63話 貴方のお陰で恋を知る
いつも通り、花南音視点となります。
漸く、花南音達が高校生になりましたので、恋愛もそろそろ解禁……?
今日からわたくしは、高校生となりました。勿論、松園の高等部に進学致しましたのよ。中等部からほぼ全員が進学され、今までとそう変わらない感じです。外部からは、若干の生徒が入学されたぐらいですが、わたくし達のクラスには外部生はおられません。内部生と外部生は別のクラスに分けられ、体育祭や文化祭などの大きな行事でしか関わりません。それでも、殆ど関わることはございませんわ。
内部生と外部生が関わる唯一の方法が、部活となりますわ。松園で部活に入部することは、強制ではございません。内部生で部活に入られるのは、内部生全体の半分ということですが、外部生はほぼ全員が入部されるそうですわ。
わたくしも麻乃も、部活には入部しておりません。中等部から松園に入学されました蒼は、高等部ではお料理研究会に入部されておられます。家業である日舞の練習がお忙しい日高君も、入部はされておられません。蒼とも親友となりましてから、何かと彼女から日高君のお話を聞かされますし、彼からもお話し掛けられたりと、わたくしと麻乃も会話を交わすようになりましたのよ。
家柄も良くイケメンなご容姿の日高君は、内部生に人気のあるお人でしたが、外部生からもきゃあきゃあと騒がれておられるご様子です。稀にわたくし達が彼とお話しておりますと、「あの人達は、誰なの?」というお声が、ちらほらと聞こえて参りますのよ。内部生には既に、蒼と日高君が幼馴染で仲が良い…という事実は、周知の事実となりましたので、お2人の仲を邪険にされる内部生の女子生徒は、おられません。お2人が両想いなのは、わたくしでも分かりますものね。
中学生の頃までのわたくしは、恋愛というものがよく理解出来ませんでした。最近になりまして、漸く理解が出来るようになりましたわ。そうして、周りの人達の恋愛へも目を向けられるようになりまして、麻乃から勧められて読んでおりました恋愛バイブルが、漸く役に立ちましたのよ。
10代前半頃から会社の経営に生かす為に、恋愛小説や恋愛漫画などを参考に読んで参りました。玩具やゲームの開発に、これらのバイブルが生かされておりますのよ。恋愛の駆け引きに関しては、今までは理解不可能でしたのに、最近…トキ君が似たような行動をされますことで、わたくしも…漸く追いついて参りましたのよ。
…なるほど。これが、そうなのですね…。1年ほど前には、壁ドンも経験致しましたし、これも立派な恋愛イベントなのですね…。わたくしにアピールされておられた…ということですのね…。今思い出しましても、超がつくほどに恥ずかしいのですけれども…。あの頃はまだ気付いておらず、気付いた今だからこそ、余計にプラスされますのね…。
(壁ドンを)される側としては、顔から火が吹くほど恥ずかしいと申し上げたいですが、されていらっしゃる側としては、恥ずかしいと思われないのかしら…。また第三者として拝見する側も、尚更恥ずかしいと判明致しましたのに…。
あの時のわたくしは、身動きが出来ませんでした。…いえ、物理的に囲われておりますので、動けない…という意味ではございません。何と申せば良いのか…。彼に見つめられておりますと、恥ずかしいと思いつつも、永遠に時間が止まってしまったような気が、致しましたのよ。実際に、息が止まりそうでしたわ…。
こうして徐々に、蒼と日高君のご関係も理解が出来ましたのよ。日高君は常に、蒼を大切そうに見ていらっしゃいますし、丸分かりという状況ですのよ。蒼も彼にはつんけんされておられますし、麻乃が申しますには、これがツンデレという状態だそうですわ。麻乃から拝見されますと、蒼も分かりやすいそうでしてよ。
それでも日高君は、分かりやす過ぎますわね。常に目で追っておられますし、蒼が彼にお話し掛けられる度、彼は嬉しそうですもの。この状況に今まで気付かぬわたくしは、どれだけ恋愛に興味がなかったのでしょうね…。これでは、麻乃が呆れられておられても、わたくし本人も納得が出来ましたわ。
ツンデレの状態をご存じならば、蒼も比較的分かりやすい反応なのですわ。ツンデレがどういうものか分からず、理解に苦しみましたのよ。麻乃は具体的に教えてくださり、「会話と行動が反対となる状態が、ツンデレなのですわ。」と、蒼の言動を例えにされまして。
…なるほど、そういう状況なのですね…。彼女の仰っておられる言葉が、彼女の行動とは…不一致致しましたわね…。これが、ツンデレなのですか…。
こうして…理屈ではなくとも、理解が可能となりましたわ。確かに、蒼が例えとしましては、分かりやすいと思いましてよ。
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「…まあ。見てごらんなさいな、皆さん。またあの方が日高様に、話し掛けておられますわね…。」
「…本当ですわ。…あの方、中等部からご一緒されているからと、図々しいにも程がありますわね…。日高様は、わたくし達女子生徒全員の憧れですのにね…。」
「そうですわね…。日舞を踊られている日高様は、素敵過ぎますわ…。お1人だけが独占をされるのは、狡いことですわ。」
普段は日高君から蒼に、お話し掛けて来られるのですけれども、外部生の女子生徒達にはわたくし達3人から、彼にお話し掛けておりますと、思われておられるご様子ですわね。謂れの無い陰口を、これ見よがしに会話されておられます。
蒼も日高君もお互いに大切な幼馴染であり、そして…それ以上にお互いが、大切なお人なのですのよ。外野の方々が、何かを申し上げられる資格などございません。
日高君は日舞の世界では、ある程度知名度が有られるご様子でして、外部生の彼女達は、そういう日高君のファンだそうですわ。日高君ご本人もファンにはぞんざいに扱えないと、困っていらっしゃるようでして。
蒼はそういう部分をきちんと弁えられ、彼女からは急ぎのご用事のない限り、お声を掛けに行かれませんのよ。自宅に帰宅してからでも十分にお話が可能だと、常にそう仰っておられますものね…。日高家のご両親からも、彼を諌められるのは蒼だけなのだと、もう結婚も視野に入れておられるとか……(麻乃情報ですが…)
まだこの時は、わたくし達3人も日高君も無視しておりました。この日、わたくし達のクラスでは別の教室での授業がございましたので、お昼ご飯を教室で取りました後に、早めに教室を出発しその教室に移動しようと、麻乃と蒼の3人で廊下を歩いておりました。
わたくし達が行く先には、まるでわたくし達の行く手を阻むように、渡り廊下の真ん中に数人の女子生徒が集まっておられます。わたくし達を睨み付けるように見つめて来られて、蒼だけではなく麻乃やわたくしにまでも、敵意を剥き出しにされておられる彼女達は、どういうおつもりなのかしら?…彼女達にとりましては、蒼もわたくしも麻乃も、彼に近づく図々しい女子生徒なのかしら…。
彼女達は、何をご覧になられておられるのかしらね…。自分達にご都合の良い部分しか、ご覧になられておられないのかしら…。普段から日高君をよくご観察されておられれば、彼からわたくし達にお話し掛けておられることも、彼が常に何方を見つめておられるかも、正確な判断が可能ですわ。
「わたくし達が何をお話したいのか、お分かりでしょうね?」
「…さあ。わたくし達には、さっぱりですが…。そうですわよね?…蒼さんも花南音さんも、そう思いませんこと?」
「…ええ。私も、分かり兼ねますわ…。」
彼女達のリーダーと思われます、お1人の女子生徒が代表されるかの如く、わたくし達に唐突にお話し掛けて来られ、わたくし達の言いたいことが分かりますよね、という雰囲気でしたわ。
恋愛話に鋭い麻乃ですが、完全に惚けておられます。蒼も麻乃に合わせられ、わたくしも無言の同意を致します。
「…嘘吐きっ!…分かっているくせに……」
「…そうですわよ。…惚けないでください。」
「皆さん、落ち着きましょう。貴方達が分からないと仰るのならば、分かるようにご説明しましょうか?…日高様のことですわ。貴方達は、日高様の暗黙のファン協定が存在することを、ご存じありませんの?…日高様の日舞の発表会は、予約が取れないほど大人気ですのよ。何方でもご覧になれるものではなく、暗黙の了解というもので、ファン達は条件を守っていますのよ。同じ高校に通う生徒だからと約束事を破るのは、侮辱されたに等しいことですわ。今後はわたくし達の暗黙の了解に、従ってもらいたいのですわ。」
…何なのでしょう、この茶番は…。先日、わたくし達3人が日高君の発表会に、ご招待された事実を妬まれておられるとか…。日高君のファンだからと、こういう無礼を振舞っても良いこととはなりません。
抑々わたくし達は、彼の友人として誘われましてよ。友人にもファンの約束事を守れとされるのは、何方が厚顔無恥なのかしら…。彼のファンというより、ご自分の意見を優先されておられるのね…。当人を無視される言動に、開いた口が塞がりません。
「申し訳ございませんが、わたくし達は日高君の個人的な友人ですの。わたくし達はファンではございませんので、貴方方とはお立場が違います。ですから何も、教えてくださらなくて結構ですわ。」
「……なっ!……何ですの!?……此方が下手に出ましたのに。…わたくし達を馬鹿にされて、おりますのねっ!」
麻乃が代表するように、友人にはそういう事情は必要ない…と、ハッキリとお断りされましたわ。これに対して彼女達は、激高されましたのよ。…ふう。面倒臭いお人達ですわ…。わたくしが一言、ご忠告致しましょうか?
「…何をしているのかな、君達。彼女達に喧嘩を売るなどとは、苦労して入学したこの松園を、もう…退学したいのかな?」
高校に進学した途端に、問題発生です。但し、花南音達にケンカを売るとは、相手が悪過ぎますが…。さて、最後に出て来た人は…誰なのかは、次回で判明するかな。