64話 貴方の弟的な幼馴染
高校生になって初のトラブルでしょうか…。前回からの続きとなります。
いつも通り、花南音視点です。今回、新キャラが登場します。
「……何してるのかな、君達は?…彼女達にケンカを売るなんて、この松園を退学したいと、自ら認めているようなものだよ。」
そう発言する第三者のお声が割り込んで来られて、この場の女子生徒全員で振り返ります。わたくし達3人もまっすぐ前を見つめますと、そこには…わたくしも見覚えのないお人が、女子生徒達の後ろ側の階段に立っておられました。
実際には松園で何度か、お顔も拝見してこともございますし、お名前も存じておりますが、個人的にはお話したことはなく、こうして身近でお会いするのは、初めてなのですわ。彼がご入学されてからは有名でしたから、彼の存在はわたくしでも存じておりましたのよ。
彼の方は『成野宮 律夢』というお名前で、この松園には中等部から御入学されました。これまで彼は海外に住んでおられ、帰国子女という経歴をお持ちですのよ。彼の家である成野宮家は、親族に皇族のお方がおられるという程のお家柄で、とんでもなく上位の身分なのですわ。そのようなお人が、どうしてこの松園にご入学されたのかしら?
何故わたくし達を、ご存じなのでしょう?…これ程のご身分ならば、もっと上級で皇族方も通われておられる学校にでも、御入学されるのが当然ですのに…。何故…どういう理由で、松園を選ばれたのかしらね…。
八代家の令息であられるトキ君も、わたくしの立場から拝見致しますれば、雲の上のような立場のお人ですのに、成野宮様は松園では何方とも比べようのない、最上級の雲の上のようなお立場なのですわ。わたくし達が容易に話し掛けられるようなお相手では、ございませんのよ。この場の女子生徒たちは、固まっておられます。成野宮様が松園高校に通われておられると、外部生と言えども皆さんも、当然の如くご存じのご様子ですね。
「…な、成野宮様?……どうして成野宮様が、此処に………。」
「俺のことをご存じならば、話が早そうだ。貴方達が口喧嘩を売る3人は、貴方達より上位の家柄のお嬢さんだ。先頭に立つご令嬢は、大手企業・鈴宮カンパニー社長令嬢だし、そのすぐ後ろに立つご令嬢は、家柄は多少劣っていようとも、貴方達が崇める日高家令息の幼馴染であり、令息のご両親が2人の仲を既に認められているそうだよ。そして、一番後ろに立つお嬢さんは松園の理事長の姪っ子で、乃木グループ・『乃木・トイ・コーポレーション』の社長令嬢だ。乃木家は武家の流れを汲んだ歴史ある家柄で、彼女は八代家のご令息とも、懇意だという噂だ。乃木さんの従姉である松園の理事長令嬢が、2年生にご在籍だというのをご存じかな?…その従妹の耳に入れば、当然だけど…理事長の耳にも入ることになるよ。」
外部生の女子生徒たちは真っ青なお顔となり、成野宮様をご覧になられて、オドオドとされておられます。成野宮様はわたくし達のことをよくご存じのようでして、わたくし達当人の代わりに、ご説明してくださいます。今までお話をさせていただく機会もなく、彼はわたくし達より1学年年上ですし、廊下ですれ違うことも一度もなかった筈ですが…。
成野宮様のご説明には、外部生の皆さんはビクリと身震いされ、目を見開いてわたくし達を振り返られますが、そのお顔は…段々と真っ青から白くなり、蒼白となられたご様子です。わたくしがちょこんと首を傾げますだけで、彼女達は更に恐れ戦いたご様子でビクッとされまして、何故か…少しずつ後ずさりされていき…。
「確かに…わたくしは乃木家の者ですし、従姉も在籍しておりますが、八代様の件は、今はご関係がございません。わたくし達をよくご存じのご様子ですが、こうしてお会いするのは初にございますわね、成野宮様?…改めてご挨拶させていただきますわ。『乃木 花南音』と申します。お初にお目に上がります。この方達へのご忠告やら助太刀やらには、お礼を申し上げますわ。わたくし共では言葉足らずでしたので、ご説明いただいて光栄に存じます。」
成野宮様のご説明を肯定するかのように、わたくしも発言を致しますと、ガタガタと身体を震わせられた彼女達は、「お許しくださいっ!」と捨て台詞を吐かれて、あっという間に逃げて行かれたのでして。その途中、廊下に転ばれた外部生も数人いらっしゃいましたけれども…。
「…ふんっ!…逃げて行かれるぐらいでしたら、最初からわたくし達に絡まないでいただきたいわっ!」
「…ふふふっ。花南音と麻乃のお陰で、助かりましたわ。」
その様子を拝見されておられた麻乃は、冷たい視線を送っておられ、かなりのお怒りモードでしたわね。蒼も、明らかにホッとされておられます。蒼はこういう言いがかりには、辛い経験をされておられますものね…。これでわたくしも、一安心ですわ。実はわたくし、とある人物のことを、完全に忘れておりましたけれど…。
「取り敢えず、間に合って良かった。君達のことは、実は…時流さんから頼まれていたんだよ。」
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「…まあ。トキ君とはお知り合いですの?…わたくし、何も存じ上げませんでしたわ。申し訳ございません。」
「あら、まあ…。八代様なら、有り得るお話ですわ…。道理で…わたくし達のことを、よくご存じなのですね?」
「…てっきり、麻乃や花南音のお知り合いなのかと、思っていましたのに。八代様は、お優しいのねえ。」
わたくし達3人は、三者三様の意見でしてよ。何故か…麻乃も蒼も、わたくしの顔をチラッとご覧になり、それから成野宮様に話し掛けられますのよ。麻乃はわたくしの交友関係をご存じですし、成野宮様とわたくしが知り合いではないと、理解されておられます。トキ君のことは最近、ご信頼されておられますのね。蒼はまだ、わたくしとの関係は短いですし、わたくし若しくは麻乃のお知り合い、とお考えでも仕方がございません。
わたくし程度の家柄では、成野宮様とは接点がございません。成野宮様は何故か乃木家を持ち上げられましたけれども、この程度のお家柄などは大したことではございません。乃木家以上のお家柄など、世の中には沢山ございましてよ。成野宮様はわたくし達の家柄を、態と大袈裟に仰ってくださり、女子生徒達を追い払ってくださったのですね…。流石は、トキ君のお知り合いでしょうか…。
「僕と時流さんとは、幼い時からの知り合いだ。僕にとって、実の兄のような存在なんだよ。それより君が、時流さんの……ね。…ふ~ん。なるほどね…。」
成野宮様はわたくし達に歩み寄られ、まるで…品定めでもするかの如く、わたくしの顔をじっと見つめて来られます。…何なのでしょうね?…わたくしに敵意を持っておられるかのような、そんな意志も感じられますわ。要するに…わたくしを、よく思っていらっしゃらないのでしょう。
初対面の場で、何故そのように印象を持たれるのか、わたくしも分かり兼ねますけれども、個人的な感情だと思われます。彼の幼馴染のトキ君が、わたくしを気にされることに、ただ気に食わないという理由ではないかと…。
幼馴染という関係にも拘らず、お互いにお会いしたことがございません。わたくしとトキ君は幼馴染という程、長いお付き合いではございませんが、彼もわたくしもお互いを、幼馴染だと思っておりますし、お付き合いの長さだけが幼馴染の基準ではないと、思っておりますのよ。ですのに、ご紹介されておりません。
目の前の成野宮様は、そう思っておられないかもしれません。ご自分がご存じない間に、海外に行かれている間に、ご自分より後から親しくなった人物に、兄のような大事な幼馴染が盗られたと、そう思っておられるのかも…。
「以前から時流さんが、誰かを探しているのは知っていた。まさか、僕より年下とは…思っていなかったよ。僕の兄になってくれたらいいなあ…と、期待してたのに。海外から帰って来たら、時流さんには大事な人が見つかったと言われ、あれだけ慕っていた姉さんが可哀そうだったな…。」
「…成野宮様は、何が仰りたいのですの?…花南音に非があるような申し分は、お止めくださいな。」
「あれ?…そこは、時流さんが非難された…と、心配するところでは?…僕としては別に、彼女を責めるつもりはないけれどね…。」
「いえいえ…。わたくしには、そういう風に聞こえましたもの。それに…八代様のことでしたら、わたくしには関係がございませんのよ。」
「……君…鈴宮さんは、もっと…フワフワした子だと想像していたから、乃木さんを庇う度胸があるとは、意外だ。友達を庇うほど、彼女が大事な存在なのか?…それにしても君は、図太い性格なのかな…。」
…なるほど。そういうこと、でしたか…。成野宮様のお姉様が、トキ君のことを想っていらしたと…そういうこと、ですのね…。成野宮様自身も、お姉さまのお相手が、トキ君ならば問題ないと思っていらしたと…。
お2人が海外に行かれておられる間に、トキ様の傍にわたくしがおりまして、状況が変わったと仰るのですね…。トキ君が何方かを探されておられたのは、わたくしは存じ上げませんし、わたくしには関係のないお話ですよね?
成野宮様の嫌みな口調に、麻乃がわたくしの代弁者の如く文句をぶつけられ、そういう麻乃に成野宮様は驚かれたものの、口の端を上げ愉快そうなお顔で、麻乃を見つめ返され。麻乃は麻乃で、成野宮様に不敵に笑みを浮かべられては、挑むように挑発するように…。
「…あら、当然のことですわ。わたくしの場合、何方がお相手になろうとも、自分よりも大切な親友のことならば、誰だろうと負けは致しませんのよ。それが…例え、八代様だと致しましても、それこそ関係のない事情です。」
「………えっ、君……時流さんを、敵にする気?」
「いざとなれば、そう致しますわね。」
「………」
成野宮様は麻乃に、完全に引き気味でしたけれど、どうなされたのかしら…?
前世編での、新キャラの登場人物、成野宮君です。ちょっとだけ花南音に、ライバル意識を持っているようで、幼馴染が盗られて寂しい…という感じかと。姉を応援していたから、余計になんでしょうね。麻乃は相変わらず、親友ラブです。