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江戸の敵を異世界で討つ  作者: 依田益太
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源之丞、異世界に転送されて、仲間を得る

水無瀬源之丞は、自分自身が薄くなっていることを理解しながらも、超常現象であるため口を開くことも、体を動かすことも出来なかった。ただ人知を超えた事象が自分自身に起こっていることだけは理解しながらも、ついに殿さまの声が聞こえなくなり、現世で姿が消えた状態の時に、かろうじて保っていた意識失っていった。

かつて水無瀬源之丞と呼ばれた個体は、大きな川の船着き場そばに乾いた草の上に寝かされていた。意識は戻っていないが、特に体に怪我などなく生きている。

ただ、その寝かされたそばに、楽しそうな顔をした5つのコブラの頭を持った蛇のナーガが寄り添っていた。寄り添うと言っても、5つのコブラ頭の鎌首を持ち上げた状態である、キングギ〇ドラは3つの頭だが、このナーガは5つの頭である。しかも器用にコブラ頭の両端の2つの頭を顔の正面で碇げん〇うの得意ポーズの様に組んで少女の頭を大事に乗せている。残りの2つの頭はせわしくキョロキョロして周囲の見張りをしている。

もっとも船着き場は忙しく、草の上に寝かされている少女に興味を示すものは居ないし、5つコブラ頭のナーガも下半身部分はほとんどが水面下なので気が付きにくいので、誰も気にせず通り過ぎて行く。

もっとも、目が大きく良く見ると可愛いコブラ顔なのだが、コブラであるのは事実なので、存在が分かったとしても知り合い以外に声を掛ける物はいない。

すでに夕暮れ時で、たくさんの亜人が急ぎ足で帰宅に急いでいる。ナーガは体の半分を川の中に沈め、上半身だけで目を覚まさない少女を見守っていた。正確に言えば、大川で遊んでいたナーガが水中に現れた少女を助けて地上の草の上に寝かせて、その少女の美しさに見惚れて2時間経過している状態である。

さすがに太陽も沈み黄昏時になると、ナーガも商店に戻らないと怒られると思い、まだ眠っている少女を5つの頭で器用に抱えて、往来の多い道を進み始める。

しかし脚の部分は蛇である、ニョロニョロとくねらせて進むので、ちっとも進まないが、それでも眠っている少女を気にして丁寧に進んでいく。たっぷりと時間を掛けて蛇足で住まいに到着する。

「オム、帰るのが遅いんじゃないの」と番頭格の黄金の狐から声を掛けられる。ナーガは「アム、お願い静かにして、ヒューマンを大川の中から助けたんだけど、目を覚ましてくれなくて。」

「ひゃい!、ヒューマンを大川から引き揚げたっていうの。ちょっと待ってよ、ヒューマンなんて手先が器用なだけのダメダメの種族でしょ。そんなの拾って来たら、後々面倒になるんだけど。」

「お願い、アム。この子の意識を戻してあげて、仙狐なら簡単でしょ。お願い随分と見守って来たんけど、私の能力では何も出来なくて。この店まで連れて来るので精一杯なの。」

この面倒な客のヒューマンを連れてきて、文句タラタラなのが狐人の上位種になる仙狐。大抵の妖術を使いこなせるが、まだ経験不足で妖術威力が弱いところがあるが、ヒューマンの目を覚ますくらい簡単なはず。

ただ現在は店の主人が留守でいない。そんな時に面倒ごとを持ち込むと怒られると思い躊躇している。

「戻ったよ。何か店の中の様子がおかしいんだけど。うゎっ、ヒューマンじゃ無いか、あたしもずいぶん久しぶりだよ。さあアム、オム、説明して欲しいんだけど。」

「ご主人さま、オムが大川の中から拾ってきたんですが、目を覚まさないし、ヒューマンなのでご主人さまをお待ちしていました。」「ご主人さま、お願いします。この子を起こしてください。私が大川で見つけてだいぶ時間が経つのに、全然起きる気配が無いんです。」

ご主人さまは、9本の尻尾を光らせて、ヒューマンの額に手をかざす。「アム、あんたが起こしてやんな、ただ寝てる訳じゃないよ。記憶が足りてないから起きられないだけ、大川の中に出現する前のヒューマン記憶を呼んで入れて上げれば、直ぐに起きるよ。」

「ご主人さま、分かりました。やって見ますが、こんな事態は始めて聞く話なのですが。」

「そうだね、あたしもこんな事態は聞いた事が無いね、原因は良く分からないが、対処方法はあたしの見立てで良いはずだよ。まあ困った状態になったら、あたしが手伝うから安心しな。もっともその後は、ダメ仙狐アムって呼ぶことにするけどね。」

「ご主人さま、始めます。」アムの全身金色の毛がさらに輝きを増す。おそるおそるだが、ヒューマンの額に手を重ねる。確かに記憶の場所が空っぽになっている。

でもどこに記憶があるのか分からない。「アム、ヒューマンの全身に記憶のかけらがあるから集めて。」アムは丁寧にヒューマンの記憶のかけらを探す。まじかに良く見るとかなりの美少女だと思う。「アム、集中切れかけてるよ。」改めてかけらを探して、記憶の場所に仕舞っていく。「アム、あと1つかけらを仕舞えば終わりだよ。」「はい、分かりました。」

最後のかけらに触れた、感情の塊しかも喜び、楽しみ、では無い負の感情。でも妬み、恨み、屈辱、諦め、無力感とも違う。「アム、それをしっかり捕まえて、絶対に離すんじゃないよ。」でもこの感情は危険だと頭の中でアラートが鳴っている。

ご主人さまが慌てて両肩を掴んでくれた。九尾の狐の力が支えてくれる。今なら出来るはず、丁寧に感情の塊を記憶の場所に仕舞うことができた。

「ご主人さま、有難うございました。」「アム、良く頑張ったね、でも最後のあれは危険だった。取りこぼせば、感情が無いままに起こされることになったと思う。」

「きっとこのヒューマンがここに出現した理由だね。自我が崩壊した後の残りカスの感情だと思うな。まったくオムは凄い拾い物をしたってことだね。」

「オム、この子を布団に寝かしてやりな、暫くすれば自分で起きて来るよ。起きたら私たちを呼んで頂戴。」「はい、ご主人さま、お任せ下さい。」

「あとアム、このヒューマンの食事も用意してあげて。」「ご主人さま、それは無茶ぶりすぎます。ヒューマンの食するものなど分かりません。」「そうだな、白米のおかゆに香菜を少し入れてみて。」「はい、ご主人さま。頑張ってみます。」

1時間くらい経過して、オムがそろそろ飽きてヒューマンにチョッカイを出そうとした頃に、ヒューマンは目を覚ました。それを確認しようと5つのコブラ顔がのぞき込んで、ヒューマンが大絶叫を上げて、全員に起きたことを知らせてくれた。

ヒューマンの起き上がった布団を囲んで、九尾の狐、仙狐、ナーガが取り囲む。

「ねえ、言葉は分かるかい。」「はい、分かります。」「それは良かった。これで事情が聴ける。」

「すいませんが、私もこの状況が理解出来ていないのですが。」「後でしっかり説明してあげるから。」

「せっかちなヒューマンだね、まずこの中で見知ったり、聞き知ったりしているものは居るかな。」「恐れながら申し上げると、九尾の狐さまとお見受け致します。」

「他の2人は、分かるかな。」「申し訳ないが、存じ上げない方です。」「では、仙狐、ナーガと行う種族については知って居るかな。」

「仙狐さまは、成長すれば九尾の狐さまになる存在と理解していますが、ナーガと言うのは始めて聞きます。」

「では、少女よ、今までどこに住んでいたのか、教えてくれるかな。」「はい、江戸の四春藩上屋敷です。あと少女では有りません、私は四春藩の筆頭家老水無瀬源之丞です。」

「どう見ても少女なのだが、アム鏡の妖術を使ってくれ。」「はい、ご主人さま」アムの前に大きな鏡が出現し、布団から半分体を起こしている少女を映し出す。

「この姿が私なのか、どう見ても私の娘の姿なのだか。」「へぇー、自分の娘を拠り所にしたんだね。まあ、自分で体を触って、見て確認してみなよ、アムの妖術が納得できないなら、庭の池で姿を見れば良い。」

「確かに、私は自分の娘である「はつ」の体の中にいる様です。」「じゃぁ、お前は「はつ」と呼ぶことにするよ。」「わーい、はつ、これから一杯遊ぼうね。」オムと呼ばれている5つのコブラ顔のナーガが器用に5本の首を使って抱きしめて来る。

「さて、これから、はつの疑問に答えて行こう。」「まず、ヒューマンの突然の出現例はいくつかあるが、記憶を鮮明に持っている事例は聞いた事が無い。」

「はつ、質問をさせて貰うが、この布団に寝かされている、直前の記憶を説明できるかい。」「もちろんです、江戸の四春藩上屋敷でお家取り潰しの沙汰を受けていました。」

「それは辛いことだね、何かはつが失態を起こしたのかね。」「いいえ、国元の四春藩で生活していた家族の元に賊が押し入り、惨殺されたことの責任です。」

「私が言う事でも無いが、はつが何も出来ない状況で責任を取れとは、随分と乱暴な話だね。」「その点は納得できていませんが、筆頭家老として四春藩の財政再建を強硬に実施しました。その逆恨みが真因と考えています。」

「なるほどね、アム、最後の負の感情の原因がこれなんだよ。理不尽に蹂躙されて抵抗ができないか。」「はい、ご主人さま、今のお話で複雑に絡み合った感情の理由が分かりました。」

「はつ、話を横道にそらしてすまない。その理不尽な命令に怒ることも無く、嘆くことも無く、ただ受け入れるしかない状況だが、納得は出来ない。」「はい、そんな感情でした。」「その感情の力が自分自身をこの世界に飛ばしてしまったんだろうね。」

「戻ることは出来るのでしょうか。」「はつは、せっかちだね。まあ簡単じゃないよ。ヒューマンが消えたなんて話は聞いた事が無いからね。」

「ダメですか。残念です。」「諦めちゃいけないよ、はつの出現は特別中の特別だからね、ゆっくりと戻る方法を探って行こう。それまではここに住み込みで働いてもらおうかね。」

「雨露がしのげ、食事まで頂けるのですか。ご主人さま、有難うございます。どうぞ仕事を与えてください。一生懸命に奉公させて頂きます。」「では、オムの仕事を手伝って貰おうかな。」「オム、良いな。」「わーい、はつと一緒に仕事楽しみ。」「今日と明日はゆっくり休んで、明後日からオムの仕事を手伝ってくれ。」「はい、ご主人さま、承知しました。」

異世界に転送された日は、用意された布団でぐっすり寝てしまい、昼前にやっと起きだした。早速お世話係と名乗る猫耳娘に朝食件昼食を頂く。下ごしらえが甘いのか、あまり美味しく無いがしっかり頂く。

「はつさまを店の中を案内するように言われていますので、一緒に来てください。」「はい、そもそもこの店は何の商売をしているのですか。」「運送業と材木業です、山から木材を調達し、店まで運び売っています。山へ木材調達をするので、簡単なものなら一緒に運送もします。」

「まず、この倉庫を見てください。」「はい、どうすれば良いのですか。」「実は、利用方法が良く分からないものがたくさんありまして、はつさまに鑑定と言うか、使い方を教えてもらいたいです。」そこはヒューマンの使う道具があふれていた。材木業なので、カンナやのこぎりやのみなどが整理された状態である。ご丁寧に砥石まで並んでいる。

「これはヒューマンが使う、木材を加工する道具ですね、かなり充実していますし、良い品物が多いと思います。」「では、これはどのように使うのでしょうか。」差し出されたのは裁縫用の大きなはさみ。「これは布を切るのに使います。そうですね、私の服に糸のほつれがあるので、これで切って見ましょう。」はさみを開き、ほつれた糸の根元を「ジョッキン」と切る。

「本当は大きな布を2つに分けるとかに使います。」猫耳娘は、はさみが開く状態と切断音に驚きながらも感心していた。

「便利な道具なのですね、でも私たちでは使いこなせませんね。」と肉球ぷよぷよの手を差し出す。

「でもヒューマンが珍しいなら、皆さんのお召し物はどうやって調達しているのですか。」「この町は妖術の使い手が多くいますので、その方が加工品を作ってくれます。」

「さあ、次の倉庫に行きましょう。はつさま用の良い品が見つかれば良いのですが。」連れてこられたのは武器倉庫だった。大型の得物が多く、私の力では持てそうもない。それでも倉庫の隅っこに小型の鉈と日本刀と包丁を見つけた。全部錆び錆びだったが、砥石で研げば使えそうなので頂くことにした。

午後はひたすら砥ぎに勤しむ。料理をなんとかしたいので、包丁と鉈から砥いで日本刀は最後になったが、砥いでみたら反りが大きめで、刀文は小乱れで私好み、全長がちょっと長いが十分に使える。早速居合の練習をしてひと汗をかく。

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