材木運搬の2日目、その他の細かい仕事は私の担当です。
「ねえ、はつ、荷物とはつが重いよぉ。」「オム、荷物は重いかも知れないけれど、私は重くありませんよ。」少なくとも、刀は防水対策が出来るまで、家にある、今は鉈と包丁と調味料と桶。重いはずが無い。
「はつ、今日は、どうするの。」「ご主人さまにオムのお部屋を大きくして欲しいと言われたので、早めに帰って縄張りをしないと思っている。」
「オムの部屋を大きくしてくれるの。」「そうだよ、でもお庭の範囲だから少しだけかな。」「それでも嬉しい。あとね、いろいろお部屋に欲しいのが有るの、はつに作って欲しいなぁ。」「まずは仕事を終わらしてからね。」「はーい。分かったよぉ」
材木集積所に到着し、管理人に20本の依頼をする。そして今後、天候が有れてなければ、毎日20本を運搬することを説明し、そしてあまり口外しない様に依頼する。
「はつさま、少し考えがあるのですが、」「はい、何でしょう。」「昨日も話しましたが、この上流にも材木集積している場所が有ります。品質は最上級です。ですが、街道筋までは厳しい峠越えになるので、運搬が問題で商売として成立していません。」「分かりました、この筏で大規模にこの集積所に運びたいと言う事ですね。」「その通りです。」「ちなみに仕入れの値段はいくらほどですか。」「現在の相場が、ここの8割安です。」「それで私たちには、いくらで売って頂けるのでしょうか。」「通常の2割安でどうでしょう。」
「話になりませんね。私たちが、この集積所を素通りして、直接上流の集積所に行けば、ここの8割安で購入可能で、運送も筏を組めば大量に輸送可能です。」「申し訳ございません、どうぞ今の話は忘れて下さい、これからも九尾の狐さまのお店との取引は継続させて下さい。この場所での縁が切れれば、私たちも即干上がります。」
「謝罪は受け入れましょう。強欲はダメですよ。」「申し訳ありません。そして有難うございます。」「とは言え、生活にも苦労している人々を見殺しには出来ません。」
「管理人さん、私たちが上流の集積所から、ここの7割安で仕入れて運送します。一旦ここに集積します。」「はい、集積所の拡張が必要かも知れませんが。」「そして、上流からの運送費用で1割は私たちの店の取り分、この集積所での一時預かり費用を1割がここの取り分。ここからの仕入れを1割引きにしてもらいます。」「それでは随分と余分がでますが。」
「残りの約半分は、3者の共同管理の貯金とします。ここ集積所の拡張費用に使うでも良し、上流の集積所の村の拡張費用に使うでも良し、基本的には九尾の狐の店で管理しますが、使い道は3者に平等です。」
「宜しいのでしょうか、上流の集積所の木こりたちは、現状より高い値段で材木を売ることができ、我々にも一時預かりだけで利益が出ます、九尾の狐さまのお店にも利益はでますが、圧倒的な有利な条件を持っていながらの提示ですが。」
「まあ、主人と話をして、条件が変わるかもしれませんが、たぶん大丈夫です。」「どうぞ宜しくお願いいたします。」「では、早速、上流の集積所に行きましょう。」「分かりましたが、結構遠いですよ。」
「オム、筏出来た。」「はつ、筏に縄を通すのは出来たけど、最後の縛るところはお願い。」「オム、すごく上手に出来てるね、しっかり縛ってあって、これなら簡単に壊れないよ。有難う。」「えへへへ。はつのためと自分が楽できるから頑張った。」
「さあ、管理人さん、これに乗って行きましょう。残念ながら服が濡れてしまうのですが、どうか勘弁してください。」「オム、もっと上流に行くから、引っ張って頂戴、上流には魚が一杯いるかも知れないよ。」
上流の集積所はオムの速度で1時間、帰りは流れに乗れるので30分程度だろうか、徒歩では相当時間が掛りそう。それとこれ以上の上流は流れが厳しくなる場所があるらしいので、材木の水上での運送の限界地点らしい。
下流側の集積所の管理人が、上流側の集積所の管理人と話を付けてもらう。上流側は分け前の増額を要求しているが、もともと筏が無ければ実現しない話、そして余剰の利益は3者の共同管理の貯金が決め手になって、承諾してもらった。
「はつです、皆さん、これから宜しくお願いします。近いうちに店主も呼ぼうと思います。」「九尾の狐さまですか。」「はい、そうです。」「大歓迎です。お早いお越しをお待ちしています。」
「では、ここで筏を3つ組ませてください。全部で15本ですね。支払いは約束の金額を即金でお支払いします。」「即金ですか、有難うございます。」「すいません、今日だけ特別です、暫くは季節の変わり目でお願いします。なるべく早く、即金で払えるように準備します。その時は割引をお願いしますね。」
「オム、筏3つ組んだら、4つの筏でお店に帰るよ。」「はーい。」
「管理人さん、上流の集積所の反応はどうでしたか。」「やっぱり売値を増やして欲しいようでした。」「まあ、そうだよね、でもね管理人さんにも理解して欲しいのだけど、この先、材木が筏で運送できることが他のお店でも始めるとどうなると思う。」「どうでしょう。分かりません」「大量の材木が街に運送されることになればどうなる」「なるほど、材木の値段が下がると言う事ですね。」「その通り。」
「はつさま、その後はどうなるのでしょうか。」「新しい材木の値段が決まるでしょうね。現状の半値以上は覚悟しないとね。」「それでは、生活出来ません。」「でもね、毎日40本を80本で売ればどうなる」「利益は同じですね。」
「管理人さん、これからの材木市場は大きな変化が起こる、その為に目先の利益を追わない商売をしないと、お店が潰れちゃうよ。」「はつさま、分かりました。上流とも良く話をします。」「うん、宜しくね。」
オムが無事20本の材木を運んだ、大川の木材集積所ではちょっとした騒ぎになった、九尾の狐さまのお店に喧嘩を売る奴はあまりいないと思うが、これからは用心が必要だ。
お店に帰り、オム部屋の改造の縄張りを始める。まあ、オムの部屋はただの池なので、少し掘削して広げればいいだろう。
「オム、これから部屋を広げる場所を決めるけど、何が希望なのかな」「あのね、はつ、あのね、枕が欲しいの。」「今の枕は石で堅いの、それにここが尖って、ぶつけると凄い痛いの。」「後は、何かありますか。」「あとね、はつ、あとね、暑い日は嫌いじゃ無いけど、暑すぎるのは嫌。」「オム、分かりました。私がいろいろ工夫してみましょう。」
「はつ、はつは居るかい。」「ご主人さま、はつはここです。」「忙しいのかい。」「いいえ、オムの部屋をどう改造しようか、思案していました。」「では、悪いが居間まで来てくれないか。」