材木の運搬をします。初仕事です。
翌朝、オムと一緒に木材の調達運送をするために運河に向かう。オムは基本的に陸上では進みがものすごく遅い。さっさと運河の水路に潜りたいらしい。運河についてザブンと潜れば、私の脚ではとても敵わない速度で進む。ご主人さまはまだまだ子供と言うが、それでも一柱である。らしい。
「はつ、はつ、私が運んであげるから、私に乗って」滑らない様に、オムの背中に乗ると首が器用に私を包む。これはこれで楽なのだが、さっきまで潜って遊んでいたので服が濡れてしまう。護衛用の刀同様なので、水対策を考える必要がある。
水を得たオムは快速で運河から川に入り、目的の材木集積所に向かう。街並みが田園風景に代わり、里山に代わるころに川幅を広げて材木が集まっている場所になった。
材木集積所の世話役の犬人は、ヒューマンを見てびっくりした顔をしている。「始めまして、はつと申します。これからしばらくはこのオムと一緒に材木を運ぶように、店の店主に言われています。宜しくお願いします。」「ヒューマンの方は始めて見ました。じろじろと眺めてしまい失礼しました。どうぞ宜しくお願いします。」
「ねえ、オム、これからどうするの。」「まずはご飯だよ。」この子は本当に自由だ。「はつの分も採って来るから待っていてね。」そう言って水中に消えて行った。時々コブラ頭を水面から出してキョロキョロしている。暫くして2匹のアユを咥えたオムが帰って来た。「これが初の分ね、足りるかな。」「有難うオム、私は1匹で十分だけど、2匹とも頂戴します。」
「じゃお腹も一杯になったし、材木を運ぶね、はつは最後の時に一緒に帰るから、暫くはここでのんびりしていて、あの小屋は材木運送屋の共同の小屋だから、自由に使って良いよ。」そう言って、材木を咥え始める。全部で5本。「ざゃ、ぎってぎます。」はい、あまりに非効率すぎる。
「ちょっとオム、オム、待って頂戴」オムは口に咥えた材木を放して、「どうしたの、はつ。」「オムはいつもこうやって運んでいるの」「そうだよ、2往復だがら1日に10本かな。」「オム、呼び止めてごめん、もう大丈夫だから。」「じゃ、行ってくるね。」
次にオムが来るには時間があるので、いかだを組むことにする。林に入り丈夫な蔓を探して鉈で切って、材木運送屋の共同の小屋に運ぶ。ついでにキノコや香菜など食材を少しだけ頂戴する。
材木の集積所の世話役の犬人を探して、材木運送の事情を聴く。「ねえ、主人、この集積所から1日何本の材木が出荷されているの。」「天気などによって違いますが、40本程度です、」「と言う事は、オムが1日で10本運んでいるお得意さまなんだね。」「はい、この場所は街道筋から離れていますので、陸上での運搬には向きません、ですので材木の値段が街道筋の集積所より、安くなっているので、残りの30本は峠道を超えて運送しています。」
「陸上と言う事は、徒歩で運んでいるの。」「ちょうど、運び始めた方がいますよ。あんな感じ運んでいます。」そこには大型の獣人が2人で両脇に1本ずつの合計2本を抱えて歩いていた。「あのまま、街まで運ぶんですか。」「そういう業者さまもいますが、街道筋の集積所に運んで差額で稼いでいる方もいます。」
「そういう事情だと、うちの店はかなり儲けがでますね。」「はい、私たちの集積所の材木は品質には自信が有りますが、不便な場所なので、材木1本の値段を下げて売るしか有りません。それでも九尾の狐さまのお店はすこし多めにお支払い頂いています。」
「材木の支払いはどうしているのですか、」「はい、季節が変わる時に、仙狐のアムさまが代金を払って下さいます。」「ねえ、主人、もし毎日の支払いだったら、材木の値段を下げてくれるかなぁ。」「それはもちろん、勉強させて頂きます。この辺りの木こりは収入が不安定なので、大歓迎です。」「わかった。ちょっと店の店主と相談しています。」
「それと、今日の2回目は10本運びたいんだけど、材木は用意できますか。」「もちろんです、でもどうやって運ぶのですか。」「ちょっと工夫をして見ます。」
材木を5本並べて(重かったよぉ)、林で見つけた蔓を叩いて柔らかくして筏に組む。同じ様にもう5本の材木も筏に組んで、連結する。最後にオムと筏を繋ぐ蔓を用意して完成。集積所の主人は目を丸くして、「ヒューマンは手先が器用と言われていますが、本当ですね、この状態でオムさんが引っ張って行くわけですね。」「そうです、水に浮かべれば重さは感じないでしょうから、一度に10本は問題無いと思います。」「素晴らしいですね、この方法なら川の上流の材木も運んで来れます。上流の材木は値段が格安なので、大きな利益がでます。」「まあ、今日の結果次第ですから、もし運送中にばらしてしまったら、私は即時に首ですので。」
運送の準備が出来たので、オムからもらった魚を調理する。共同小屋で内臓を取り出し、開いて背骨を取り除いて塩を振って、笹の葉で蒸し焼きにする。キノコや香菜を一緒にするので、魚臭さが無くなることを願う。
全ての準備が終わり、何となく往来を眺めていると、ある猫人に目が釘付けになる。四春藩の米奉行にそっくりだ。猫人のお供も連れているが、見覚えがある。慌てて集積所の主人を探す。
「主人、あそこにいる猫人は知っていますか。」「はい、ちょくちょくお見掛けします。この先の少し大きな町で買い物をされているようです。なんでも道は険しいけれど最短距離らしいです。」
「話をしたことはあるのですか、」「そうですね、ここで売るものはありませんが、水筒に水を補充したりする時に挨拶程度はします。」「ああ、それと材木の相場を良く聞かれます。」「なんでも山の向こうからくるので、材木の需要が少なく、買いたたかれて悔しい思いをしていると聞いた事があります。」「そうなんだ、山の向こうにも町があるんだね。」
ここにくる途中で筑波山を右に見ていたので、ここは鬼怒川の支流か那珂川の支流。しかしよく似ている。四春から近い町は福島だが、大きな街なら宇都宮か伊達。江戸の参勤で土地勘のある宇都宮が目的地か。でも本当に四春から来たのなら、宇都宮に公務が有る訳が無い。考えられるのは米奉行の立場を利用した横流しか。まったく度し難い。
この不思議な世界と今までいた世界とは何らかの繋がりがあるのかも知れない、ご主人さまに聞いて見よう。もしこの世界にも四春藩が存在しているなら、ぜひ接触してみたい。もし実在するなら、戻る方法があるかも知れない。
「はつ、ただいま。戻ったよ。さあ帰ろうか。」「お帰りオム。ごめんね、いろいろ準備していて、魚食べてないんだ。もう料理出来た頃だから、ちょっと待ってて。」「ねぇ、はつ、すんごいいい匂いがしてるんだけど。」「有難う。これが私のお昼ご飯だからね。」「でも、はつ。ちょっとだけ頂戴。お願いだから。」「じゃ、少しだけだからね。」
「頂きまーす。」もぐもぐが終ると「すんごい美味しいね、もうちょっとだけ頂戴。」「ダメ、私の分が無くなるし、オムはここに来るまで魚採って食べてたでしょ。」「そうだけど、はつの魚が良い。」「じゃ、あと少しだけだからね。」「わーい、はつ、大好き。」
オムに食べられない内に、自分もぐもぐする。もう塩味が少し足りないけど、まぁまぁ行ける。次ぎに来るときは調味料の調達をしようと考える。
「はつ、ご馳走さま、また作ってね。」「はいはい、また今度ね。」「でね、はつ、早く帰らないと遅くなるので、急いで出発しようよ。」「それなら、この蔓を引っ張って見てくれない、始めはゆっくりね。」オムが蔓を引くと後ろにつながっている筏が動き出す。「ねぇ、はつ、これを引くだけで、材木が一緒について来るの。」「そう、筏っていうんだよ。でもあまり強く引くと蔓が切れたりするから。ゆっくりでね。」
「はつ、凄いね。口に咥えると違って全然らくちん。」「気に入って貰えてよかった。」「これなら潜っても大丈夫だよね。」「浅くなら大丈夫だね。」
私は後部の筏にのって、筏の向きの調整をする。時々コブラ顔が水面から顔を出して、こっちを見て笑っている。私もオムの表情が分かる様になっている。川の流れとオムの引っ張りで結構なスピードがでる。オムにスピードを落として貰う様に言うのだが、この筏引きが楽しいらしく。言う事を聞かない。まったく1柱じゃ無いのか、本当に手のかかる子どものようだ。
時々、筏に魚が投げられる。オムがやっている。料理しろと言っているので、筏の舵を見ながら、下ごしらえだけは筏の上で行っておく。お陰で場所の把握が出来なくなった。筑波山は超えたので水路地帯のはずだが、さすがに土地勘が無くてこれ以上は無理。
「ねぇ、はつ。これで引っ張るの楽しいし、らくちん。ご主人さまとアムに明日からこの方法で良いか相談したいんだけど、あたしは地上は苦手だから、おねがい、はつがご主人さまとアムをここまで連れてきて欲しいなぁ。」「分かったから、ちょっと待っていてね。後、魚を食べたら、もうオムには上げないからね。数は数えているから、食べてもバレるよ。」「はーい。良い子で待ってます。」
オムに魚を食べられないために、急いで店に戻り、「ご主人さま、アム、お手数をお掛けしますが、材木置き場まで同行をお願いできませんでしょうか。」「はつ、どういう事なんだい、ちょっと要領を得ないんだけど。」「はい、ご主人さま、その通りなのですが、まずは見て頂くのが手っ取り早いかと。」
「それと、はつはなぜ桶を持っているんだい。」「道中でオムが魚を捕まえては、私に調理しろと渡して来るので、桶が必要になりました。」「それも意味が分からないねぇ。まあ現場を見てのお楽しみだねぇ。」
「はつ、これの細工をしたのかい。」「はい、私の元の世界では筏と呼んでいました。」「さすが、ヒューマンだねぇ、器用に作るものだ。」「ご主人さま、これ引くの楽しいの、明日からもこれで運んで良いよね。」「まあ、オムちょっと待ちなさい。」「はつの言う通りだねぇ、百聞は一見にしかず。しかも今日は15本を運送したことになる。まぁ。戻ってから考えよう。」
「どうしましたか、ご主人さま。」「アムか、あれをどう思う。」「効率的に材木の運搬が可能になりますし、オムの負担も少なるかと思います。」「そうなんだよ、はつの作った筏は文句を付けようがない。何よりもオムのためになるのが素晴らしい。ただねぇ。ちょっと困ったことになるかもだねぇ。」
「ご主人さま、アム、オムにせがまれて、作った蒸し魚料理です。お口に合うか保証しませんが、おひとつどうでしょう。」「有難う、はつ。手料理を頂くよ、そして食事が済んだら、ちょっと話があるんだが。」「はい、ご主人さま、承知しているつもりです。」
「はつ、魚料理、美味しかったぞ。もっといろいろ作れるのだろう。」「はい、塩だけではなく、香菜など味を変えられるものがあれば、もっといろいろ作れます。」「そうか、これは楽しみが出来た。今度、街の市場でも散策してしてくると言い。」
「筏はとてもいいアイデアだ。どうしてあれを作ろうと。」「オムが1回目の材木運搬の辛そうにしているオムの姿を見て、これは効率化しないと思いました。」「そうなんだ、コブラ頭を水面に上げて材木を運ぶのは厳しい作業だからな。そういう意味では感謝している。」
「はい、筏は、効率的でかつ大量の材木を運ぶことができます。ドワーフ辺りが道具を作成すれば、ヒューマンでなくても筏を運用出来ましょう。」「はつ、続けて。」「となると、街に大量の材木が供給されますので、材木の価格が大きく下がります。ご主人さまの店は筏を運用できますので、価格が下がった分の材木を供給できますので、商売に影響はあまりありません。」「はつは、本当に賢い。それから。」「問題は陸上を使って材木を運搬して生計を立てている人々です。今日の材木集積所で、大型の獣人が2人で2本の材木を運んでいました、あれでは彼らは筏との価格競争に勝てません。生計の基盤を失ってしまいます。」
「はつの言う状態は、九尾の狐として許容できない。」「ご主人さまのおっしゃる通りですが。材木の大量供給は、この町に必要です。」
「まず1つ目。ご主人さまのお屋敷は材木問屋ですので木造ですが、街の中に木造の家は少ないです。これでは野分が来るたびに、家をばらして、野分が去った後に立て直すことになります。全てとは言いませんが、この街に木造の家を増やすべきです。」
「次に2つ目。材木と言ってもただの丸太の棒です、四角に切りそろえて始めて建築部材として使えます。この作業は力作業です。陸の材木運びの獣人の新しい働き口の受け皿となるでしょう。」
「次に3つ目。現在の大川沿いの材木置き場は危険です。大雨などで流されてしまいます。今日オムと運河を通って大川に入りましたが、材木の一時置き場にちょうどいい場所がありました。現在では塩気が多くて作物が育たないので放置されていますが、この屋敷4つ分程度の場所を用意して、大量の材木の保管場所としてはどうでしょうか。」
「最後に4つ目。これからの物流の中心は川と運河と海になるでしょう。今のうちに港のして使える場所の権利の購入をお勧めします。そして現金決済です、私が居れば、購入時に支払いができます。木こりたちの生活も安定しますし、値引きの交渉が可能です。」
「はつ、はつ、そんなにいっぺんに言われても理解が追いつかない。だが、主旨は理解した。少しずつ進めて行こう。では、差し当たって必要な物は。」「はい、頑丈なロープと、荷物が積める小型の船が欲しいです。」
「ロープは分かるが、小型の船とは。」「筏では服が濡れてしまうので小舟が欲しいです。また将来の話ですが、現在の材木の集積所は規模を拡大し、簡単な町になるでしょう、ただ街道筋からは不便なので、この街の物資を船に積んで材木の集積所で売り払います。」「ははぁ、はつは強欲だなぁ。でも誰かがいつかはやるなら、先陣を切って信頼関係を強化するか。」「はい、ご主人さま。」
「ロープの件はアムが妖術で何とかしてくれるだろう。それから1日に運ぶ材木量は当面20本まで。まだ余り悪目立ちしたくない。」「ご主人さま、承知致しました。」
「それと、ご主人さま、ちょっとお伺いしたい点がありまして。」「まったく別の話か。」「はい、そうです。」
「話して見るがいい。」「有難うございます。私は前世では、四春藩筆頭家老の水無瀬源之丞でした。」「うむ、承知している。」「本日、材木集積所で筏を作成していたのですが、前世、四春藩の米奉行とそっくりの猫人の2人組を見かけました。見間違えはありません。ご主人さまは何かご存じでは無いのですか。」
「再度聞くが、姿はヒューマンでは無く、猫人ではあるが、はつの住んでいた前世に住んでいたヒューマンと同じ姿だったと。」「はい、確信しています。」
「私も、良く分からないのだが、まずは聞いて欲しい。そしてゆっくり答えを探そう。それまでは、今から話す内容は忘れろとは言わないが、自重した行動をとって欲しい。」「はい、ご主人さま」
「私が知っている範囲での話だが、ヒューマンは4年に一度程度の割合で、この世界に出現する。」「そんなにですか。」「ただ、ほとんどのヒューマンが、言葉を忘れている、名前を忘れているなどの状態なんだ。」「それではこの世界で生活は困難でしょう。」「その通り、私の知っている現在もこの世界に居るヒューマンは2人だけだ。しかも遠い街に居る。私がはつを見て驚いたのは、記憶を完全に残したままで、ヒューマン独自の技術も覚えて使えることだ。」「稀な存在なんですね。」「おそらく、アムがはつを蘇生させるとき、完璧な記憶操作を行ったからだと思うし、私も少し手伝った。」
「ではご主人さま、この町から突然行方不明になる方はいるのでしょうか。」「はつの期待している、目の前で誰かが消滅するケースは、聞いたことが無い。」「そうですか。」「このような町だから、喧嘩、刃傷で行方不明者は多い、もしかしたら紛れているかも知れないとは思うが。」
「はつ、この町と水無瀬源之丞として生きていた街は、かなり街並みが近いんだったな。」「はい、そのままと言って良いです。」「はつが、かつて住んでいた四春藩上屋敷の場所も分かっているのか。」「はい、ここから徒歩で行ける距離です。」「はつ、気持ちは分かるが、絶対に行ってはいけない。まずはこの世界に慣れてから。」「分かりました、ご主人さま。約束致します。」「よしよし、だが、いつか行ってみなければ行けない、私とアムを連れていけ。それまでは、くれぐれも自重するように。」
「アムはいるかな。」「はい、アムはここにいます、ご主人さま。」「はつのために、2つの作業をお願いしたい、まずは丈夫な縄だ。筏を組むときに必要となる、切れにくく、やわらかいもので頼む。次は、小舟だ、はつが図面を書くと言っているので、協力して欲しい。」
「ねぇ、はつ。船は簡単にできると思うのだけど。」「アム、そうなんだけど、普通に作ると、オムが調子に乗って、大川でひっくり返すと思うの。」「うん、すごく想像できる。」「でしょ、だから高速で転覆しない構造で作りたいの。」
「でも私の出番はあるの。」「もちろん、仙狐にしか出来ない技が必要、その小舟の材料の材木を曲げたりする必要があるの、材木に熱を加えて曲げるんだけど、アムがいてくれたら、短時間で丁寧な小舟ができそう。」「うふふ。はつ、仙狐の力を十分に発揮してあげる、だから、美味しい魚の料理をたくさん作ってね。」この仙狐もチョロい。
「あと、はつにお願いなのだが、良いかな」「はい、ご主人さま。」「実はオムの寝床が狭くなったようなので、広げてくれないだろうか。」「オムの寝床ですか。」「中庭に池があるだろ、そこがオムの寝床だ。」「失礼ですが、水はどこから引いているのですか。」「すぐそばに湧水が湧く場所を作って、そこから家の利用も込みで利用している。」「わかりました。急ぎ仕事でしょうか。」「どうも、オムの脱皮が近いので10日程度で拡張したい。」「承知しました。準備してみます。」