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江戸の敵を異世界で討つ  作者: 依田益太
6/19

商圏、商材の拡大でご主人さまのお店を大店にして見せます。

「ご主人さま、はつ、戻りました。」「お帰り、今日の作業ご苦労様、アムとオムが帰ってきたら、あたしにも工夫とやらを説明してくれ」と店の奥から声が掛る、「はい、分かりました。」と返事をして、縁側でアムとオムの到着を待つ。

うつらうつらしていたかも知れない。オムの元気な声でハットする。「どうした、はつ、元気が無いな。」「アム、お帰りなさい。大丈夫です。今日は少し疲れました。」「お疲れのはつには悪いが、この桶の魚をなんとかしてくれ。オムがひょいひょいと魚を投げて来て、この有り様だ。」「分かりました。オムの部屋をオムに案内したら、仕込みに入ります。」

「どれどれ、随分と変わってしまったなぁ。」「すいません、ご主人さま、好きにさせて頂きました。」

「では、説明します。容積、池の大きさですが、今までの3割増になっています。入口は少しだけ広げたので、中と底をだいぶ掘りました。」「本当に池そのものはあまり変わらないなぁ」「オム、入って見て頂戴。」「はーい。」「ご主人さま、オムの部屋広くなったよ、いまね、しっぽの先が底に当たらないよ。」

「次に、竹の竿ですが、部屋の上に乗せる日よけ簾を支える物です。日よけ簾を乗せるとこんな感じです。」「はつ、これはあたしの部屋にも欲しいぞ。」「はい、ご主人さま、ご用意するように致します。」「ただ、オムの部屋の日よけ簾は、風に弱そうで、失敗作です。もっと簡単なものに作り替えます。」

「まだ、有ります。」「オム、この水車を回して頂戴、力一杯では壊れるから手加減してね」「はーい。」「ねえ、はつ、これ回してると綺麗な音がするね、楽しいねぇ。」「はつ、オムの玩具かい。」「いいえ。その竹筒の中に水を送り込む装置です、そして終着場所は、その大壺です。アム、その壺の底に刺さっている。木を抜いて頂戴」

アムが壺の木を抜くと、水が出て来た。予定通りである。「これで、毎日の水くみが楽になるかと、オムが水車を回せば、壺に水が溜まります。」「よく出来ているねぇ、しかも湧水を直接、壺に入れるのかい、これは便利だねぇ。」「はつ、有難う、これはとても嬉しい贈り物だわ」「アムに喜んで貰って何よりです。これで新しい工夫は終りです。」

「はつ。この新しい枕が低くて顔が水面から出ないんだけど。」「そうよ、悪いことをした日は、その枕で寝て頂戴ね。」「じゃ、良い子だったら。」「枕を用意したから、試して見て。」端に隠していた木綿の大袋を石の枕の上に置く。ちょうど枕の最上部が水面からしっかりでる様になっている。

「はつ、これなら顔が水面から出て苦しくないよ、それにしゃらしゃら音がするね。」「はつ、中に何を詰めたんだい、お米の抜け殻、もみ殻です。」「なるほどねぇ、普通は捨てるものだから、タダ同然って訳だ。」「ご主人さま、そうなんですけど、水に濡れると、腐りますし、もっと良い素材が無いか考え中です。」

「オム、そのしゃりしゃりは気に入ったかい。」「うん、ご主人さま、いい匂いだし、首を乗せるとちょっと凹んで、気持ちいいんだよ。」「じゃ、これでいいじゃないかねぇ。アム、後で良いので、水に濡れても湿らない、腐らないもみ殻を用意して頂戴。」「はい、ご主人さま。用意します。はつも私の妖術を当てにしてくれてもいいんじゃないのかな。」

「じゃ、夕飯にして、その後はアムからの話を聞かせてちょうだいな。」「はい、アム、魚の入った桶を…。」「オム、今日は枕を取りましょうか。」「えー、どうしていい子にしてたし、魚もたくさん採ったよ。」「オム、これからは、みんなが食べる分だけにしましょうね、この量は食べきれないからね。」「分かった、じゃオムが食べて良い。」「ダメです。これは水槽に入れておきます。」料理する量以外は、もう一つの池に放流した。

「へぇー、その小さい池は活きた魚を保存しておく場所なんだ。」「はい、悪い天気が続いた時用の非常食です。」「まったく、はつには驚かされるばかりだねぇ。」「でも。この池の魚は餌がありませんので、どれくらい元気なのか、痩せてしまっては美味しくないですし。」「まあ、九尾の狐の湧水だからね、暫くは元気なんじゃ無いかな」「私もそう思ってますし、失敗しても別の用途で使えますので。」「それは何だい」「そろそろだと思います。」

「はつ、はつ、大変だよ、私のお部屋に赤い魚が入って来ちゃったよ。」「それは金魚。となりの池に放したんだけど、隙間からオムの部屋に遊びに来たようだね。」「せっかくだから、お友達になってあげてね、食べちゃだめだよ。」

「さすがに、オムは食べちゃうと思うけど。」「それなら、仕方がありません。でもオムはいつも一人ですから、もしかしたらと思っています。」「そうなったら、素敵なことだねぇ」「はい、ご主人さま。」

はつの焼き魚料理を食べながら、3人が話をしている。「アム、今日の首尾はどうだった。」「総論賛成、各論不合意と言う状況です。ただし、筑波山の近くの鬼怒川流域はほぼ商圏に入りそうです。」「各論不合意は材木の仕入れ値かだね。」「はい、ご主人さま、今までは場所による価格差が余りにも大きかったのですが、筏による大量輸送実現と集積場所の有利、不利が無くなったので、今まで買い叩かれていた材木集積所の不満が噴出した感じです。」

「まあ、価格については予想していた通りだが、商圏が拡大はどうしてだい。」「はい、ご主人さまは現時点で筏輸送を実現している唯一の商店であり、少しでも高く売れるなら参加するのが得と考えているようです。」

「まったく、はつの想定通りに進むので、山林管理者の視野が狭いのか、はつが凄いのか、わからないねぇ。」「はつ、この状況で今後の山林管理者、材木集積所との取引きルールを変えるかい。」「ご主人さま、一度決めた約定は必ず守るしかありません。」

「今まで散々買い叩かれて、苦い思いしていた気持ちは良く分かりますが、我々が提示している仕入れ金額は、今までより1割増で、現時点で、この仕入れ金額を提示できる商店はありません。」「はつ、その通りだが、ご主人さまの店が不当に利益を上げていると風評されるのも困る。」「アムの言う通りですね。では、約束している、余剰利益の共同管理の貯金を両替商の証文を定期的に、材木集積所に開示しましょう。ご主人さまの店の利益では無い事を説明していくしか無いです。」

「ご主人さまにお願いがあります。」「どうした、はつ、改まって。」

「まず、現在の材木集積所です、鬼怒川全体まで商圏が広がると、現在の場所は不便です、もう少し下流にちょうどいい場所が有ります。そこを抑えて欲しいです。」「それから、何回か筏を操作していると、筏さえ組み上げられれば、川の流れに乗って下れます。その気になれば、この街までも可能でしょう。もっとも帰りは徒歩ですが。」「もっと、詳しく。」「そのうち、誰でも筏を組むことが出来る様になると言いましたが、その時は、ご主人さまが管理する川の中流域の材木集積所にて即金で材木を買い取りましょう。そして、買い取り価格は、同品質なら同一価格の設定です。」「アム、はつの言っていることが理解できるか。」「はつは、材木の売値のバラツキの不満解消策を提示しています。」「はつの案で、材木集積所は納得できるのか。」

「新しい、ご主人さまの中流域材木集積所から近い材木集積所は、集積所に収めた後の徒歩での戻り費用が安く済み、利益が多いです、逆に遠い材木集積所は、徒歩での戻るために数泊必要となれば費用が掛かり、利益が少なくなります。」「はつ、続けてくれ。」「この地理的な差による利益差は、現在の状態と同じです。地理的に不便なところは利益が出しにくい。であれば不満は収まるかと、当然のことながら、ご主人さまの中流域材木集積所まで自力で運んでくれるので、その手間賃分は上乗せすれば、他の材木商店より、ご主人さまの店に売るのが一番良いとなるので、鬼怒川流域商圏はそのまま独占を維持できると考えます。」

「もし、自力でご主人さまの中流域材木集積所に運べない材木集積所はどうする。」「オムに運んで貰います。もちろん手数料はしっかり頂きますが。」

「すいません、まだお願いが有るのですが。」「アム、はつを強制的に1週間ほど、睡眠状態には出来ないものか。」「ご主人さま、可能ですので、宜しいですか。」「まずは、内容を聞いてからにしよう。」

「すいません、以前、ご主人さま独自の材木集積所を用意しましょうと提案しましたが、場所と広さを決めて見ましたので、是非手に入れてください。どうせただの草原ですので安いと思いますが、広さを以前の想定の3倍にしています。」

「はつ、お願いはこれで終わりか。」「すいません、ドワーフに工具の発注をしたいので、工具代を頂きたいです。」「どんな工具なのかな。」「どんな材木でも同じ寸法にそろえて切断できる工具です。それと筏を簡単に組める冶具です。」「それは、現在の徒歩で材木運搬者の救済策の実現に向けた準備か。」「その通りです。」「それなら認めるしか無いな。好きにしなさい。」「ご主人さま、有難うございます。」

「では、明日と明後日は、アムとはつは鬼怒川流域商圏の開拓と中流域材木集積所の確認を行うこと。」『はい、ご主人さま』

「アム、オムの状態はどうだ、2週間後を目途に休ませたいと思います。」

「では、何とか商圏の開拓の完了までは頑張ってもらえるのか、オムにはもっと休ませたいが、オムが拾ったはつのお陰であればしょうが無いか。」「それは脱皮の準備ですか。」「そうだ、2週間ほど、オム部屋でじっとしている。」「すいません、脱皮の抜け殻を私に頂けないでしょうか。」「構わないが、何に使うのだ。」「はい、四春藩上屋敷におられる殿への土産にしたいと思います。」「さりげなく、はつに仕事の督促を受けてしまった。アム。やっぱりはつは、強制睡眠にしようか。」「ご主人さま、そんな笑顔で言われましても、アムは困ります。」

「今日は、3人でお出かけするの。やったぁ、たくさんでのお出かけは楽しいね。アムは、昨日と同じで頭の上ね。はつはいつもの通りで抱えて行くから、桶ははつが持ってね。」

そして、私は中流域材木集積所の目星を3か所つけて、アムは鬼怒川流域商圏の開拓に忙しく回った。そして最終日に、お抱えの材木集積所に向かい、今後の材木価格の下落の対策について、意見交換を行った。

「はつさま、この材木集積所と上流の集積所から相当の材木が出荷出来ました。本当に、はつさまのお陰です。」「ご主人、はつで良いから、知っておいて欲しいけど、街の材木の価格が少しずつ下がり始めた。」「はい、徒歩での材木運送者からも聞いております。」

「私たちは、材木数が圧倒的だから、価格の下落にはまだ頑張れる、だけど必ず材木の値段が大きく下がる。」「はい、半値も覚悟すべきと理解しています。」「そして、仕入れの価格差の不満が大きくなっている。」「はい、不満の声は大きいです。幸い私どもは、九尾の狐さまのお店に値段を決めて貰っていると、議論から逃げていますが。」「それは、構わない、はつを悪党で使って頂戴。」

「いろいろ考えているのだけれど、どうせ半値になるなら、同一品質の材木ならば、どの集積所からでも同じ値段で仕入れるつもり。」「それでは、新規参入で材木を大量に出荷できるところが有利で、我々は出荷限度がありますので辛くなります。」「だから共同管理の貯金があるんじゃない、商売だから甘えてはダメだけど、正当な理由なら共同管理の貯金から補填すれば良い。そして、あっちの集積所がどうだとか、こっちの集積所がどうだとかでは無く。この地域全体で考えないと、材木が採れるのは、ここだけではないからね。荒川流域、多摩川流域、そして利根川流域、競争相手は多いよ。」

下りの筏にアムと一緒に乗って、街に帰る途中。相変わらずオムが魚を投げて来る。「しかし、さっきのはつの啖呵は凄かったね。管理人さん、何も言えなかったよ。」「しょうが無いです、私が仕掛けた筏が原因ですが、材木の価値が大きく変わるその始まりです、賽は投げられたのです。いろいろな想定をして準備を行うしかありません、怠けた者が敗者となって退場するだけです。」

「でも何で賽を投げたの。」「街の生活環境を改善したいです。雨が降るたびに濡れたまま我慢する人が多すぎます。せめて雨露から守れる場所で生活して欲しいです。」「それだけ。」「はい、そうです。」「はははぁ、やっぱり、はつは特別だわ。もっと、はつにこき使われるか。やっぱり、強制睡眠にしようかな。」

「アム、はつ、お帰りなさい。」『ただいま戻りました。』「首尾は後で聞くとして、はつ、明日はあたしと材木商店の寄り合いに参加ね。」「何か、準備することはありますか」「うーん、大丈夫。ちょっと厄介な商店がいきり立ってるって聞いたから、万が一のため。」

「で、今日の首尾はどうだったの。」「はい、筑波山系の鬼怒川筋の集積所は、ほぼ話がまとまりました。ただ、これだけ商圏が広いとオムにも回る限界がありますので、集積が遅いとの苦情になるかも知れません。」「で、はつは、その対策を考えていると。」「はい、ご主人さま、はつには、こき使われてます。」「はははっ、それはあたしも同じ、いろんな買い物をさせられて、金庫が空になるかもだね。」

翌日、臨時の材木商店の寄り合い場所にご主人さまと向かう。「ご主人さま、通りを歩くときは仙狐さん似の狐人なんですね。」「はつ、考えても見ろ、あんなデカい姿で歩いたら、周りの迷惑だろ。」「はい、その通りですね。」「ご主人さま、今日の寄り合いはの見通しは。」

「まあ、一方的に責められる形だな、その対応は、はつからの報告内容を丁寧に説明する。」「はつ、どうしても埒が明かなくなったら、お前に振るから、将来に向けての隠し技を多少漏らしても良いぞ。」「大丈夫です、脅して情報だけを得たい不埒者は、全部潰してやります。」「はつ、材木商店の寄り合いだからな、余計な敵は作るなよ。」「お任せ下さい、ご主人さまに同情が集まる様にしながら、不埒者の口を封じて見せましょう。」「はぁ、連れて来るんじゃなかったかなぁ。」

「はつ、付いたぞ、はつは付き人扱いだから、壁際に座っていてくれ。」寄り合い場所は円卓に16名程度の席、壁際には30席ほどある。既に半数が埋まっている状態、刻限が近いのか続々と店主が集まってきている。店主のほどんどが神々クラス。変化して席に座っているが、青竜、朱雀、白虎、玄武の四神もいる。うへぇ。恨まれたら即時に首が飛びそうだ。

麒麟さまが司会役らしい。「では、臨時の材木商店の寄り合いを始めたい。今回の寄り合いを要求した、白虎さまから、発言をお願いしたい。」

「最近、材木の相場が下がり始めているのは、皆も承知だと思う。原因は今までより、街に入荷される材木が増えているので、結果として相場に反映されていると理解している。」白虎さまは穏やかに話を始めて来た、このパターンは糾弾になることが多いやつだ。

「材木の入荷が増えたと言うか、増やした商店を調べて見たら、九尾の狐の商店だった。九尾の、相場荒らしについて説明を求めたいが。」麒麟さまは、ご主人さまに発言を促す。「まず、相場荒らしをする意思も有りませんし、確かに材木の仕入れを増やしてますが、その数量はまだまだ軽微、相場が過敏に反応しているだけと考えます。」

「なあ、九尾の。あの運搬方法を見たが、あの方法なら、もっと大量に仕入れられるのでは無いか。あえて抑え気味にしてだけと見受けたが。」「では、白虎さまも、私たちと同様の方法で運搬されてはどうでしょう。あたしとしては、運搬方法を利権化するつもりはありませんが。」「それが出来れば、とっくに実施している。試したこともある、しかし細かい作業が多く、うちの商店では作れない。」

麒麟さまは、「白虎さま、九尾の狐さまは運搬方法について、研究と努力をされて、あの筏なる運搬方法を作り出したのです。それを非難するのは、筋違いかと思いますが。」「それは、分かっている。しかし納得がいかない。」あちゃー、駄々っ子になった、これは感情で糾弾してくる、最悪のパターンだ。

「このままでは、あの筏なる運搬方法を実施できる、材木商店から大量の材木が街に入り、材木相場が大きく下がることになる。九尾の、あの筏の運搬方法の手法を広く開示すべきでは無いか。」「白虎さま、あの新しい材木運搬方式はあたしの店で試行錯誤を行い、考え出した方法です。筏の作り方を利権化はしないまで譲歩しています。その上で、筏の作り方を開示せよとは、あまりに乱暴では無いでしょうか。」

「では、他の店主に聞こう、自分の店であの筏の細工が出来る店はあるか。」長い沈黙が続く、どの店も筏を組めていないようだ。まあ、最後の結びが胆だから、手先が器用な種族でなければ出来ない。この世界で指を別々に動かせる種族は猿人くらいだろう。

「このままで、九尾のが、大量な材木を街に流通させ、相場が大きくさがる、あの筏を製作できない材木店は淘汰されるのだが。」「白虎さま、それが商売の大原則では無いでしょうか。」「狐ごときに、店が潰されるのは我慢ならん。」あちゃー、禁句を口にしちゃったよ。これでご主人さまが譲歩したら、白虎さまの脅しに屈することになる。ご主人さまは店主として、譲歩する条件に白虎さまの謝罪が必須条件になってしまった。

麒麟さまは、「白虎さま、少し冷静なられてはいかがでしょうか。一旦寄り合いを中断しましょう。」「九尾の狐さま、別室でお話などいかがでしょうか。」

別室には、麒麟さま、鳳凰さま、玄武さまと、ご主人さまと私が呼ばれて集まった。麒麟さまは「九尾の狐さま、私が言う筋では有りませんが、先ほどの白虎さまの発言を許して貰えませんか。」「麒麟さまの、温かい配慮には感謝いたします。しかしながら寄り合いの場での発言は、寄り合いの場でけりを付けるべきですし、なあなあで終わらせるのは、白虎さまの助長につながるのでは。」「私、玄武としても九尾の狐さまに同意します。」

「はつ、お前の出番だ。寄り合いを終了させる案を説明しなさい。」「ひゃい、ご主人さま」すげー、無茶ぶりが飛んできた。やっぱりご主人さまは、相当怒ってるんだろうな。ならば、私からは厳しい条件を提示して、お主人さまが妥協する構図だな。

「麒麟さま、鳳凰さま、玄武さま、はつと申します。失礼ながら私から、九尾の狐の店の提案をさせて頂きます。」「まず、筏の製作ですが、作り方が分かっても製作出来ないと理解しています。理由は特に細かい細工を行う工程があるからです。」「ですので、2ヶ月~3ヶ月の猶予を頂き、誰でも筏が製作出来る冶具を開発したいと思います。」

「それがあれば、全ての店舗で筏での運搬が出来るのか。」「はい、玄武さま、これから作成始めるのですが、全ての店舗で筏での運搬できることが目標です。」

「ここからは、私の私見も含むのですが、筏の開発と筏製作冶具の開発には九尾の狐の店が費用と期間を掛けて実施するものです。筏製作冶具の利用については、利用料を九尾の狐の店にお支払い頂きたいと思います。値段は材木の売値の1割でどうでしょうか。もちろん、利用料は交渉ごとですので、最終的にご主人さまと交渉して下さい。ただし今までの開発と筏製作冶具の開発は相当な費用を掛けますので、それに見合う対価を頂きたいと思います。」

「しかし、売り上げの1割は高すぎると思うが。」「はい、ですので、ご主人さまと交渉をお願いします。」

「それから、先ほどの白虎さまの件ですが、白虎さまが寄り合いの場で謝罪をして頂けないなら、筏製作冶具のお渡しまでの2ヶ月~3ヶ月の間、九尾の狐の店は筏を使って可能な限り大量の材木を仕入れて運搬をします。相場は荒れることになるでしょうが、そこはご了承下さい。」「九尾の、全ての材木店を敵にするようなことはしないよな。」「白虎さま次第です。」

「鳳凰さま、玄武さま、九尾の狐さまから、前向きな案を頂きました。これで寄り合いを再開したいのですが。」「今日の状態で寄り合いを解散する訳に行かない以上、九尾の案を提示するしかないだろう。」「玄武さま、ありがとうございます。」

「九尾の狐さま、これから白虎さまを呼びたいと思います。一度ご退席をお願いします。」「分かりました。」

寄り合い部屋に戻り、ご主人さまに呼ばれる。ひそひそ声で「随分と吹っ掛けたな。」「はい、私たちの店の圧倒的な有利な条件を安売りしても、どうせ感謝されませんから。後はご主人さま次第です。」「全く、はつは敵に出来ないな。」

大人しく、壁際に座っていると、兎人が近寄ってくる。「始めまして、両替商を営んでおります。澤田屋の五兵衛です。」知っている。四春藩の大改革の実行時に、一番先に口説き落とした、両替商だ。この五兵衛が了見してくれたので、他の両替商も付いて来てくれた。恩義のある両替商だ。

「はい、九尾の狐の材木店で働いている、はつ、と申します。」「はつさまですか。」「大変失礼ですが、澤田屋五兵衛の顔を見知っていませんか。」「どういう事でしょうか」「はい、はつさまはヒューマンですが、奥州にある四春藩の上屋敷で、狐人のはつさまにそっくりでしたので、縁者かと思いまして。」「五兵衛どの、そろそろ寄り合いが再開になりそうだ、続きは五兵衛どのの店にお邪魔させてもらうでどうだろう、そうだな明後日の午後の都合はどうだろう。」「はい、お待ちしております。」

麒麟さまが「寄り合いを再開したい、まず白虎さま、先ほどの九尾の狐さまへの非礼について、発言をお願いしたく。」「特に無い。」あちゃー。これで敵になっちゃったよ。

麒麟さまは「白虎さま、有難うございます。」「さて、九尾の狐さまから新しい提案を受けましたので、ご説明します。」と、先ほどのの別室の話を淡々と説明する。寄り合いの場は、説明内容が進む毎にざわつく。

「では、九尾の狐さま、補足する事があるなら、お願いします。」「筏製作冶具の製作完了まで、九尾の狐の店は全力で大量の筏にて材木の運搬を行うこととします。ご承知おきください。」「九尾のさすがにそれは乱暴では無いか。」「朱雀さま、寄り合いは仲良くする場ではありません。白虎さまの発言後の皆さまの沈黙がその証拠です。寄り合にて商売の規則などの合意し、各店がしのぎを削るもの。また、材木の街への供給量を増やすことはご公議の要請でもあります。ご公議の要請を実施する九尾の狐の店が責めを受ける理由がありませんが。」「分かった、九尾の、申し訳ないが代案を出して貰えないか。」

「では、先ほどの筏製作冶具は、九尾の狐の店の所有とし、各店にはお貸しすることとします。お貸しする代金は交渉としましょう。お貸しするものですから、九尾の狐の店が返却を要求すれば、即時に返却願います。これでどうでしょうか。」「分かった、九尾の、その条件で合意しよう。各店の皆さまから意見があれば、今伺いたいが。」沈黙、発言者はだれもいない。

「では麒麟どの、寄り合いを終了させようか。」「ではこれにて、終了とします、九尾の狐さま、筏製作冶具の製作の進捗は適宜ご連絡下さい。」

「さあ。はつ、帰るとしよう。」「はい、ご主人さま。」

「あのご主人さま。」「なんだ、はつも不満か。」「いいえ、全然別の話です。明日こそドワーフの鍛冶工場に筏製作冶具の製作を依頼に行きます。」「そうだったな、手間賃を弾んで良いから、冶具の製作方法は九尾の狐の店の秘中の秘にして欲しい。」「承知しました。」「それと明後日は、暇を頂きたいと思います。先ほどの寄り合いの場に四春藩で大変お世話になった両替商の澤田屋さまがいました。その澤田さまからご招待を受けたので、行ってまいります。」「分かった。まったく、アムは明日と明後日も木材運びか、アムは怒るかな。」「今日は最高の料理でもてなしてご機嫌を取ります」「はははっ。それなら大丈夫だろう。」

暫く、歩いていると、「はつ、分かるか」「はい、獣人が前に3人後ろに1人です。」「はつ、先に手を出してはいけないよ。」「はい、ご主人さま」

「九尾の狐とその奉公人に用があるんだが。」「なんの御用向きかな。」「いや、ちょっと痛い思いをして貰うだけだ。」「これは笑止、獣人ごときが九尾の狐を相手に出来ると思っているのか。」「普通なら無理ですがね、いまは術が掛った状態。ただの獣人ではありませんよ。」小声で「はつ、そこの商店に駆け込んで、町奉行を呼んで欲しいと依頼してくれ。」「はい、承知です。」

「しかしなぁ、ここは街の往来、無関係な者を巻き込むのは良くないと思うが。」「わかった、そこの空き地なら良いだろう。逃げるなよ。」「九尾の狐が獣人相手に逃げ出したなどとそんな評判は聞きたくないのでね。逃げやしないさ。」

空き地に着くと4人の獣人は、それぞれの得物を取り出した。「言っておくが、現在の俺たちは狐の妖術など聞かない状態だ、覚悟しな。」

「ご主人さま、いかがしましょう。」「なに、本人妖術が効かなくても地面に大穴を開けて埋めてしまえばお終いだよ。でもはつが切りたくてうずうずしているので、切ってこい。ただ命に関わるのはダメだぞ。」「はい、ご主人さま」私は素早く、肩に斜め掛けている刀を腰に収める。

「では、私が相手を致します。できれば、けがは痛いですので、獲物を仕舞って帰って頂きたいのですが。」「ヒューマンごときが何をほざく。」一人目が得物を打ち込んで来た。動作が緩慢すぎるが、すれ違いざまに居合抜きで切る。二人目も同様にすれ違いざまに切る。他の獣人には避けてすれ違ったように見えただろう。打ち込んだ2人は得物を落としてうずくまる。攻撃の意識を断ち切ってやった。私は、獣人のそばに落ちている私が切り飛ばした指の先を集める。全部で10本、どっちのかは分からなくなってしまった。テヘペロ。残った獣人が助けに向かった時に、ご主人さまは地面を陥没させ、首だけ出る状態で埋めてしまった。怪我をしている手も地上に出ている器用なご主人さまだ。

「なあ、この指なぁ、今ならくっ付けることが出来るし、元の様に動かせるぞ。さてこの襲撃の依頼主を聞かせて貰おうか。」「そんな脅してペラペラしゃべれるか。」「指はどんどん腐るぞ、今なら元に戻るんだけどなぁ。それにそろそろ町奉行が来るぞ、町奉行に捕縛されたら、雇い主はきっと見捨てるぞ。後で口を割っても雇い主は引き取りに来ないぞ。引き取り主が現れないなら、無法者扱い、街中で得物を振り回し、脅迫を行った罪で、遠島行きは確実。しかも指がなければ生活も不便。どうする。」「仕方が無い、負けてしまったのだから。覚悟は出来ている。」「そうか、その覚悟に免じて、指は腐らない様に保管して置こう。手の傷跡にも腐らない術を掛けておこう。遠島に行く前に、私の店に来い、指は元に戻してやろう。」「さあ、はつ、帰るぞ」

「はつ、凄い技だな、余りに早くて一人目は見落としてしまったぞ。」「有難うございます。子供頃からこの技の鍛錬をしていましたので、久しぶりだったのですが、まあうまく行きました。」

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