわ巨大な炎の塊を、吐き出した!!


 ――いまだ!!


 俺たちは一緒になって叫んでいた。互いの境界線が消えて、完全にひとつになって。

 空中からドラゴンに向けて、その切っ先を振り下ろした。


 ――急降下。

 炎が、裂ける!!


 人々の声が聞こえる。姿が見える。

 熱い、熱い――痛い、でも、負けないッ!!


「ッ…………ああああああああ!!!!」

『行けっ……エイダ、』


「グギャアアアアアアアア――――!!」


 ドラゴンの最後の叫びが空に轟いたと同時に。

 俺とエイダは、斜め上から、そいつの体全体を、大きく縦に切り裂いて。


 倒れ込むそいつが見えて、火の粉が空中に拡散するのを背景に――着地した。

 激しい振動のあと、ドラゴンはそのまま、動かなくなった。


「……」


 身体から力が抜けるが、俺が支えた。

 座り込んだエイダは、ただ荒く息をつく。

 俺たちの周囲に、人々が集まってくる。ドラゴンが撒き散らした破壊は確実に町に被害を与えていて、至るところに瓦礫を散らしていた。しかしそれは気にならず、ただ俺達の姿だけを見に来ていた。


 後ろから、森に逃げていたみんなや神父様たちも合流してくる。

 俺たちは、ドラゴンの亡骸を背景にして、気づけばみんなに囲まれていた。

 拍手や歓声は、なかった。

 ただ、誰もが呆然としていた。

 しかし、神父さまが一歩前に進んで、告げた。


「みんな、聞け……信じられない。本当に信じられないが」


 ――『ここに、あらたな勇者が生まれた』。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ