表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~  作者: 無乃海
第四幕 『乙女ゲームの始まる直前』編
97/117

番外 遠い過去に思いを馳せて

 今回は番外編です。前半部と後半部では、視点が異なりますのでご注意を。

 過去の私には、年の離れた兄と姉がいた。年が離れ過ぎた兄は、私を真面に相手にしなかった。頻繁に揶揄ってくる兄を、大嫌いになりかけたこともあったのに、兄としては年の離れた私を、可愛がっているつもりだったんだ。これが、兄流の愛情表現だと言われても、まったくもう…紛らわしいったら。揶揄われる私の身に、なってほしいよね…。


兄に比べれば姉は年も近い方で、それでも3歳上の姉とは、中学から別々の学校で寂しかったなあ。姉とは比較的に、仲も良かったしね。兄は姉にも私同様、ちょっかいをかけていたけど、その度に姉に反撃を食らわされていた。…アハハハ。兄のあの愛情表現は、ウザ過ぎだもん。当然だよね、お姉ちゃん?


だけど…兄と姉の本来の関係は、姉も本気で怒っていなければ、姉に反撃された兄も全く怒っていなかった。仲良く(じゃ)れ合うような感じだ。私は年が離れた所為で、つい本気にしていただけで…。


 「お兄、いい加減にしなよっ!」


普段は滅多に口出しせず、傍観している姉だけど、泣きそうな顔で本気で怒る私を見ると、姉は何時もフォローしてくれる。共働きの両親が忙しい分、私の代わりに兄を叱ったりと、面倒見の良い姉である。


 「アンタも一々、()()()()()()の!…お兄のアレは悪ノリの冗談だし、気にするだけ損だよ。本気で我慢出来なくても、お兄を無視すればいいんだから。無視された方が、お兄には効果があるんだし、特に末っ子のアンタに無視されると、一番(こた)えるみたい。…そうなんでしょ、お兄?」

 「………うっ……」

 「…うわあ。お兄、真っ赤!」


姉の放った言葉が的確に、兄の虚を突いたらしい。言い出しっぺの姉はケラケラ爆笑するも、明らかにアワアワする兄の姿に、当時の私はついていけず、目を丸くした。これが、兄の本心?…兄に嫌われていると悩んだのは、何だったの?


それでもこれが切っ掛けとなり、仲直りできたんだと思う。今思い出しても笑えるぐらい、当時の兄の言動は挙動不審であった。月日が経てば経つほど、再び兄との接点も激減していくが、仲が悪くなったわけではない。高校生になった兄が、平日は部活や勉強に忙しく、休日も友人を優先しただけで。


兄は大学受験を迎えると、家中をピリピリ張り詰めさせつつも、両親の過度な期待に応えるべく、猛勉強していた。地元から遠い国公立大学に合格し、兄は一人暮らしをすることになるが…。


 「今生の別れじゃないし、家族なんだからまた会えるさ。」

 「私はアンタが邪険にしても、此処に居るよ。」


悲しみと寂しさから、大泣きした私。困り顔の兄が寂し気に笑う姿と、ウインクして告げた姉の一言に、ちょっぴり溜飲が下がったかな。だけど…兄が出て行って、姉の帰宅が遅くなる時は、家の中が普段より広く感じる。


高校生になった姉は、部活や受験勉強で帰りも遅く、私が1人で過ごす時間も長くなる。中学生になった私も、塾や部活で時間を潰し、友達と過ごす時間が増えたけど。姉が大学受験を迎えれば、私も高校受験が待っている。そして、私が高校に通う頃には、姉は大学生になっているだろう。


姉の受験する大学は、家から通える距離にある。一人暮らしをすると、家から出て行くのでは?…そうした漠然とした不安が、頭の中を過った。何時まで経っても、私は()()()()()()()……


…お姉ちゃんまで出て行ったら、私…寂しくて死んじゃいそう…。まだもう少しわたしの傍に居てよ、お姉ちゃん。あともうちょっとだけでいいから、私の我が儘に付き合ってよ。…約束してよ、お姉ちゃん!


必死に唱えていた私は、ふと疑問に感じて目を開ける。この後はどうなったんだっけと、ぼんやりとした頭で考えた。姉が家を出て行ったのか、それとも留まったのか分からず、身体を起こさぬまま思考の渦に、流されていたようだ。誰かが私に、声をかけるまでは。


 「お目覚めですか、お嬢様?」


ハッとして視線を彷徨わせれば、全く知らないようで良く見知った顔を、目の端に捉えた。その人物の声が私を、現実に引き戻してくれる。原因不明の発熱の病に倒れ、私という記憶に溺れていたわたくしを、わたくしの専属メイドである彼女は、ずっと傍で看病してくれていたようだ。


 「…心配しないでちょうだいね。夢見が悪かっただけ、でしてよ。」

 「…お嬢様は丸2日間、気を失われておられました。目を覚まされて、ようございました……」


わたくしが目覚めたという知らせを受け、わたくしの両親と年の離れた姉、2つ下の妹が飛んで来る。わたくしはこの世界でも思いの外、大切にされているようだ。過去の記憶とごっちゃになった所為で、過去と現在が()()()()()()()を。


過去の私の兄と姉も私みたいに、別の世界か何処かに転生し、平穏に暮らしているのだろうか。過去がどうなったか、これ以上は全く思い出せそうにない。せめて幸せな記憶として、心に留めよう。そうして私も、前を向いて生きて行く……


…今のわたくしは、由緒正しい貴族令嬢ですのよ。この世界でも、悔いのないように生きて行きますわっ!…懐かしい思い出と、一緒に。






    ****************************






 「お兄ちゃん!…勉強、教えてくれる?」


俺には、4歳下の妹がいる。異性の兄妹で4つも年が離れた所為か、一度も喧嘩をすることもなく、仲の良い兄妹として育った俺達。妹から甘えられたり頼られたりすれば、俺も兄として嬉しかったし、妹が可愛くて仕方がなかった。


幼少期、俺に弟がいたならば、一緒にキャッチボールをしたり、サッカーなど部活で一緒に活躍したり、色々と一緒にできることもあるだろうと、弟がほしいと思ったこともある。例え弟が生まれていたとしても、自分と一緒にできたかどうかは、分からないけれども。


最近、妹で良かったと思える、自分がいた。うちのオヤジほどじゃないが、妹が苦労するような不真面目な男には、絶対に嫁にやりたくない。そう願うほどに妹を可愛いと思う、自分が。


現在、妹はまだ中学生なので、結婚はまだまだ先のことだろう。妹の話の中で誰か異性が話題に上る度、聞き耳を立てている俺。偶に問い詰めるような口調で、聞き出そうとしたこともある。妹にとって俺は、()()()()()()()兄なんだか……


だけど、妹は俺に文句を言わず、ただ苦笑するだけだった。俺の妹は案外とのほほんとしているから、俺が心配性過ぎるぐらいにしか、思わないのだろう。自慢じゃないけど、俺もそれなりにモテる方だ。だが妹は、俺以上にモテているようだし、心配しすぎても丁度いいだろう。


高校生になってから俺は、実際に何人かの女子と付き合った。何故か俺と付き合う女子は、俺の実の妹のことも敵視した。単なるヤキモチを焼くなら未だしも、妹を虐めたんだ。流石に俺の気持ちは、完全に冷めてしまった。


女子から交際を申し込まれても、結果的に俺から振っている。相手から告白された俺は、特に断る理由もないと付き合ったのに。だけどそれが、間違いだったのだろう。最近は告白されても、その場で断ることにした。できれば、妹と仲良くしてくれる女子と、付き合いたい。そういう女子は、現実には居ないのか?


今のところ、俺の心の琴線に触れる女子は、現れていなかった。俺を見た目で選ぶ女子と、俺の妹の何方が大切かと言えば、妹の方が大切だとはっきり言い切れる。誠実に応えたようで、女子の本()()姿()()()()()俺にも、責任があるのだろう。


俺の妹は中学に入学した途端、乙女ゲームに嵌った。中学でできた新しい友達の影響から、ゲームキャラに夢中になっている。俺の前でさえ堂々と、乙女ゲームをするぐらいには。


我が家の子供部屋には、テレビやパソコンが置いてない。家族共有の居間が、唯一のゲーム場所だ。妹が居間でゲームをすれば、俺も自然とゲームを見る羽目になって、俺もすっかり乙女ゲームに詳しくなる。何度も耳にタコができるほど、解説を聞かされていた俺。気分はすっかり、乙女ゲー専属ゲーマーだな。


 「…私、このキャラが好き。誰にでも分け隔てなく優しいし、いつも笑顔がさわやかで。だけど彼は、攻略できないサポートキャラなのよ。残念すぎる…」

 「サポートキャラ?…こういうキャラが、お前のタイプなのか?…優柔不断すぎないか?…う~ん、合格範囲ではあるけどな…」

 「…もう、お兄ちゃんたら…。彼は単なる、ゲームキャラよ。現実で好きになる人とは、別だし…。彼みたいな優しい人が理想でも、現実とは別の話だよ。何方かと言えばこっちのキャラの方が、お兄ちゃんと同じ愛称でもあるし、私はこういう人と付き合いたいかな…」

 「……そうなのか?」

 「うん!…私のお兄ちゃんがカッコ良すぎて、現実の男子には興味が持てないぐらいだよ。」


妹の好きな異性は、誰にでも優しい男か。ちょっと頼りない気もするが、こういうのが無難だろう。妹の言う通り、現実とゲームでは別だろう。その上で、まるで俺が理想の男性とでも言いたげな口調で、溺愛する妹から言われると、恥ずかしくも嬉しくてつい頬が緩む。


俺がタイプだと断言されたのでも、好きだと明言されたわけでもない。俺と同じ愛称のキャラが理想だと、言われただけだ。自分が好意を持つ異性から告白された、それぐらいと同様に…否、それ以上に俺は喜んだ。更に妹は褒め殺すかのように、俺を持ち上げてくる。


妹に褒められて喜ぶ俺は勿論だが、兄を褒め殺す妹もまた、(まご)うこと無きシスコンと言えるだろう。シスコンという言葉を神聖化させつつ、妹が生まれてきたことを神に感謝して。


…俺の妹は今、何処に居るのか…。もしかしたら今も、乙女ゲームに夢中なのかもしれないな。俺が居なくて、寂しがっていないかな?…今も案外俺の近くに、居たりして……


そして今、すっかり夢から覚めた俺は、妹のことを想う。取り留めもなく思い出に浸りつつ、()()()()()()()この異世界で、俺は今日も生きている。

 次の段階に移る前に、此処で番外編を入れました。敢えて誰の話とは、表に出していません。前半と後半では、全く接点のない別々の話となりました。同じ兄妹の話ではありませんので、悪しからず……


後半の兄妹はシスコン過ぎて、顔が引き攣るかもしれませんが、飽くまでも実の兄妹として、シスコンの範囲内の扱いです。互いに好きな人ができたら、流石にもうちょっとシスコンぶりも収まるはず…??


この時点では接点はなくとも、現世界では接点あるかも……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ