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江戸の敵を異世界で討つ  作者: 依田益太
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両替商との再会

翌日は、ドワーフの鍛冶工場にいろいろなものを注文しに行った。筏製作冶具とどんな材木でも同じ寸法にそろえて切断できるノコギリ、寸法は可変出来る様にする。そして、この工具は秘中の秘とすることと、各製品に隠し通し番号を打ってもらうことにした。前金を払い、2週間後に試作状況を見に来ると伝える。

さらに翌日、両替商の澤田屋に向かう。「九尾の狐の店で奉公している、はつでございます。ご主人さまと面会の約束により参りました。」番頭は、「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」と案内してくれる。もちろん、番頭も知っている。

「はつさま、聞きましたぞ、悪漢を居合で指を切り飛ばしたとか。いやぁ、素晴らしい技だったと、さすが源之丞さま、腕前は落ちていないようですね。」「どういう事でしょう。」「この澤田屋五兵衛、いろいろ考えまして、摩訶不思議であるとしか言えないのですが、ヒューマンのお姿をしていますが、容姿、居住いは、まさに水無瀬はつさま、そして居合技、啖呵の切り方、何より頭脳明晰さは水無瀬源之丞さまそのもの。いかがでしょうか」「五兵衛の推理通りで合っている。私にも説明が出来ないが、姿は我が娘のはつ、そして中身と言うのも変だが、源之丞がここに居る。」五兵衛は、はらはらと涙を流しながら、「源之丞さまさえ居れば、これで四春藩は救われる、本当に良かった。」と言いながら床に崩れていく。

「なぁ、五兵衛、お互い分からない事だらけだ。ここは情報交換と行こうでは無いか。」「もちろんです、では私の方から。」「いや、前提としての部分を私から、説明したい。」「どうぞ。」「もはや魔訶不思議上、事実を受け止めるしかないのだが。私は別世界から、この世界に転送された。」「はあ、転送ですか。」「私はヒューマンが収めている世界で、四春藩筆頭家老の水無瀬源之丞だった。その世界には。亜人は存在していない。」

「そして国元での妻子惨殺の責を問われ、この世界に転送された。私は転送時にこの姿で大川に沈んでいたそうだ。」「源之丞さまを助けたのは、九尾の狐さまの方と言う事ですか。」「その通り。びっくりしたぞ、5つのコブラ頭が鎌首を上げて、私を覗いていたのだからな。」「それはいつ頃の話でしょうか。」「あまり日数を数えていないが、1ヶ月ほど前だろうか。」

「源之丞さま、私の理解は置いておいて、確かに1ヶ月ほど前に、源之丞さまは、四春藩の上屋敷で国元の奥さまと幼子の惨殺の責を問われています。殿さまは、現地に居ない源之丞の責を問い詰めて何の得があるのだと、酷く荒れていたそうですが、家老方の、「筆頭家老の不祥事、他のものに示しが付きません」との理解不能の論理で、お家の取り潰しが決まりました。」

「五兵衛、まったく同じ状況だったよ。」「源之丞さま、残されたお子様はどうなされました。」「長男の源一郎は上方の蘭学医の預けた。娘のはつは、そうそう、別世界の五兵衛に預けた。商売人にしてくれと。」

「ちなみに、別世界の五兵衛は何と。」「しぶしぶ受けてくれたよ、でも商売の勉強をしないで、毎日剣術道場に通っているので、言い聞かせて欲しいと言っていたなぁ、」「こちらに居たはつさまとは違いますね、お預かりしたはつさまは、商売のノウハウをどんどん吸収していきました。そしてあの器量ですので、縁談の申し込み直ぐに来ました。大店からの依頼もありましたが、いつか源之丞さまが戻られると信じて、断ってきました。」「本当に五兵衛には世話をかけっぱなしですまんな。」「勿体無いお言葉です、源之丞さま。」

「それで、四春藩の現状とはどのようなのか。ここだけの話だが、米奉行が、宇都宮に出張っていた。明らかに米の横流しだろう。」

「残念ながら、殿が上屋敷に居る状態ですので、国元の家老はやりたい放題です。源之丞さまが決めた返済金も国元は収めて来ませんでした。」「そんな馬鹿な話があるか、凶作でなければお釣りがでるはずだぞ。」「はい、私も源之丞さまと一緒に石高から計算していますので、あり得ないのですが、国元からは予定の金子が用意できないとの一点張りでした。」

「それで、殿はどうなされたのだ。」「下屋敷を売り払い、不足の金子を用立てしました。源之丞の決めた約定は必ず守ると言っておられました。」

「五兵衛、最後に教えてくれ、我が弟が筆頭家老代行で上屋敷に居るらしいが。」「源之丞さま、それが現時点の最大の問題です。弟さまは国元家老の傀儡、源之丞さまのような気概は無く、国元からの苦情を殿に伝える役になっています。」

「五兵衛、どうかお願いだ、私を殿に合せてくれないか。そうだな、囲碁で遊んではとか、珍しい蛇の抜け殻を見つけたとか、何でも良い。なんなら、九尾の狐の店から儲け話があるでも良い。とにかく会わせて欲しい。」

「源之丞さま、それは私からのお願いでもあります。このままでは3年目の支払いができないでしょう。源之丞さまを信じて納得した商人への支払いが滞ってしまえば、藩の運営は終ります。ご公議から目を付けられていますので、お家断絶は必須かと。」

「では、五兵衛には迷惑を掛けるが、殿との面会の労をお願いしたい。」「源之丞さま、頭をお上げ下さい。どうかお任せください。近日中に九尾の狐さまの店に信の置ける人物を訪問させます。」

「どうした、はつ、ここまでしょぼくれたはつを見るのは初めてだが。」「ご主人様、前にもお話した旧知の両替商と話をしてきましたが、想像以上の惨状に、打ちひしがれてしまいました。」

「ははは、はつのしょぼくれた姿も良いものだな。」「すいません、ご主人さま。」「はつ、この間、オムの抜け殻が欲しいと言っていな。」「はい、ご主人さま。」「では、いまからオムの体を綺麗にしてやれ。体をこする道具は、はつと同じで良いはずだ。さあ、池の水を抜いて、始めなさい。」「はい、ご主人さま。」

「なになに、はつが遊んでくれるの、やったぁ。嬉しいなぁ。」「オム。金魚さんとは仲良くしている。」「うん、すごく仲良しだよ。オムの体に小さな虫がいるんだって、それが金魚さんのご飯にちょうど良いみたいで、毎日来るよ。」「さあ、これからオムの部屋の水を抜くから、金魚さんは部屋に戻って貰ってね。」「はーい。」

「じゃ、これから、オムの体を拭くからね、痛かったりしたら直ぐに行ってね、痛いからと言って噛みついたらダメだよ。」「はーい。」

私は、無心になってオムの体を拭いていた、確かに小さい虫が付いているので、丁寧に取り除く。ただ無心で拭くだけだったが、気持ち良そうなオムの姿を見て、自分の気持ちも楽になるのを感じる。

「オム、体は綺麗になったよ、顔と頭はいつも自分で洗っているから大丈夫かな。」「はつ、意地悪しない。顔も頭もお願い。」「分かったけど、噛みついたらダメだよ。」「はつ、それって芸人さんのお約束ってやつなのかな。」「違うから、はい、力抜いて。」

「はい、体拭きは終りました。後は湧水で全体を流すだけね。」「ひゅわぁ、気持ちよかった、はつ、毎日やってよ。」「さすがに毎日は大変だけど、時々は拭くことにするから。」「分かった、なるべく毎日ね。」

それから、オムの脱皮期間までの間は、山に行って材木の運輸を行った。寄り合いで説明もしたし、オムの脱皮期間は運輸が出来ないので、筏の数も増やして多めの材木を運ぶ。アムが開拓した集積所を中心に回って仕入れを行う。

「ご主人さま、オム眠い。」「眠いかい、ゆっくり寝なさい。枕はどうする。」「これは、はつのプレゼントだから、このままで良い。」「さてと、オムの脱皮期間だね、前の脱皮は2週間寝っぱなしだったから、今回もそれくらいかねぇ。」

「それと、はつの希望の運河沿いの土地は希望通り抑えたよ。」「有難うございます。オムが寝ている間に、仕上げます。」「で、結局何に使うんだっけ。」「はい、基本はご主人さま専用の材木置き場です。現在の大川沿いでは、筏が普及すればすぐに一杯になります。おそらく、無理な拡張をするでしょうから、野分などで壊滅しますので、内陸部分に新たに場所を作ります。」「はつも意地悪だなぁ、みんなに教えてやれば良いのに。」「ご主人さま、商売人はきちんと先を見通すことが出来なければいけません。」「そりゃそうだけどねぇ。」「ちなみに、ご主人さまの新しい街の材木集積所は、隠したりしません。」「それを見て気が付く商店があれば、その店とは仲良くしたいですね。」

「それと、設計図はそろそろ完成するのですが、オム対応の高速小舟の製造場所と係留場所にします。」「はつ、アムから素案を見せて貰ったが、あれは小舟では無いぞ、海は辛いかも知れないが、川が活動範囲なら、中型船だぞ。」

「ご主人さまは、もっと大型が良かったですか、確かに今設計している小舟では海は厳しいです。」「はつ、あの大きさにした理由は何だったかな。」「はい、オムの全速力の引きに耐えられる構造、材木が売れることにより、山の村は豊かになります、街の物資を乗せて売りに行きます。」

「はつは、恐ろしい子だな、完全なマッチポンプ。」「ご主人さま、それは酷いです、山の村の繁栄を願っての小舟です。」「それにご主人さまの店は、材木屋です、村から呉服の注文があれば、それを仕入れて、手数料を乗せて売る訳ですから、利益は小さいです。手数料商売をするなら、他の材木店の集積所を荒らしましょう。」「まずは筑波山系の材木集積所との信頼関係の強化です。」

「はつは、手数料商売はしないと言っている、それはそうだろうが。だがそのうちドワーフの鍛冶職人に生活に便利な品物を作らせて、利益を十分乗せて売りまくるんだろう。」「ご主人さま、それくらいの先を読んでいないと、材木相場がどうなるか予想できない以上。別の商売は開拓すべきです。」

「それでも敷地は余裕が有るのだが、どうするつもりだ。」「はい、製材場を作ります。」「製材場とは。」「材木のままだとただの丸太の木です。使う為に表皮を剥げば、まあ使えますが、四角い角材に加工すれば、使い勝手は良いですので、家を建てるのが便利になります。」「なるほど、角材か。薄く切れば板になる。組み合わせれば家になると言う事だな。」「はい、そうです。」

「で、敷地をどう使うのかな。」「以前、お話した徒歩での材木運び屋を雇って、角材加工に働いてもらいます。材木に慣れた人でしょうから、即戦力。手間賃も運び屋よりも増やせば、直ぐに集まるでしょう。その働いてもらう人の家を近くに建てます。もちろん、家賃分は賃金から引かせて貰いますが。」

「はつ、それこそ、完全なマッチポンプだろ。」「ご主人さま、マッチポンプにするなら、食堂、銭湯などを建てましょう。悪所はダメですが、それともご主人さまの稲荷神社を建てて、お賽銭を頂きましょうか。」「はつ、本当にお前ってやつは。」「良い子ですよね。冗談はさて置き、周りに何も無い場所です、製材で働いてもらう皆さんの娯楽設備は必要です。」

「それと、これが最大の目的なのですが、ご主人さまにも始めてお話します。ご主人さま専用の材木置き場の警備目的で、四春藩の下屋敷を誘致します。」「目的は、まあ何となく分かるが。」「まず、製材で働いてもらう皆さんは力のある獣人が多いでしょう、喧嘩など起こりやすいです、そこに小藩とは言え役人が警備するなら、安全な地域になるでしょう。」

「はつ、四春藩にとっての利益は何だろう。」「まず、住居の提供、警備が回り始めれば、警備代の支払いです。」「四春藩は乗って来るだろうか。」「はい、そこが最大の問題です。小藩ですが、何も無い草むらに下屋敷を構える訳ですから、心無い誹謗、中傷にさらされます、それを許容する判断が出来るかです。」「そして、はつが殿さまと直談判と言うことか。」

「談判する場所はどうする、今の住まいではまずいだろう。」「はい、出来れば下屋敷建設現場が良いです。」「悪い条件は始めに見せると。」「はい、上様は心の強いお方ですが、心無い誹謗、中傷に耐える覚悟を持って頂いてから、合意したいです。」

「分かった、はつの案で行こう。時期はいつ頃になる。」「1ヶ月後で。」「分かった。」

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