番外 乙女ゲー制作の事情②
番外編の為、他の人物の視点となります。
前回の続きで、視点の主も同じです。
「……わたくし達の前世には、花南音もおられましたのね?」
「…ああ、そうだよ。多分此処には、他にも…何人かは、そういう知り合いが居るだろう。」
「俺は今のところ、君達にしか会ったことがないんだが…。」
「僕は…少なくとも、花南音の他には…1人、心当たりがあるよ…。」
「まあ。何方なのですか?…わたくしも、ご存じのお人ですの?」
花南音に高白様をご紹介していただいてから、数日経ちました。花南音が戻られる前に話を打ち切り、後日お話をする機会を設けましたのよ。今日は前世の事情を勘ぐれない為に、個室が使用できるカフェでお茶をして、お話を伺っておりました。カフェではわたくしは1人で座り、前の席に彼ら2人が並んで座られ、早速先日の続きを伺います。
八代様に親友のことをご確認を致しましたら、他にも何人か転生者がいらっしゃるようですね。高白様はまだ何方にも、お会いされておられないそうでして。八代様の心当たりのあるお人の、今世のお名前と前世のお名前を伺って…。
…ええっ?!…あのお人が?!…前世では、あのお人がそうでしたの?!
わたくしは口を半開きの状態で、唖然としておりました。淑女には相応しく表情でしょうが、今だけはご勘弁を。そのぐらいに、衝撃的でしたのよ。但し、知った時期が今だからこそ、納得できる部分もございますけれども…。
「…何故、お分かりになられましたの?…外見も身分も、以前とは全く違いますのに…。」
「…前世で、本人が話してくれた。」
「………はい…?」
「…先日思い出したばかりだよ。前世の時、カノも来世の僕が関わっていると教えてくれたが、覚えていない部分も多くてね。」
まさか、ご本人がお話されていたとは、驚きましたわ…。あのお人もカノも、わたくし達とは交わらない転生者なのですね。寂しいですわ…。
「肝心の部分が、ハッキリ思い出せない…。乙女ゲームの設定は、ある程度思い出せるが、前世がどうだったのかは、詳しく思い出せなくて。」
「…そうだな。俺も、前世の婚約者や知人に関して、殆ど思い出せない。顔も名前も…肝心な部分は、全くという程覚えていないな…。」
「…わたくしもですわ。わたくしもカノンのことは、乙女ゲームで思い出しましたのよ。……あらっ?…もしかして、あの2人も…そうかしら?」
乙女ゲームの設定集を改めて確認しておりますと、気になる人物を見つけてしまいましたわ。これは、あの2人のこと?…それが正解ならば、あの2人もわたくしの前世に、関与されておられますのね…。何となく、侘しい想いです…。わたくしだけが、仲間外れの気分でしてよ。
「…あの2人?…誰と誰?…僕が、知っている人物なのかな?」
八代様は、相当に気に掛かるご様子ですね。早速、教えて差し上げましたら、現世の名前を知るや否や、お顔を顰められた彼は…。そういう反応になりますよね…。今まで傍観されていらした高白様も、「はあっ!?」と素っ頓狂なお声を上げ、慌てて口を閉じられます。いくら此処が完全な別空間だと申しましても、他のお客には聞こえなくとも、店員には聞こえたかもしれません。
「…彼らが転生したということは、俺の婚約者も転生しているのか…?」
「それは…何ともお答えしかねます。今まで忘れておられた程度なら、あまり気にされない方が得策ですよ。碧琉さんと僕では、立場が異なりますので。僕は彼女との約束があり、此処に居るのも知っていましたし…。」
「…そうか。俺はそこまでして、婚約者に会いたい理由は、なさそうだ。知り合いの彼らが此処に居るならば、婚約者も居るかと思っただけで。」
わたくしがお伝えしたお2人が、前世の高白様の知人だったようで、とても驚かれたご様子です。婚約者も同様に、此処に転生されたかと思われたようですが、前世ではどう思われていたのかしら…と、気になりますわね…。
わたくしも高白様と同様に、前世の婚約者に縛られたくございません。来世にまで引き摺るほどの想いでは、ないのですわ。出来ることなら今世では、別人と恋をしたいと、そういう軽いノリでして。前世の婚約者は運命のお相手ではなかったと、今はそう思っておりましてよ。
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わたくしも無事、乙女ゲームの裏側からのサポートという名目で、制作チームに加わりましたのよ。花南音を守る為というのが、わたくしの目的の1つです。八代様の前世の記憶では、彼方では不穏な動きがあったそうですので、カノンが語られたという乙女ゲームの世界を、忠実に作り上げる必要がございましたのよ。
乙女ゲームを変えてしまうことは、花南音達にとっての来世となる未来が、変化してしまう可能性も高くなることでしょう。そうは 即ち、 必然的にわたくしの前世にも何かしらの影響がある、ということになりますかしら…。
わたくしにとっては過去とは言え、それは…嫌ですわ。輪廻転生の輪の中では結果的に、自らの人生にも拘ることですから。わたくしも前世ではそれなりに全うし、今世でも楽しく有意義に過ごしておりますの。花南音や蒼に一生涯会えない未来などは、望みたくありませんのよ。わたくしには過去でも、花南音には未来である以上、わたくしとの接点がなくとも、カノンには幸せになってもらいたい…と。勿論のこと、蒼にも…ですわよ。
わたくしで協力できることは、何でも致しますと決意したのです。但し、花南音にはわたくし達の前世は、今は…知られてはならないと。少なくとも、乙女ゲームが終了する頃までは、カノンは知らなかったということのようですし、八代様もああ見えましても、カノンの忠告に従われ、忠実に再現されておられるのです。
わたくしだけではなく高白様の目にも、前世でも今世でも好き勝手に謳歌されておられると、映っておりますが……
「…高白様。お2人に、お会いされますか?」
「…いや、いい。無理して会うことはない。現状では、何の関係もない。彼らが幸せでいるならば、それで良い。」
そうですわね。高白様がお会いしても、あの2人には記憶がないのです。会わない方が良いと思いましてよ。わたくしは知り合った後ですし、今更避けるのは失礼なことですわ。これでも…軽いショックを、受けておりますのよ。
わたくしが覚えていても、向こうは全く記憶にない状態ですので、寂しい限りですわね…。わたくしも…前世の共通の記憶を持つ、同性の知り合いに出逢いたい…。前世では、わたくし達と敵対していたお人でも構いませんので、何方か名乗り出てくださいませんか?…半分は、本気ですのよ。
「…ねえ、君さあ。時流さん達と、こそこそ会っているみたいだけど、何をしているのさ?」
こうした日々を忙しく過ごしておりましたら、わたくしが1人で帰宅するのを見計られていたかの如く、ある日突然背後から、とある人物に声を掛けられます。何とも意外な人物の登場に、わたくしは顔を顰めます。わたくしの行動が、何故かバレておりますが…。
…まるでわたくしの行動を、見張っておられるような…。貴方様が気に掛けておられるのは、わたくしではなく花南音なのでは?…それとも、あの時のわたくしの言葉がお気に召されず、わたくしの粗探しでもされておられたとか?
「学校終了後に、わたくしが何をしておりましても、貴方様にご迷惑をお掛けしておりません以上、成野宮様には…関係ございません。別に…疚しいことなども、一切しておりませんもの。」
「貴方の大切な乃木さんには、隠しているだろ?…彼女が知れば、長年の親友に隠し事をされて、悲しむだろうに。碧琉さんまで味方につけたと…。」
「…別に何も、疚しくないですわ。乙女ゲームの設定に、こっそりとご協力させていただくだけですもの。それらも全て、花南音の未来の為なのですわ。彼女に幸せになってもらうの為の、礎でしてよ。」
成野宮様が何を考えていらっしゃるのか、わたくしには理解できかねます。彼は初対面の時から、花南音に嫌みを仰っておられましたので、今度は…悪意めいた感情を、わたくしに向けられたのでは、ないかしら。…ドSかも、しれませんわね。
「…如何やら、俺の思い過ごしみたいだ。君は、時流さんに似ている。時流さんの女性版と、言うべきかも…。碧琉さんは君達2人に振り回され、可哀そうだな。同情するよ…。」
「…あら、成野宮様も案外と、失礼ですのね。わたくしも失礼を承知で申し上げますが、お2人共殿方としては、わたくしのタイプではございません。」
「…ふ~ん。…では、俺のことは……どう思っているの?」
「……はあっ?……何ですって?…今、何と仰られました?」
わたくしがお2人に対し、恋愛感情がないと否定したことで、成野宮様は呆れたように、首を竦められ。八代様の女性版とされたわたくしは、彼ほど腹黒くはございませんわ。高白様を振り回すなどとは、本当に失礼ですね。あのお2人はわたくしの好みではないと、はっきり否定させていただきます。
…ん?…成野宮様からの思わぬ問いかけで、何を仰りたいのか意味を図り兼ねまして。再度、ご確認致しましょう…。おかしな言語を耳に致しましたので。
「…それよりも、時流さんと言い、君と言い、彼女の周りに居る人間は、彼女の問題になった途端、性格が激変するよね…。一癖も二癖もある人間ばかり、寄り付いたような気がする…。」
「花南音とお友達になられれば、よく理解できるようになりましてよ。わたくしが彼女を守りたいという気持ちが、何なのかを…。」
彼は故意に逸らされましたけれど、別に構いませんわよ。彼が苦笑し何かを呟かれるお姿には、わたくし達に対する敵意が、もうございませんものね (笑) 。
…貴方に、言われるまでもございません。わたくしも八代様もそして、杏里紗さんご家族も花南音のお父様も、形は違えど同じ…同士なのですから、と……
乙女ゲームを巡る、裏側のストーリーですね。乙女ゲームの作成に、もう1人加わります。但し、主人公が知らないという展開で…。
以前に登場した律夢が、麻乃に絡んできました。如何やら麻乃に興味を持ったような雰囲気ですが、麻乃本人からは気に留められていなくて。今の彼女は、親友のことで頭が一杯のようですね…。